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婚約破棄された前世春呼びの魔女は、魔族の王に溺愛される

作者: 雨花 まる

「ミエル・ノワ・プリムヴェール公爵令嬢! 今この時をもって、君との婚約を破棄する!!」


 そう声高らかに宣言したのは、この国の皇太子であるカクテュス・エピヌ・オルタンシア第一王子で。


「はて……?」


 その皇太子に名指しされたミエルの蜂蜜色の髪がさらりと揺れたのは、彼女が不思議そうに首を傾げたから。


「ごめんなさい、ミエル様……!」


 などと涙声を出したのは、皇太子に肩を抱かれたフリュイ・アルブル伯爵令嬢である。


「謝る必要などない」

「カクテュス様」


 皇太子と伯爵令嬢は、熱く見つめ合うと手と手を取り合う。甘ったるい雰囲気を周囲に撒き散らしながら、再びミエルの方を向いた。


「僕は気づいたのだ。これこそが、真実の愛なのだと!! 新たにフリュイとの婚約を結ぶ!!」


 豪勢なパーティー会場に皇太子の声がやけに大きく響き渡ったのは、いきなりのことに周囲が静まり返ったためであった。

 しかし一拍置いて、周囲はやっと状況が呑み込めたのか一気にざわめきだす。


「どういうことだ?」

「わ、分からん。しかし、どうして今日なのだろうか」

「よりにもよって……」

「プリムヴェール公爵令嬢の誕生日当日に」


 今日は、ミエルの二十歳の誕生日であったのだ。この日が終われば、皇太子と正式に婚姻を結ぶことになっていたというのに。


(何が駄目だったのだろう?)


 正直、誕生日パーティーが最悪なことになっていることなどミエルにはどうでも良かった。

 目下最大の問題へと視線だけを向ける。男の期待に満ちた瞳と目が合って、ミエルは深々と溜息を吐き出した。


「困ったなぁ」


 その声音は本当に困っているのか判断しかねる緩いものであり、表情は相も変わらず不思議そうなまま。


「何を困ることがあるのです?」


 ミエルの言葉に反応したのは、愉快そうな低い声であった。声の主は先程、ミエルが視線を遣った男。

 男は周囲の視線を気にもとめずに、ミエルの傍まで悠然と歩いてくる。手の届く距離までやってきた男に向かって、ミエルは手の平を突き出した。それ以上は近寄るなと言うように。


「駄目だよ。まだ、そうと決まった訳ではないからね」


 男はその仕草と言葉に、悲しげに眉尻を下げる。しかし、素直に言うことを聞いて歩みを止めた。


「ここからの逆転は無理でしょう。愛しのミエル」

「……そうかな?」

「寧ろ、どう逆転するつもりだったのですか」

「んん? ん~……考えていなかった」

「貴女のそういう所も全て愛しい。私以上に貴女を愛している者はいないと何度も言っているじゃないですか。さぁ、早く! 約束通り、私の元へ」


 うっとりと目を細める男に、ミエルは呆れたような視線を返す。

 第三者の介入に、周囲だけではなく皇太子と伯爵令嬢も戸惑ったような顔をしていた。


「はてさて……。どうしたものかなぁ」


 ただ一人、ミエルだけが達観したような様子で顎に手を当てる。


(どうしてこんなことになったのだったか……)


