10 添い遂げる者
ぴえん超えてぱおんだから、チルするぅ?
ふざけんな、どれも流行遅れワードじゃねえか!
……という、ミチルの脳裏に浮かんだつっこみは実現されなかった。何故なら。
「セイソン様、失礼いたします」
厳かに一礼した後、パオン司教が右手を挙げる。
すると、神官ピエンは早足で部屋の端へ行き、開いている窓……というか四角い穴の前に陣取った。
バタン! ガチャ!
司教たちが入ってきた部屋の入口が、外にいた誰かによって閉められ、鍵がかかる。
あっという間に逃げ場のない密室の完成だ。
平和的でない行動に、ミチルはつっこむことも出来ずに震え上がった。
「……どういう、つもり、です?」
ルークもさすがに顔色を変えて、不信感を露わにする。
「これはループス家の次男殿、申し訳ありません。ですが、こうする理由は貴方ならおわかりになるのでは?」
「兄さん、ことですか」
「左様。ルード殿に知られて、教会を襲撃される訳にはいきませんからな」
ルードってのが、ルークのお兄さん? 教会を襲撃するような人なの? どういう人?
まだ見ぬルークの兄をますます嫌いになりそうなミチルを置いて、パオン司教とルークは会話を続ける。
「マグノリア殿も最近は長男殿の活動に傾倒していらっしゃるとか。何年も次男殿と会えずに、こちらは困惑しておりましたぞ」
「兄さんと父さん、ぼくは関係ない、です」
ルークが緊張しながらそう言うと、パオン司教はそこでにっこり笑って言った。禿げた坊さんのその笑顔が、ミチルには気持ち悪い。
「そうでしょうとも。貴方はカミに選ばれた方だ。まさかセイソン様を召喚し、自身もカリシムスであったとは。素晴らしいことです!」
はい、また新しい単語! 全然話がわかりません!
なんだかよくわからないミチルに、パオン司教はさらに気持ちの悪い笑顔を向ける。
「……是非とも、成就していただきたいですなあ」
ゾゾゾッ! 悪寒どころじゃない、背中が痛い!
ミチルは思わずルークの腕を掴んで、背中に半分隠れた。
「さっきから、何、言ってるです? よく、わからない」
「そうでしょうなあ。お父上には説明申し上げたのですが、次男殿には伝わっていないようで……」
「カリシムス、何ですか?」
ルークが聞くと、パオン司教は口端を上げて答えた。
「カリシムスとは、セイソン様に生涯お仕えする運命の方です。我々は、ルーク殿が真のカリシムスになられるのを望んでいます」
「真、の……?」
「ええ。この世界にセイソン様が降臨される時、複数のカリシムス候補が選ばれます。その中から一人だけがセイソン様と添い遂げる運命をお持ちなのです」
あのー……
話題が壮大過ぎて全然頭に入ってこないんですけど。そもそもオレは、セイソンとかじゃないし。
絶対勘違いされてるよね、コレ?
そんなミチルの心を見透かすように、パオン司教はミチルを見て笑った。
「セイソン様には、心当たりがおありでしょう?」
「えっ……」
言われてミチルはギクリと肩が震える。
ジェイ、アニー、エリオット、ジン、それからルーク。出会ったイケメン達の顔が頭の中を駆け巡る。
まさかね。
ていうか、「添い遂げる」って言った? まさかね!
「ミチル、イケメン、たくさん知ってる、言ってた」
「ちょっと待ってルーク! あいつらもルークも関係ないよ! オレはセイソンじゃないから!」
慌てて首をぶんぶん振るミチルに、パオン司教は頭を下げながら言った。
「いいえ、貴方はセイソン様です」
「黙れ! ハゲちゃびん!」
「おお、セイソン様のお言葉は我ら常人には測りかねる尊さ……」
「やだあ! それ、既視感なんだけどぉ!」
全然こっちの話を聞いてくれない。アルブスで王様に言われた時と同じだ。
ミチルは頭をガシガシ掻いて憤慨を主張した。
「あの、セイソンとか、カリシムスとか、それ、チルクサンダー魔教、教えですか?」
「いいえ」
ルークの問いに、急にスンとなって答える司教の姿に、ミチルはずっこけそうになった。
そこで否定するの、意味わかんないんだけど!?
「セイソン様とカリシムスは、チルチル神教における聖人であらせられます」
もーまた出たー。新しい単語ー。
ミチルはたくさんのニューワードにげんなりだった。
「意味、わかりません。それなら、この教会、関係ないのでは?」
「いいえ、大有りです」
パオン司教は、ニヤリと笑って首を振る。
その笑みは、なんだかもう、聖職者とはかけ離れているような気がした。
「セイソン様とカリシムスをこちらの手中に収めれば、チルチル神教は存在意義を失います」
ちょっと待ってよ。それじゃあ、チルチル神教って……
ミチルは再びエリオットからの知識を思い出す。アルブスやカエルレウムと同じカミサマを崇める、独立宗教国家のこと?
「貴方がたをこちらに改宗させれば、チルクサンダー魔神がこの世界の唯一神になるのです」
やっぱりぃいい! 典型的なカルト宗教の考え方ぁ!
ミチルは恐怖で震え上がっているが、ルークは冷静に問い直す。
「何故、そんなこと、可能ですか?」
すると、パオン司教は暗く笑いながら荘厳に言ってのけた。
「よろしい。お話して差し上げましょう。我らがチルクサンダー魔教の成り立ちと、チルチル神教との因縁を……」
世界の真実が、紐解かれる……!?
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