5 近づく熱
「ちきゅう、にほん……それが、ミチルの故郷?」
くしゃみをした事により、この異世界に転移してしまった身の上を丁寧に説明したところで、ハタと思い出した。
肝心な確認をしていなかった。でも、多分、大丈夫じゃない?
「あのさ、ルーク。ここって、カエルラ=プルーマって世界だよね?」
さすがに世界の名称くらいはもう覚えた。
ミチルの問いに、ルークは大いに頷く。
「うん。そうだよ。それで、ミチルはカエルラ=プルーマじゃない、世界から来た、でしょ?」
「そーそーそー! あー、良かった!!」
異世界がいくつあるかは知らんけど、ミチルが転移しているのはカエルラ=プルーマ、ただひとつ!
そこさえ外れなければ、後はなんとかなる。他のイケメン達もきっと近くに転移している。
ミチルは根拠なく、そういう自信があった。
「最初は青の国、それから赤の国、白の国、黄の国。ミチル、たくさん旅したんだね」
「うん? 何の国だって?」
指折りながら確認していくルークの言葉に、ミチルは首を傾げる。それで、ルークは改めて言い直した。
「青の国は、カエルレウム。赤がルブルム、白はアルブス。そして、黄はフラーウム。この辺では、そうやって言います」
「そぉなんだぁ、色の名前だったんだねえ」
ミチルは感心してしまった。色の名前で統一されたそれぞれの国家。その設定はかなりファンタジーっぽい!
「そして、ここは灰色の国、ラーウス。その首領国、アーテルは黒の国、言います」
「えっ!? アーテル!?」
不意に言われた知っている単語に、ミチルはドキリとした。
アーテル帝国は、ミチル達がベスティアを操る黒幕だと仮定して、調べようとしていた国だからだ。
「うん。ラーウス、アーテル帝国の支配下。だから僕の国、王様いない。自治区で分かれて、区長がまとめてる。それを統治するのが帝国の皇帝」
「そ、そうなんだ」
ミチルはフラーウムで聞いた話を思い出した。
『アーテルは、今一番ノリノリでイケイケの独裁国家だよ。今の皇帝が帝位についてからは急激に領地を拡大して、近隣諸国を次々に属国化してる』とは、エリオットの言だが、その領地を奪われた近隣諸国が、今いるルークの国なのだ。
ただ、属国にされたわりに、ルークの家はだいぶ豪華だ。ここ以外の家はわからないけれど、非道に統治されているようにはミチルには思えなかった。
アニーのいたルブルムは植民地と形容されただけあって、非常に貧しそうな雰囲気だった。なんというか退廃的な感じで、だからこそ、マフィアなんかが幅を利かせていたのかもしれない。
それに比べて、区長に自治を任せているという事からも、アーテルは思ったよりもまともにラーウスを統治しているのかもしれない。
ルークの言葉を鵜呑みにした場合の、第一印象に過ぎないが。
「それで、ミチルは、ええと、そのイケメン? という人達と、はぐれてしまったの?」
「うん、そう。多分、この近くに一緒に飛ばされてると思うんだ」
「どんな人?」
そう聞くルークの表情は少し暗くなっていた。
だがミチルは暢気にも、イケメン四人衆の説明を始める。
「えっと、ジェイは黒髪長身の超絶イケメン騎士で、アニーは金髪碧眼の極上イケメンアサシン。エリオットはおかっぱ頭で色白の究極イケメン王子、ジンは銀髪で長髪の至高イケメン師範!」
「それは……とても綺麗な男性、いうこと?」
「そーそーそー! あんなのが四人揃ってたら、多分夜でもビッカビカに光ってるから、すぐわかると思うんだよね!」
「はあ……」
うっ! まずい、引かれてしまったか!?
初めて眉をひそめるルークの反応に、ミチルは少したじろいでしまった。
「ミチルは、その中の誰かが、コイビトなの?」
「えっ!?」
聞かれたミチルの胸が急に高鳴る。イケメン四人の顔がかわるがわる浮かんでいく。
腕の中で眠りーの、生腰を撫でられーの、30回キッスされーの、熱い気を流されーの……嫁ぎーの!?
「にゃああああっ!」
心臓も、大事なトコロもバックバク!
ミチルの奇声にルークはただただ驚いていた。
「ミ、ミチル?」
「ちち、違うよ!? 全然、そんなんじゃないから! ほんと、ホントだからっ!」
真っ赤になったミチルの顔に、そんな信ぴょう性があろうはずもない。
ルークは少しきゅっと口を引き結んでから、何かの決意をこめた瞳でミチルを見た。
「ミチル、そこに、ぼくが入れる余地、ありますか?」
「ふぇぇえっ!?」
真剣なルークの瞳の光。それに射抜かれたミチルは動けなくなる。
「……隣、座っても、いい?」
「ほへぇえ!?」
ミチルがあわあわ焦っているうちに、ルークはサッと立ち上がってミチルの座る長椅子に腰掛けた。
その体重が、椅子の足を少し軋ませる。
「ミチル」
綺麗な指が、ミチルの頬に伸びた。
「ミチル……」
きえええ! ちょっと待ってぇ!
ミチルの悲鳴は声にならない。
「ぼく、ミチルが……」
ルークの体温がどんどん近くなり、その美しい顔もどんどん近づいてくる。
「ふあ……」
翡翠色の瞳が、潤んで光り、ミチルを捕らえてしまっていた。
頬を撫で上げる指が温かく、熱い吐息がミチルの唇に迫っていく。
キミが、欲しい……
そんな囁きが、ミチルの体を巡り、甘い痺れをかけていくのだった。
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