 ミエルは懐かしい記憶を探して、目蓋を閉じた。



******



 この星では、季節は勝手に移り変わっていくものではない。神に選ばれし四人の魔女が、各地を巡って季節を運んでくる。

 四人の魔女はそれぞれこう呼ばれた。


【春呼びの魔女】

【夏呼びの魔女】

【秋呼びの魔女】

【冬呼びの魔女】


 魔女達は自由気ままにやって来ては、不可思議な力で季節を呼んでは去っていったという。


 中略


 とある国が、魔女を独占しようとした。しかし、その企みは失敗に終わる。何故か。それは、魔女に抵抗され殺めてしまったためである。

 その事件を受け、各国の王が集まり魔女についての取り決めが成された。何十年かに一度その会議は開かれ、条約は今の形となる。

 その中で【魔女】は【聖女】へと呼び名が変わり、保護対象へ。条約に乗っ取り、聖女は手厚く護衛されながら各地へ季節を運ぶ。


 中略


 聖女は、聖職者、王侯貴族、平民等階級に関係なく産まれる。ただし、女性に限る。

 今もなお詳細は明らかになっていないが、産まれ落ちた瞬間から寸分違わず二十年。その時に不可思議な力が発現し、聖女へとなる。


【夏呼びの聖女】

【秋呼びの聖女】

【冬呼びの聖女】


 以上三名は一度として途切れることなく確認されており、季節も問題なく訪れている。

 しかし、【春呼びの魔女】が不遇の死を遂げたためか。因果関係は不明であるが、【春呼びの聖女】はそれ以後一度として確認されていない。

 故に、この星には二百年程【春】は訪れていないのである。


――――『聖女の歴史』より抜粋



 ミエルは読み終わった分厚い本を閉じた。

 ここは公爵家自慢の庭園にある東屋。屋敷の中は息が詰まるため、ミエルはよくここで読書をして過ごす。


「不遇の死、か……」


 ミエルの最初の記憶。そして、大魔女フルールの最後の記憶。それは、残酷なまでに醜悪なものであった。

 今でも鮮明に思い出せる。沢山の人間達、むせ返るような血の臭い、飛び交う怒号。冷たい地面の上で、大魔女フルールは――春呼びの魔女は永遠の眠りについた。

 筈であるのに、これである。

 ミエルは産まれた瞬間に理解した。自分は転生したのだと。そういった魔法を死ぬ間際に使用した訳でもないというのに……。


(これが神の御慈悲なのか、それとも嫌がらせなのか。どちらにしても、面倒なことだなぁ)


 ミエルは怠そうに溜息を吐き出す。どうせならば今世は、平々凡々に平和に暮らしたかった。

 それが何故よりにもよって、公爵令嬢なのか。しかもこの公爵家、家庭内が凄まじくギスギスしているのだ。

 父は外で女遊び。母は弟にご執心。弟は跡取りだと甘やかされてワガママ放題。姉であるミエルは、政治の道具として皇太子殿下と婚約。


「腐っているな」


 皇太子はまだまだ子どもっぽいが、上手くやれば立派な皇帝になるだろうとミエルは考えている。このまま皇后になれれば、一番良いのかもしれない。

 問題があるとすれば、それは春呼びの聖女が確認されていないという事実だ。女性の婚姻が認められているのは、二十歳から。何故なら、魔女も聖女も婚姻が認められていないからである。


(神は、私をまだ働かせるつもりなのか?)


 嫌そうにミエルの眉根が寄る。


(いや、よそう。嫌な予感ほど良く当たるとかいうが、信じない。私は信じない!!)


 大魔女フルールの旅は、長かった。

 魔女の後継は五百年に一度産まれ、二十歳に力が発現した瞬間に代替わりするのが通例であった。

 力が発現し魔女になると千年、長いと二千年は生きることになる。それまでは普通の人間と変わらなかったというのに、だ。

 それは五百年もの間、季節を運ぶ使命を全うした褒美だとも言われていたが、真意は不明。しかし、フルールはその隠居生活のために頑張ったと言っても過言ではなかった。

 だというのに、いつまで経っても後継は現れず……。千年は春を呼び続けた。後半は最早やる気の欠片もなく、惰性で各地を巡っていた程だ。


「今世はゆっくり過ごしたいものだ」


 春呼びの聖女などになってしまっては、また途方もない旅に出ることになる。昔は自由気ままに自分の好きな場所を巡れたので、まだ良かったのかもしれない。今は条約で自由など皆無になってしまった。


(絶対に御免だな)


 ミエルはご令嬢らしからぬ大欠伸をすると、背凭れに体を預け目を閉じる。


(きっと大丈夫だ。私はあんなにも頑張ったじゃないか)


