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12 謎の儀式

「その寺とは、どういう所だったのだ?」


 ジンのかつての同僚、ガザニア・ビーストから武術を教わったという少年、ミモザ。彼は武道大会の直前に、ある寺に連れていかれたと言う。その様子を聞こうと、ジンは自然と前のめりになっていた。


「それが、お寺だって言うのにお坊様がいないんです。なんか黒くて長いひらひらの服を着たおじさんばっかり。建物も全然お寺じゃないです。壁がね、なんかおっきな石を輪切りにしたみたいなツルッとしたの!」


 ミモザの説明の後半部分に、ミチルはハッとした。


「ねえ、その壁ってレンガみたいに石を積んだ継ぎ目とかが無かったんじゃない?」


「そうです、その通りです、ミチルお兄さま! だからなんか見た目が冷たくて僕は嫌いだなあ」


「……コンクリートかもしれない」


 ミチルがそう呟くと、エリオットもそれに反応した。


「おれ達が根城にしてた、あの廃屋の資材ってやつか? テン・イーと繋がってるなら、可能性はあるな」


 テン・イーは得体の知れない建築資材を使って、未知の建物を各地に建てているかもしれない。そんな想像をこの場の皆がしたが、それ以上は確証もなければ情報もないので、一旦棚上げになった。だからミチルはミモザに起こった事を聞いてみる。


「ミモザくんは、そのお寺みたいな所で何をされたの?」

 

「お兄さま、思い出すのが怖いから、お膝に座ってもいい?」


 きゅるんと瞳を潤ませる、ショタの皮を被ったセクハラオヤジことミモザ少年のおねだりに、若いイケメン三人はガタッと立ち上がって異を唱えようとした。それをジンの怒号が止める。


「堪えろ! おい、餓鬼。己の行動に、命をかけるんだな……?」


 そんな怒りのオーラをむんむんに放ってすごんだ毒舌師範を綺麗に無視して、ミモザはミチルの膝にぴょいと飛び乗った。


「うふふ! お兄さまはあったかくて柔らかい! ……すんすん」


「ああっ、あのガキ、ミチルの匂い嗅いでる!」


「堪えろ、アニー殿。私の胸はすでに消炭だ」


「ジェイぃいああっ!」


 がっちり肩を組んで仲良く歯軋りする三人のイケメン達。ミチルはなんだかもう、どうしたらいいのかわからない。


「お兄さまぁ、ぎゅってしてぇ♡」


 ミチルの手を自らの腰に巻きつけるミモザの所業に、銀髪の鬼がとうとうキレた。


「オノレェ! お前の人生、今ここで終わらせてやろう!」


「先生ぇ! 落ち着いてぇ!!」


 ミチルはとっさにミモザを庇い、イケメン三人衆がジンを抑えた。この瞬間は、クソガキの完全勝利であった。



 

「もう、ミモザくん、頼むからちゃんとお話して……」


「はい、お兄さま♡」


 疲れ果ててしまったミチルの腕は、ご希望通りミモザの腰に回されている。小さなお腹のあたりに置かれたミチルの両手を、すりすりさわさわしながらミモザは話し始めた。


「ええっとぉ、そのお寺はなんとか様っていうのを祀ってるって言ってました。難しくて覚えられなかった!」


「チル神様じゃねえのか?」


 エリオットが聞くと、ジンが顔をしかめたまま補足した。


「我がフラーウムではその呼び方はしない。ここでは単純に仙人などと呼ばれている」


「あ、なるほど。仙人て言うのが、カエルレウムやアルブスで言うチル神様なんだね」


 ミチルは以前にジンから教わった、皇帝に縁のある腕輪の逸話を思い出す。するとミモザも憮然となって言った。


「仙人様をお祀りしたお寺なら僕だってわかります。でもそこはそういうのじゃなくて、その、チルモニョモニョ……さまって拝んでたような?」


「チル? チル、なんだ?」


 エリオットが身を乗り出して聞くが、ミモザは首を捻るだけ。


「……よくわかんない」


「まあいい。他にそこで見たものは?」


 溜息混じりにジンが促すと、ミモザは少し体を震わせながら話し始めた。



 

「黒いおじさんがいっぱい拝んでて、その中に僕が呼ばれました。ちょっとだけ派手な黒い服のおじさんが一人いて、僕に変な言葉をずっと言ってた……」


「何かの、儀式かな……」


 エリオットもまた、ジン同様にミモザの説明を想像しようとして、難しい顔をしていた。


「しばらく変なお経みたいのを聞かされて、派手な服のおじさんが黒い牛の角みたいなのを持ってきて……」


「角? そんな宗教儀式は聞いたことがないが……」


 元公務員と言ってもいいような職種のジンは宗教儀式にも詳しい。そのジンが更に不思議そうに首を捻っていた。


「それで、その黒い角を、おじさんが僕の胸に突き刺したんです」


「えええっ!?」


 ミチルは仰天して、思わずミモザの胸を撫でてしまった。


「あん、いやん、お兄さまぁん♡ くすぐったいですぅ」


 悦に入った声で悶えるミモザに、ミチルは思わず手を離して謝った。


「ごごご、ごめん!」


 やばい、捕まる! そんな危機感をミチルが感じていても、ミモザはとろけた顔で口元を緩ませていた。


「ええー、もっと触ってもいいんですよぉ」


「絶対触らないからっ!!」


 チェッと残念そうに舌打ちしたミモザに、白けた顔でエリオットが聞いた。


「よく死ななかったな、お前」


 するとミモザは首を振って答える。


「全然痛くなかったです。傷だってついてないし。でも、角で刺された後はよく覚えてなくて。ずーっと頭に黒い靄がかかったみたいで……」


「なるほど、そういうことか……」


 エリオットが軽く頷いたので、ミチルは反射的に尋ねた。


「どういうこと?」


「多分、そのクソガキは何かの魔術的儀式で、洗脳されてたってことじゃねえかな」



 

 洗脳による、人格改変。および、体力の増強。

 武道大会でのミモザの姿を思い出せば、そんな効果が脳裏に浮かぶ。


 謎の商人、テン・イー。それから鐘馗(しょうき)会。

 彼らは未だ謎のベールの包まれていた。

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