4 ふぉーりん・えんじぇる
僕の部屋でゆっくりしようよ♡
誰が聞いてもわかる、口説き文句の王道である!
褐色イケメン、ルーク・金持ち・おぼっちゃまの自室に通されたミチルはど緊張状態で長椅子に座っていた。
玄関ほどではないがピカピカの床。なんかすごい複雑な模様の絨毯が敷かれている。多分、手織りで超高級!
執事のカカオは二人が部屋に到達するのとほぼ同時に、ワゴンにお茶とお菓子をふんだんに盛って、すぐに立ち去った。
去り際に、ルークに向けて親指を立ててウィンクをバチコーンとかましていった!
今、ミチルの目の前でルークが甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれている。
だがしかし、ミチルの視線後方にチラチラ映る天蓋付きのゴージャスなベッド。それがミチルの気を逸らし、緊張を高め、〇〇がムズムズしてしまうのである。
「さあ、ミチル。お茶、どうぞ」
エキゾチックな装飾が施された高そうなカップに、温かい飲み物が淹れられた。ミルクと砂糖の甘い匂いがミチルの鼻をくすぐる。
これを飲んでしまったら、後ろのベッドに直行なのだろうか。ミチルはミルクティーを凝視したまま固まった。
「あの、ミチル?」
「ふぇっ」
──そんなに緊張しちゃって、実は期待してるんだろ? 体は嘘がつけねえな。
ミチルの妄想は膨らみきって、ついに幻聴まで聞こえていた!
「ふぇ、ふぇふぇふぇふぇ……」
「ごめんナサイ、カカオが、失礼なこと、言いました……」
「フェッ!?」
てっきり長椅子に座って密着してくるのかと思ったら、ルークはミチルと距離を置いた小さい腰かけから動かずに頭を下げた。
「カカオ、とても心配症。ぼくが、いつも一人でいるの、悲しんでる。だから、ミチルと帰ってきたの見て、嬉しくなってしまった、思います」
「フェー……」
妄想と現実の乖離に、ミチルは気が遠くなりそうだった。
「ぼく、ミチルに、そんなことしません。そんな気持ちもなくはないけど、ミチルは大切、だから」
ルークは辿々しい口ぶりで、懸命に言葉を探しながら、不器用だけど真摯な気持ちを口にする。
「ミチルが怖がる、しません。本当は触れたいけど、我慢します。ぼくは、ミチルのこと、知りたい。ミチルもぼく、知ってほしい」
な。
なな。
なんてジェントルマン!!
ところ構わず、尻だの腰だの触ってくるアイツらに、聞かせてやりたい今のセリフ!!
ああああ、そして、そんなヤツらにオレもすっかり染まってしまっていた。
オレの爛れた妄想が、こんな純朴ボーイを汚してしまったなんて!
こちらこそ、ごめんなさいぃいいい!!
ミチルが脳内土下寝をしていると、ルークは不思議そうに小首を傾げていた。
「ミチル? どうしました?」
やだあ! それ、可愛い!!
まぢ天使!
いや、待てよ。よく聞いたら、下心はあります、とも宣言されたような?
いやあ、まっさかあ! こんなに純粋な天使のような彼がぁ?
ミチルは目の前の、清らかなイケメンにすっかり舞い上がってしまい、都合の悪いことは彼方に追いやった!
「何でもないです! まずはお友達から。そういうことでしょ?」
「トモダチ……はい、いいですね!」
オー! イッツ、エンジェルスマイル!
ミチルはルークの笑顔にあてられて、己の心がどんどん浄化されていった。
ああ、これが真の賢者タイム……
「ミチルのこと、知りたい。でもここ、ぼくの家。だから先に、ぼくのこと、教えます」
「えっ、いいの?」
「それからミチルが、教えてもいいことだけ、ぼくに教えてください」
や、優しい……!
直前があの毒舌師範の尋問だったから、比率が天井知らず!
先に素性を明かしてくれるとか、真の常識人!
ミチルが感激していると、ルークはにこやかに語りだした。
「ぼくの名前、ルーク・プルクラ・ループス。歳は18。ここ、アロニア区という街で、区長のマグノリア・ループスの次男です」
「えっ、18歳なの?」
「はい」
「オレも18!」
ミチルは同い年の青年に初めて会って興奮してしまった。だが、ルークは目を見開いて少し固まっている。
「……」
「?」
「ミチル、ぼくと同い年。ソレハトテモ嬉シイデス……」
気を使われたぁああ!
驚きを懸命に飲み込んでるぅうう!
「少し、年上かと思ってました……」
へ? 子どもだと思ったのではなく?
「ミチル、とても美しいから」
ルークはまたもにっこり笑う。それはお世辞などではない、心からの笑顔であった。
「良かった。ぼくが年下なら、とても相手にされない、思ったから」
ええー、ちょっと待って、なにぃ〜?
オレってそんなに大人っぽい〜?
これまで子ども扱いされてきたミチルは思わず顔がニヤけてしまう。
少しはオレも自立できたんだ! なんか急に自信が湧いてきた!
「もし嫌じゃなかったら、トモダチみたいな喋り方、いい?」
甘えるような上目遣いで言うルークに、ミチルはすっかりメロメロになっていた。
「あったりまえじゃーん! タメなんだからさ、もっとフランクにいこうよ!」
「……ありがとう、ミチル、大好き」
ど直球の好意、キター!!
まだ上があったのかと驚くような、ルークの極上笑顔に、ミチルの心はロケットみたいに成層圏を突き抜けんばかりに急上昇!
「えへ、えへえへ、うへへ」
笑いが止まらないミチルに、ルークは少し身を乗り出して尋ねる。
「ミチルは? どうやって、ここまで、来た?」
「うん、オレはねえ……」
有頂天に居続けるミチルの舌が滑る滑る。
そうしてミチルは、笑顔を絶やさずに全肯定で聞いてくれるルークに、隠すことなく全てを打ち明けた。
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