 この第二の人生は、神の褒美なのだとミエルは自分をまた納得させようとした。この問答を一体何度繰り返しているのか。きっと二十歳を迎えるまでし続けるのだろうと思う。


「難儀なものだな」


 その呟きは、美しく整えられた生垣に大きな黒い犬が突っ込んできた衝撃音によって掻き消されてしまった。勢いが足りなかったのか、犬の前足と頭のみが生垣から出ている。


「……は?」


 ミエルは怪訝そうな顔をその犬に向ける。犬は嬉しそうに「大魔女フルール!!」と喋った。


「ふむ……?」

「やっと見つけた。あぁ、愛しのフルール! 会いたかった。ずっと、ずっとずっとずっと!!」

「ずっとが多いな。いや、しかし、この喧しい感じどこかで……」

「貴女のダンドリオンを覚えているだろう」


 甘ったる声音と不恰好な現状が何とも不釣り合いだ。ミエルは冷めた視線を犬に向けつつ、聞き覚えのある“ダンドリオン”という名を探す。そして辿り着いた人物に、ミエルの表情は信じられないものを見たそれに変わった。


「帰りなさい」

「そうだろうとも! うれし、い……え?」

「残念ながら、わたくしフルールという方は存じ上げませんの。人違いですわ。どうぞお帰りを」


 公爵家のご令嬢として不足ない微笑みと言葉遣いをミエルに向けられたダンドリオンと名乗る大型犬は目を点にする。


「え、え? フルール?」

「わたくしは、ミエル・ノワ・プリムヴェールでしてよ?」

「あ、う、み、ミエル。ミエルと呼ぶ。呼びます。だから、いやだ。捨てないで」


 途端に、クゥ~ン……などと泣き出したダンドリオンに、ミエルは仕方がないと言いたげに深々と溜息を吐き出した。


「彼の有名な魔族の王が……。相も変わらず甘えたで困るな」

「フルール……」

「ミエル、だと言ったが?」

「み、ミエル」

「よろしい」


 この星の大陸の内、三分の一は人間の住めぬ瘴気に包まれている。環境に適応し進化を遂げた生物を“魔族”と人間は名付け忌み嫌った。ダンドリオンはそれらの王である。


「何故に犬だ」

「他は目立つので」

「十分に目立っていると思うけどな」


 ミエルは渋々ながらも、ダンドリオンを救出してやる。ダンドリオンはお利口に椅子に“おすわり”した。


「で? どうして私のことが分かった?」

「春呼びの魔力を感じたので!」

「…………」

「……? ミエル?」


 やはり、嫌な予感ほどよく当たるようだ。ミエルは何処か遠くを見つめながら現実味逃避しようとしたが、ふとある考えが脳裏を過って眉根を寄せる。


「待て。もしかしなくとも、この転生の原因は……」

「私です!」

「だろうな」


 ブンブンとしっぽを振るダンドリオンに、ミエルは深々とした溜息を返した。それならば、春呼びの魔力が受け継がれているのにも納得だ。まぁ、この二百年程、春呼びの聖女が一度も産まれていない原因は不明なままだが。


「何故にそんなことを……」

「貴女を喪うなど私には耐えられない。この二百年をどのような気持ちで過ごしたとお思いか」

「いや、そんなことを言われても。別れは至極当然のことだろうに」


 ミエルの言葉にダンドリオンは固まっていたかと思えば、ドバッと勢いよく泣き出した。先程とは違い、涙まで出ている。


「あ~……。私が悪かったから」

「だったら、今すぐに私の元へ」

「それは無理だよ」

「どうして……っ!!」

「私は皇太子の婚約者だからね」

「では、皇太子を亡き者に」

「するなするな。物騒なやつだなぁ」


 ガルルルルッ! などと不穏な唸り声をあげるダンドリオンをよしよしとミエルが宥める。


「では、一つ約束をしてください」

「約束?」

「貴女の中に眠る春呼びの魔力が目覚めるまでに、皇太子との婚約が解消するようなことがあれば……。私の元へ」

「ふむ……。分かった。約束しようじゃないか」


 ミエルの返答に、ダンドリオンはとても嬉しそうな満足そうな顔をした。


(まぁ、大丈夫だろう)


