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16 オレの敵

「ふむ。カエルラ=プルーマとは全く繋がらない異世界、チキュウか……そんな世界があるとはな」


 ルークの父親、マグノリアは手元の書簡に視線を落としてそう呟いた。

 説明する前に、この世界の住人から「地球」なんて言葉が出たのは初めてで、ミチルはすっかり面食らってしまっていた。


「なな、なんで……それを、知ってるんですか……?」


 震える声でそう聞くのがミチルの精一杯。

 マグノリアは視線を今度はミチルに向けて、難しい顔のまま言う。


「何故って、ルードからの報告にそう書いてあるからだ。お前はくしゃみをして、そのチキュウからやって来た。さらにカエルラ=プルーマの各国を、くしゃみをすることで自由に行き来できる、ともな。合っているか?」


「自由に……じゃないけど、その通りです……」


 ミチルの心は落ち着かない。説明が省けたと喜べる状況ではない。不安と危機感で一杯だった。

 その様子に、マグノリアは一息吐いてから、次にルークの方を見た。


「ルークは当然知っていたな?」


「はい。ミチルから、聞きました。兄さんは、どこから……?」


「さあ……情報元については何も書かれていない」


 揃って首を傾げるループス父子に、ミチルは挙動不審のまま騒ぎ立てる。


「いやいやいや、あのブラコン兄貴、一体何者!? オレはちょっと話しただけだよ? ていうか、会話した覚えがない! エロと殺意で脅されただけなんだけど!?」


「兄さん、とても頭、いいから」


「そーゆー事じゃなくなぁい!?」


 苦笑いするルークの理屈に、ミチルは全く納得出来なかった。



 

「まあ、ルードがお前の情報を知った経緯は私達にも測りかねる。何しろ、あいつは物騒な世界に身を置いているからなぁ」


「ぶ、物騒……?」


 ミチルは嫌な予感がした。ルードに付き従っていた無頼漢たちを思い出す。

 マフィアだったり、元奴隷だったり、裏社会っぽい人達にミチルはこれまでも会ってきた。

 そしてルードもそれと同じ、いやそれ以上に、ヤバくて「現役」の匂いがしたことも思い出した。


「魔教会と一回やり合ったのなら、隠していても仕方ない。我が長男は、革命家だ」


「かっ……!?」


 ミチルは言葉を失った。

 暴力に生きるマフィア、虐げられる奴隷、そんなのは常識範囲内の一般的な裏社会のヤバさ。

 それに比べて──革命って言った? フラン○革命とか、ロシ○革命とかのアレでしょ?

 ヤバさの角度が違う。思想が絡んでしまったら、もうそれは理解が及ばない、真のヤバみを感じざるを得ない!


「……いい機会だから、ルークもよく聞きなさい」


 あわあわするミチルと、いまいちピンと来ていないルークの双方を見たマグノリアは溜息混じりにそう言った。

 それから二人の目を見据えて、改めて話し始める。


「アーテル帝国が、これ以上ラーウスを搾取することは許さない。ラーウスに再び主権を取り戻す。ルードはその旗頭。ループス家はこれを全面的に支援し、ラーウスの地から帝国ならびに魔教会を一掃する!」


「……」


 言われたルークは口を開けて固まった。

 ミチルは恐怖であわあわを超えてガタガタ震える。


 は、反乱!?

 反乱を起こすって、言った?

 そんな事、ほんとに出来るの?


「父さん、でも、ぼくは……チルチル神教の呪いが……魔教会の治療がないと……」


「ルーク、済まない。お前を安全な場所に置きたいばかりに、真実を話すのがこんなにも遅くなってしまった……」


 マグノリアは深く嘆息して、少し間を置いてから息子を見据えて言った。


「お前の『狂化』の呪いは、チルクサンダー魔教によって仕組まれたものだったのだ」


「え……?」


 ルークは静止画のように止まってしまった。

 その横でミチルはグルグルグルっと思考を巡らせる。

 ちっぽけな脳みそが、珍しく一筋の光明を掴んだ。


 その話が本当なら、これはオレ達と利害が一致する!

 ミチルは身を乗り出して、マグノリアに尋ねた。


「おじさん! それって、アーテル帝国とチルクサンダー魔教は、ワルモノってことでいいの!?」


「うん?」


 マグノリアは頷きかけて迷った。ミチルの表現が拙すぎたからだ。


「あ、ええっとね、オレには仲間がいて、そいつらと一緒にアーテル帝国を探ろうとしていたんです!」


「異世界から来たお前が、何故、そんな事を……?」


 ミチルの発言に、マグノリアは更に表情を険しくした。

 それはもう息子の彼氏(仮?)に向ける顔ではない。


 ヤバい! 上手く説明しないと逆に疑われる!

 そう直感したミチルは、なんかウマイこと言えないかと考えを巡らせ、だんだんと混乱していった。


「えっとぉ、だからね、ぽんこつナイトがベスティアでね、ホストアサシンの極悪商人が、小悪魔プリンスと運命の石でね、毒舌師範に帝国の陰謀がね……」


「ミ、ミチル? 落ち着いて!」


 しどろもどろのミチルの背をルークが撫でる。

 ミチルは自分がどこを見ているのかさえわからない程に焦っていた。



 

「お前は、ベスティアを知っているのか?」


 だが、運良くひとつのワードがマグノリアの注目を買った。

 その言葉で影の獣の存在を思い出したミチルは、我に返って正気を取り戻す。


「はい……これまでに何度も遭遇して、仲間と倒しました」


「なるほど。お前には、この世界に関わる使命があるのだな?」


 使命?

 ミチルはそう言われて改めてこれまでを振り返る。


「使命とかは、よくわかりません。でも……」


 イケメンうほうほして過ごした時間はかけがえの無いものだ。

 イケメン達の暮らすこの世界を脅かす魔物は、オレの敵。


「ベスティアは、オレがやらなくちゃいけない敵だ。そのベスティアを帝国が操っているのか、調べたいんです」


 ミチルは湧き上がる決意とともに、マグノリアの目を見てはっきりと言った。


「ふむ。それなら、お前と私達の利害は一致するかもしれない」


 マグノリアも目に光を灯して微かに笑う。


「話してみなさい。お前のこれまでを」


「……オレが話したら、ルークに秘密にしていたこともきちんと説明してくれますか?」


 意外にも取引を持ちかけるように食い下がったミチルに、マグノリアは笑みを漏らして言った。


「いいだろう、お前にも教えよう。情報交換、というわけだな」


 ミチルの反撃が、ここから始まる……!

お読みいただきありがとうございます

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