15 父に見られた痴々
朝がきて、昼が近くなってもミチルは眠り続けていた。
砂漠の国に飛ばされて、ぱっくんちょされかけて、監禁されて脱出して、再びぱっくんちょされかける。
どう考えても一日のカロリーではなかった。疲労がたまっていて当然である。
「ふみゅ……」
しかし強い日差しを感じて、ミチルは少し身じろいだ。
ああ……だるい……
それから背中があったかい。絡められた腕も気持ちいい。
「起きなさい」
誰?
「起きなさい」
だから、誰?
ミチルは嫌々まぶたを開けた。そこにいたのは──
「起きなさい! コドモのくせに朝寝をぶちかますとは、生意気なっ!」
「ぷえぇ……!」
目だけ開けたミチルが見たのは、褐色肌に黒い髭を上品にたくわえた、まあまあのイケオジだった。
昨日のブラコン兄さんがそのまま歳をとったような……
ということは、まさか。
「ルーク! 起きなさい! お父さんはお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!」
やっぱりぃいい! ルークのパパだぁあ!
ミチルは飛び起きようとしたけれど、ルークに抱きつかれているので出来なかった。
「んん……」
そしてルークはいまだ夢の中。
「ミチル……プルクラ……」
多分、夢の中でルークは相当張り切っていて、それが手つきに現れてしまった。
「きええ! ルークゥ! だめぇ!」
ルークのおててがチョメチョメよ!
「起きるんだッ! ルークッ!!」
おじさんの怒号が部屋中にコダマした!
「……はっ! 父さん?」
「るぅくぅぅ……」
目覚めの一発をきめられそうになったミチルはすっかり涙声。
そんなミチルの状態に気づく間もなく、ルークはやっと起き上がった。
その頭上には腕を組んでずおぉぉんと立つ、仁王像のようなおじさん、もといルークパパ。
「愛しの我が息子よ! こんな年端もいかない少年と一晩中××で××しまくってうらやま……じゃなくて、嘆かわしい!」
寝起きに卑猥ワードを繰り出さないでぇ!
ミチルは真っ赤になって否定した。
「そ、そんなこと、してませぇん!」
だが、ルークパパはジロリとミチルを睨んで言う。
「……その格好で?」
「え? ああぁあ!?」
そこで初めてミチルは自分の姿を確認した。パジャマはすっかりはだけまくって、肌色面積八割。際どいトコロがチラリズム。
ルークだって負けてない。もう少しでルークのルークがチラリズム。
「ギャアアァア!!」
ミチルは大慌てでパジャマを正しく着こんだ。ルークはルークをチラリしたまま、まだボーっとしていた。
「まったく、出張から帰ったら、息子とその愛人の痴態を見るはめになるとは、なんと今日は良き日!」
「違うんですぅ! ……え?」
弁解しようとしたミチルをよそに、ルークパパは涙を浮かべて喜んでいるようだった。
「天国の母さん! ルークがついにプルクラを見つけたのだ、喜んでくれ、母さぁああん!!」
「黙れぇ! 奇天烈オヤジィ!!」
今度はミチルの遠慮ない怒号が部屋中にコダマした。
とにかく経緯を説明しなさいと言われたので、ルークとミチルは身支度を整え始めた。
ルークパパと入れ替わりに、執事のカカオが着替えを持って部屋に入ってくる。
どう見ても「昨夜はお楽しみでしたね」という顔で。
もちろん楽しんでも張り切ってもいないが、寸前までいってしまったのは事実。
ルークとミチルは顔を合わせるのが気恥ずかしくてモジモジしていた。
それを見るカカオの目は、新婚初夜を済ませたカップルを見るように、気持ち悪く垂れている。
もう知らん。変態オジサン達にどう思われようと、二人の間はいまだピュワァなのだから。
ミチルはそう開き直って、いつものパーカーを着ると、ようやく気持ちが落ち着いた。
「はあ……やっぱ、コレがいいや……」
大学デビューをした暁には、こんな古ぼけたパーカーは捨ててやると思っていた。
だが、今は、このパーカーこそが、ミチルがミチルでいられるアイテムのように思える。
「ミチル、父さん、食堂にいるって」
「う、うん」
ルークは少し緊張した面持ちで、ミチルの手をとった。
自然と手を繋いでしまったけれど、こんな状態で行ったらまた何を言われるか?
ミチルが不安そうな顔をしていると、ルークはにっこり笑った。
「大丈夫。父さん、きっと、わかってくれる」
ルークは父親にどんな種類の話をするつもりなのだろう。
まさか僕たち結婚します、とか言わないよね。それは考え過ぎだろ! そんなはずないよ! まだそんな、ねえ?
ミチルは一人で百面相をしながら、ルークとともに、父親の待つ部屋に向かった。
「改めて歓迎しよう。ようこそ、異邦のお客人。私が当家の主、マグノリア・ループスである」
入った部屋の奥でヨギ○ーみたいな大きなクッションに体を沈めて、威厳たっぷりにルークの父親、マグノリアは言った。
「ミチルです……」
ミチルはルークとともに、マグノリアに相対するように座る。ルークは胡座をかいているけれど、ミチルは思わず正座してしまった。
「さて、早朝、私の元に不肖の長男、ルードから親書が届けられた。お前達に関する、兄からの所見だ」
やっべえ、あのブラコン兄貴、パパにちくったな。
ミチルはどんな報告がされたのか、おそらくあまり良い事は書かれていない予感がしていた。
「これによると……ミチル、お前は異世界からの来訪者だとあるが、相違ないか?」
「え……」
なんで、あのブラコンアホ兄貴がそれを?
ミチルは頷くのも忘れて、思わず呆けてしまった。
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