 そんな軽い気持ちであったのに。



******



(まさか大丈夫ではないとは)


 ミエルはゆったりと目を開けると、ひとまずは確認しておかなければとダンドリオンへ視線を向けた。


「何かしてないだろうね?」

「何も」

「本当に?」

「勿論、不正はお嫌いでしょう?」

「まぁ……」


 ダンドリオンの言葉を信じるとするならば、では何故このような事態になっているのだろうか。ミエルはやはり不思議そうに小首を傾げると、今度は皇太子へと視線を遣る。


「わたくしの何が駄目であったのか、お教え願えますか?」

「お前は……年下のくせに生意気なのだ! いつも、いつも! 子ども扱いしおって!!」

「はて、子ども扱い……??」


 何がどう子ども扱いだったのか分からないミエルは、更に疑問符を飛ばす。それに助け舟を出したのは、ダンドリオンであった。


「貴女はよく褒めてくれる。私はそれがとても嬉しいが、彼は違うらしい」

「何!? 褒めて伸ばすのが一番いいだろう!?」

「個人によるかと」

「そうか……。そういうものか」


 目の前には、ニコニコと笑むダンドリオン。そして、険しい顔の皇太子と自慢げな伯爵令嬢。


(詰み、かなぁ……)


 どう考えても、ダンドリオンの言う通り逆転は無理そうであった。


「まぁ、いいか。悠々自適に暮らすのに、夢見ていたからね」


 ミエルがダンドリオンへと手を伸ばす。ダンドリオンはその手を恭しく取った。瞬間、ミエルの手の甲に花の紋様が浮かび上がる。


「お前は……」

「ふふっ、私と約束事をすればこうなるのは分かっておられたでしょう?」

「にしても、キキョウとは」

「私の愛は、あんな男とは比べ物になりませんから」


 不意に、ダンドリオンが視線を時計へと向ける。悪戯好きの子どものように、ニマニマと楽しげに笑った。


「さて、そろそろお時間ですよ」


 カチッと長針が動く。ミエルは自身の中に懐かしい力を感じて、眉尻を下げた。


(皇太子は只では済まないだろうな)


 燃えるような恋心などなかった。しかし、情はある。とはいえ、上に立つ人間ならば責任は取らねばならないだろう。

 目覚めた魔力が髪を靡かせる。さらりと揺れた髪の内側が、桃色に染まっていた。


「春呼び、の……せいじょ?」


 誰がそう呟いたのだろうか。一気に会場がどよめく。


(まぁ、二百年ぶりだからな。こんな馬鹿なことをしなければ、自然と婚約は解消。春呼びの聖女を出した国だと持て囃されたというに)


