睡眠薬
「良くおいでくださいましたね皆さん。おかげになって。」
扉を抜けるとその先に部屋は1つしか無かった。
その部屋へ入ると大きな机と俺たち3人分の椅子が用意してある。
奥にクレアが座り、付き人が俺たちの椅子を引いて座るよう促してきた。
「ルシウス。貴方は報告を怠りましたねぇ?」
「いえ。皇帝陛下には通達しております。本来ならば貴族様方にも通達が行っているはずです。今回の件、言わばアーデルハイト様の怠慢が原因でしょう。」
椅子に腰掛けた直後ルシウスとクレア、互いの雰囲気が一気に重くなる。
俺はタバコに火をつけると、横で小さくなっているレインの肩を小さく叩き、机の上のお菓子を手前に持ってきて手に持たせた。
レインが俺の顔を見えない目で覗き込んだあと、手に持たされたドーナツをひと口食べて、幸せそうな顔で口いっぱいに頬張る姿に、これでいつもの日常が戻ったかと少し安心させてもらった。
「ああ、お飲み物をお持ちしてください。」
クレアが気を利かせて暖かい紅茶を付き人に煎れさせる。
3人分の飲み物があっという間に机に並んだ。
どうやらこの付き人、優秀なようだな。
だが、
「一成さん。人様の家で出された飲み物に手をつけてはいけないって、知ってました?」
「ルシウス貴様!!クレア様のご配慮になんて事を!!」
「ああ、ルシウス。悪いんだが、それは俺ではなく、俺の横で出された飲み物一気飲みしてるレインに言ってくれ。」
モゴモゴと口に含んだドーナツを、出された飲み物で一気に流し込んでいるレイン。
その様子に流石のルシウスも笑うしか無かった。
「いやー、レインさんのおかげで少し落ち着きましたよ。」
「大丈夫ですよぉ。睡眠薬しか入ってませんからぁ。」
「ん?」
サラッと良くないこと言ってたな今。
しかし、レインを見ても眠そうな様子は無い。
「おい。本当に睡眠薬を盛ったのか?」
「ええ。一成さんが本当に世界の魔力を扱っているか確かめるためでしたがねぇ。ですが、どうやら彼女もまた、異質な存在のようですねぇ…。」
俺は立ち上がり、クレアの方へドカドカと歩いていく。
そのまま胸ぐらを掴んだところで後ろから人差し指を突き立てられていることに気付いた。
「止めろ。手を離さなければ風穴をあけるぞ。」
「お前が俺に風穴をあけるのが早いか、俺がコイツを殴り飛ばすのが早いか、見物だな。」
「この場で戦っても私達は負けるだけですよぉ、付き人さん。」
クレアが付き人に俺から離れるよう支持する。
「何でこんなことをした?」
素朴な疑問だ。
仮に俺達が眠らされていたら、何をされていたのか分からない。
そしてコイツはさっき、確認のためと言った。
「この世界で魔力により作られた薬を無効化させるには、更に上位の魔力によってしか不可能なんですぅ。逆に言えば上位の魔力を持っていれば、薬の効果は発揮されないという事ですぅ。」
胸ぐらを掴まれた状態でも至ってマイペースに話を進めるクレア。
キレているこっちが拍子抜けしてしまうほど堂々としてやがる。
「皆さんにお配りした飲み物には、大地の魔力により生成された睡眠薬が入っておりました。それを飲んでも影響がないということはそれより上位の魔力を身に宿しているということですぅ。」
「んじゃあ地脈の魔力の可能性もあるんじゃねぇのか?」
「地脈の魔力は竜人族しか扱えない特別な魔力。もう今は使える人間はおりませんので、必然的に世界の魔力を宿しているということになりますねぇ。」
俺はクレアから手を離し、机の上に置かれた飲み物を凝視する。
俺がこれを飲むとどうなるのか。
俺自身も確かめたかった。
ゆっくりと飲み物に近付き、それを手に取る。
眠剤なんて精神病んでた時処方され、1度だけ飲んだがほとんど効果が無かったので、それ以来飲んでいない。
好奇心と探究心に任せて、俺は机に置かれた飲み物を一気飲みした。
だが、結果俺はそのままフラフラと意識を失った。
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