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11 大商人の影

 ど下ネタを披露したミモザ少年は、ただのませたエロガキではなかった。

 奴隷、と言うワードが出てきた時点でミチルを含めたその場の大人全員が、彼の境遇を思い思いに妄想して黙ってしまったのだった。


「あー、ちょっと待ってくださいよ。皆さん、今、とても口では言えないようなもの凄い想像してるんじゃない?」


 ギクゥ! ミモザの指摘に一同はもれなく肩を震わせる。

 安穏と暮らしてきたミチルでさえ、なんか児童×××的な想像をしてしまったので、もっと大人のイケメン達は更にすごい事を考えた変態もいるだろう。


「ないない! そんなのはもっと裏社会の、だいぶファンタジーな世界ですよぉ」


 明るいミモザの言葉にミチルはホッとしていたが、公的裏を知る元スパイのジンと、まんま裏を知る元マフィアのアニーは複雑な顔をしていた。


「口減らしで親に売られた僕は、善良な奴隷商人のおじさんの所に行ったんです」


 善良な奴隷商人、とはこれいかに。

 ミチルの現代社会の常識ではおかしな言い方だが、昔には確かにそういう商売が成り立っていた。ミチルは歴史の授業をうっすら思い出して、なんとか飲み込んだ。


「僕もね、大きな貿易をしている商人の家に奉公に行くことが決まってました。三食ついて、文字や計算も教えてくれるって言うんですから、実家にいるより全然いいじゃん! って思ったんですよねー」


 ……実家のことは聞かないでおこう。誰もがそんな事を考えた。

 しかし、その内の二人だけは更に別のワードにも食いついた。


「大きな貿易をしている商人、か……」


 ジンの呟きに続けて、アニーも眉をひそめて怖い顔で言った。


「テン・イーか?」


 するとミモザはポンと手を打ってはしゃいで答える。


「当たりです! なんでわかるんですか? テン・イー様ってそんなに有名なんですか?」


「有名っていうか……」


 ミモザが鐘馗(しょうき)会に関わっていることはほぼ確定している。その鐘馗会の裏にいるであろう、テン・イー。そんな状況で「大きな貿易商人」なんて言われたら、もうそれはテン・イー以外に考えられない。

 その説明をどう言うべきかミチルが迷っていると、ジンは腕を組んでミモザに続きを促した。


「話を続けろ」


「おじさんの命令は聞きません!」


「ミモザくん、お願い」


「はい、ミチルお兄さま!」


 ミモザの態度は一貫している。10歳ながら見上げた根性。ジンはさらに険しい顔で「めんどくせえ」と呟いていた。



 

「一旦、僕はテン・イー様のお屋敷に連れられて行きました。そこで僕を見るなり、テン・イー様は鐘馗会に行けっておっしゃったんです」


 うわ、マジ繋がった! 一同はミモザに悟られないように密かに高揚する。

 だいたい事態は確定したが、ミチルはミモザの話を一通り聞くことにした。


「なんで?」


「んー、よくわかりません。なんか僕の髪を見て珍しいっておっしゃってました。聞いたら鐘馗会ってテン・イー様の下請けだって言うじゃないですか。なんで僕だけ? 絶対待遇が下がるってがっかりしたんです!」


「確かに、この国で桃色の髪は珍しいが……」


 言いながらジンは首を傾げていた。それを気にせず、ミモザは一気にまくしたてる。


「でもぉ、鐘馗会に行くなら実家にさらに倍のお金をくれるって言うから。そう言われちゃうと行かざるを得ないじゃないですかぁ」


「そっか……ミモザくんは偉かったんだね」


 若干10歳で、家族のためにそこまでできる子どもなどミチルは会った事がない。彼の境遇にうっかり涙が出そう。


「お兄さま、ボク、ほんとはさみしかったの。かなしくて、つらかったの……」


 急に情に訴え始めるミモザに、迂闊なミチルはすっかり引っ張られた。


「うんうん、ミモザくんは頑張ったんだね」


「お兄さまぁ! わあーん!」


 泣いたフリしてミモザはミチルに抱きついて、その胸に顔をグリグリッ!


「ああん……っ!」


「……ニヤリ」


 こいつはショタの皮を被ったセクハラオヤジだ!

 ギャル男の皮を被ったショタこと、エリオットがすぐさまミモザをミチルからひっぺがした。


「クソガキがぁ! 調子乗ってんじゃねえぞぉ!」


 子どもからの刺激にうっかり反応してしまったミチルは、もう恥ずかしくて逃げたい気分だった。



 

「……それで、鐘馗会に行って、お前は何をさせられた?」


「おじさんの命令は──」


 同じように言いかけて、ミモザは目の前のジンの雰囲気に息をのんだ。

 銀髪が、青い炎をまとって、逆立ちながら今にもミモザを締め上げんばかりのオーラを放っていたからだ。


 さすがのクソガキも、生死のピンチを感じて小刻みに震えながら語る。


「ええっと……鐘馗会で奉公させてもらえるのかと思ったら、すぐ側の道場に預けられたんですぅ。そこにいた銀狐師匠から、ずうーっと武術を習ってました……」


 カタカタブルブルと、借金を背負ったチワワのようになってしまったミモザは、ようやく本当に涙目になっていた。


「こえー……」


 その様を、エリオット始めアニーもジェイも青ざめながら見る。

 

「そ、れ、で? 何故お前は、あのような邪気をはらんだまま武道大会に出ることになったのだ?」


 まだ続く、毒舌師範の尋問。

 チワワ、もといミモザは怯えながらミチルの腕を掴む。さすがにそれは咎められなかった。


「ぼ、ボクも、大会の前のことはよく覚えてないんです! なんか変なお寺に連れていかれてから……」


「変な、寺……?」


 黒い獣の秘密。その一端が、今、紐解かれようとしている。

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