 皇太子の顔が分かりやすく明るくなる。しかしそれは、ダンドリオンが本来の姿に戻ったことによって一変した。

 隠していた禍々しい角が顕になる。ダンドリオンの圧に空気が震えた。


「こらっ! 威嚇するんじゃない」

「まだ貴女を好きに出来ると思われているのが、気に触りました」

「素直でよろしい。けど、駄目なものは駄目だよ」

「…………」

「ダンドリオン?」

「分かっております」


 不服そうに顔をしかめるダンドリオンに、ミエルは苦笑する。魔族の王がミエルに敬語を使っているのが信じられないのだろうか。皇太子や周りが目を丸めていた。


「失礼をお許しください、皇太子殿下。しかし、私を手放したのは貴方だ」

「な、なにを」

「約束した以上、反故にする訳にはいかないのですよ。お分かり頂けるでしょう?」


 ミエルはキキョウの紋様が浮かぶ手の甲を皇太子に見せつけるように、ヒラヒラと振る。


「何故、魔族の王とお前が!?」

「さてねぇ、それは私にも分かりかねます。魔女の頃より口説かれてはいましたが……」


 そこまで言ってミエルは、はて? と言葉を切った。そういえば理由は聞いたことがなかったな、と。


「そんなことを聞いているのではない!!」

「煩わしいな……。幼き人の王子よ、春呼びの魔女は私の手に堕ちたのだ。貴様のせいでな」

「なっ!?」

「感謝するよ。やっとだ。やっと貴女を手に入れた」


 ダンドリオンがうっとりと目を蕩けさせる。ミエルは、それに呆れた視線を返した。


「待て待て、それとこれとは話が別だ」

「……はい?」

「お前の元へ行くとは言ったが、お前のものになるとは言っていない」

「そ、それは! え、あ、そんな!!」


 途端に狼狽し出したダンドリオンに、ミエルはコロコロと笑う。


「まぁ、お前の愛を無下にはしないよ。あの頃とは違って、ちゃんと受け取るさ」

「本当ですか?」

「もちろん。飛びきり甘く、素敵に、口説いてくれるんだろう?」

「ミエル……」


 甘ったるい吐息を溢したダンドリオンに、皇太子は目の端を吊り上げた。


「聖女の婚姻は禁止されている!!」

「邪魔をするな!!」

「まぁ、どちらも落ち着きなさい。ひとまず、皇太子殿下。その条約に魔族の国を入れなかったのは、貴方達でしょうに」

「それは……っ!」

「関係ないというなら、どうぞ取り返しに来なさいな。瘴気溢れるあの土地に足を踏み入れる勇気があるのなら、だけどな」


 ミエルは意地悪くニコッと笑って見せる。ダンドリオンは、一変して酷く満足そうにその様子を眺めていた。


「さぁ、そろそろお開きにしようか」

「貴女のための部屋を用意してあります。きっと気に入って貰えると思う」

「そうか。昔からダンドリオンは、良い子だね」

「そうでしょうとも!」


 よしよしと撫でられて、ダンドリオンは嬉しそうに目尻を下げる。今はついていない筈のしっぽが、ブンブンと揺れているのが見えるようであった。


「そうだ。ダンドリオンが私を好きになった理由が聞きたいんだが」

「今ですか」

「いや、まぁ、言いたくないなら無理には聞かないけど」

「……魔族の国は最後に呼ばれた冬で止まっていました。年中、凍てつくような吹雪が吹き荒れていた」

「そうだったね」

「魔女に瘴気は毒にもならない。しかし、どの魔女も季節を呼びに来てはくれなかった」


 そういえば、そんな事をダンドリオンが昔に言っていたような記憶がある。


「しかし、貴女は来てくれた。雪解けの暖かな風を……春を運んでくれた貴女の笑顔を忘れた日などありません」


 どこか泣きそうに揺れるダンドリオンの瞳に、キョトンとしているミエルが映っていた。それに、ダンドリオンは困ったように眉尻を下げる。


(そんなことで?)


 そうミエルが思ってしまうのは、それが魔女の使命であったから。しかし、確かに魔族の国に行く必要はないと教えられたのだった。


(では、私は何故行ったのだったかな)


 昔の事過ぎて、覚えていない。まぁ、何かそういう気分だったのだろう。今も昔も、ミエルは気分屋であるのだから。


「じゃあ、今も春のままなのか」

「いえ……。人間に嫌がらせされました」

「それは、どういう?」

「わざわざ冬呼びの聖女を連れてきて」

「まぁ、冬も必要だからねぇ」

「人間には、でしょう……」

「よしよし。魔力が安定したら春を呼ぼうね」


 ミエルの言葉に、ダンドリオンは何度も頷く。そんな会話を繰り広げている間に、ダンドリオンは転移の魔力を練り終えたようだ。足元に魔法陣が浮かぶ。


「と、止めろ!!」

「では皆様、ごきげんよう」


 ダンドリオンの腕の中で、ミエルが優雅に微笑んだ。それだけを残して、止める間もなく二人の姿は消えたのだった。

読んでくださりありがとうございました!

楽しんで頂けたら嬉しいです。

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