冷遇されたので火を放ってやった
「お前の仕事は朝4時から。掃除、洗濯、朝食の準備、庭の手入れ全てお前の仕事よ。他の使用人達には休暇をやったわ。学園なんていかなくていいわ。お前にはもう必要ないんだから。どうぜお前を気にかける人間なんていやしないでしょう?」
継母はそう言って、今がした切り落とした私の髪の毛と一緒に屋敷の鍵を投げてよこした。
意地の悪い顔で笑う継母も、その傍に立ちにやにやと私を観ている義妹も、なにも言わずに傍観している父も全てが気持ち悪くて。
だから私、消毒してやろうと思ったの。
実母が亡くなり、父が別の女を屋敷に連れてきた。義妹となる少女も一緒だった。
よくある物語のように、私は部屋を奪われ、物を奪われ、食事も奪われ、婚約者も奪われた。
事実は小説より奇なりってほんとね。
物語で読んでいた時は、さすがにどれだけ相手の外面がよくても1人ぐらい気付いたり苦言を呈したりしてくれるかなと思っていたのに。
いや本当に誰もなにも突っ込まないでするすると境遇が変化してしまったのだ。
真剣に訴えても誰も信じてくれないなんてまさか思わないよね。
もう本当にやってらんないって感じで。
悪役令嬢ってなに?
やってもいないことをやったと言われ、罪をなすりつけられて、わがままな義妹がヒロイン扱いってそんなことある?
現実と物語の区別もつかない年だけくった子供達が、正義らしきものを振り翳して私に指を突きつけてくる。
ここは物語の中じゃない。
だから、颯爽と現れて助けてくれるヒーローなんて、もちろん存在しないのだ。
暴言暴力は日常茶飯事。
学園にも行かせてもらえなくなり、鋏で髪をめちゃくちゃに切られた上で冒頭のセリフだ。
最初の数日は何も考えられなくて素直に従ってしまったけれど、疲れ切った身体でうとうとしながら従う必要ないなってふと思い至った。
まだ鳥も寝静まっている時間に目を覚ました。
取り上げられて数少なくなった私物をトランクに詰め込む作業はもう昨晩のうちに済んでいる。
動きやすいシャツとズボンを履いて、鼻歌混じりに屋敷内を歩く。
全ての扉と窓を施錠して、廊下やカーテン、燃えやすそうな家具に油を撒く。
火を起こすためのマッチを擦って、ぽとりぽとりと落としながら玄関へ向かう。
だんだんと増えていく煙と、火の粉が爆ぜる音。
それでもあの三人はきっとぎりぎりまで起きることはできないんじゃないかと思う。
昨日作った料理の中に、睡眠薬を沢山入れておいたし。
お母様との思い出も一緒に燃えてしまうけれど、まあ天国のお母様も許してくれるでしょう。
思い出なんて、私のことひとつも救ってくれないのだし。
トランクを片手に玄関を出て、外からしっかり鍵をかける。
屋敷中の鍵の束は、井戸の中に投げ捨てた。
屋敷の中はきっと、もうすっかり煙と火に塗れてるだろう。
あっ、あのカーテンが燃えている部屋はもしかして継母の部屋かな。
「それじゃ、あばよクソ共。地獄に落ちな」
夜明けの空気を吸い込みながら街を歩くのってこんなに気持ちいいことなんだと初めて知った。
乗合馬車のエリアに向かえば、予約しておいた旅行者向けの長距離馬車がすでにそこに待っていた。
「おはようございます、よろしくお願いします」
「早いね、お嬢ちゃん」
「ええ。家の片付けも済んだので、早く色んな国が見たくて」
「そうかい。そりゃいい。客は嬢ちゃん1人だから、もう出発しようか。善は急げってね」
御者のおじさまがそう言ってくれたので、遠慮なく馬車に乗り込む。柔らかなクッションが敷き詰められていて、想像以上に乗り心地はいい。
馬がいななき、景色が徐々に後ろへずれていく。
ゆっくりと遠くなる街の景色と一緒に、思い出もここに置いていく気分になる。
(ここから、私の人生がはじまる)
行き先は美しい海に面したアクトリムという国。そこからさらに船を乗り継いで別の国へと転々と旅をしていく予定だ。
カラカラと車輪が周り土を踏む音、爽やかな風の音。遠く、街の向こうからカンカンと火消し達が鳴らす音が聞こえるのすら心地いい。
未来は明るく広がっている。
もう私を邪魔する人なんていなかった。
書きたいところを書きたい分だけ書きました。
面白がってくれたら嬉しいです。
細かい設定などはないです。
読みたい人がいれば続きや前後を書く可能性があります。
人物
◼︎主人公
どこかの国のいい身分の令嬢
よくある展開で悪役令嬢ドアマットヒロインにされかけたけど我にかえった ほとんど躁状態
家を焼いてから幸せ




