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世界の魔力

「皆さんも、見るのは初めてでしょうから一応ご説明しときますねぇ。」


 そう言ってクレアが懐から取り出したのは小さなフラスコ。

 中には何も入っていないように見えるが……?


「これが、世界の魔力です。我々教会の人間しか持つことが許されていない代物ですねぇ。世界の魔力には少し変わった特徴がありましてねぇ。」


 富裕層は皆、世界の魔力に釘付けである。

 まるで見世物小屋で珍しい動物を鑑賞するかのように前のめりだった。


「私は今日をもって教会を辞めさせていただきます。」


 クレアが突然とんでもない事を言い出した。

 流石の俺もクレアを2度見したが、それよりも目を引いたのは、さっきまで何も入っていないように見えたフラスコの中身が、ゆっくりと黒く変色している事だった。

 タバコの煙が空気と混ざるように、初めは線状だった黒い煙が段々と渦を巻いて周囲に溶け込み、やがて中が真っ黒に変色していく。


「どうやら私はまだ教会に必要とされているようですねぇ。このように、世界の魔力には一定の整合性を持つ意識があります。この黒い状態が拒否、悪、反対。無色透明な状態がその逆ということになりますねぇ。」


 成程なぁ……。

 ん?

 これって下手をすればただの手品で、色はクレアが弄ることが出来るんじゃねぇの?


「アンタの言葉が信用に足るとは思えねぇ。俺も試して良いか?」


 俺は立ち上がり、クレアに意見する。

 周囲の反応は非常に分かりやすく俺を責め立てていた。

 だがクレアだけはその意見は最もだと言い、俺に1回だけ質問しても良いというチャンスをくれた。


「……なら、」


 俺が口を開いた途端に、世界の魔力が透明に戻る。

 この質問は非常に重要だ。

 クレアが知らない事、かつ当てずっぽうではどうしようもない質問でなければならない。

 そして、俺以外のこの場にいる信用に足る人物にそれが真実か虚偽かを証明して貰う必要もあるというわけだ。

 少し考え、俺は言った。


「……俺は、この世界の人間じゃない。」


 ルシウスが目を丸くしながら俺を見ている。

 隠さなきゃならん事だとは分かっていたが、ここでこの発言をする事の意味が、ルシウスにはすぐに分かったようだった。


「一成さん。貴方はこの裁判に文字通り、全てをかけるということですか。」


「ああ。そして結果は……。」


 フラスコの中の色は、全く変わっていない。

 それは俺が、この世界の人間じゃないことを示す証拠だった。

 そしてそれに最も驚いていたのが、他でもないクレアである。


「貴方が、この世界の人間では無い?という事は、ルシウス。そういう事ですか?」


「はい。事実です。彼には明らかに、我々の世界には無いはずの知識が備わっている。」


「私が聞きたいのは彼が転生者であるかどうかという話です!!」


 クレアが声を荒らげる。

 そしてそれを証明するかのように、ルシウスは机の上のフラスコを指差した。

 フラスコの色は、変わっていない。

 つまり、俺が転生者であるという質問は、真実ということだった。


「転生者!?」


「世界の裏切り者だと!?」


「そんな危険な人間、今すぐ殺すしかない!!」


 富裕層が叫ぶ。

 だが答えるのはまた、世界の魔力。

 今度はその色があっという間に真っ黒く濁り、富裕層の意見を拒絶する。


「ふざけるな!!」


「何が世界の魔力だ!!全部インチキだろう!!」


 今度は向こうサイドが世界の魔力を否定する。

 そりゃあそう言うだろうな。


「ならてめぇらも質問したら良いじゃねぇか。」


「成程。貴方は自分の立場、存在そのものが大衆心理的に不利であると分かった上で、世界の魔力を利用してその存在を2つの意味で認めさせた訳ですね。」


 そう言ったのはクレアである。

 クレアはさっきまでの口角が上がった穏やかな表情とは一変、鋭く光の無い目でこちらを見つめながら話を続けた。

 てか俺に興味が移ったのか、その他大勢の話を聞いてねぇなコイツ。


 だがそうだ。

 この場で俺が転生者であると明かせば、反感を買うのは明白。

 転生者は裏切り者というレッテルが貼られているからである。

 しかし、世界の魔力が人間基準ではなくこの世界基準の善悪で判断する物であるならば、俺は人間に対しての裏切り者ではなく、かつて世界を救った人間と同じ立場ということになるのだ。

 この先俺が何をしでかそうと、世界としては俺を全肯定するしか無くなる。

 コイツらにとって最も信用できる裁判で、犯罪者であり最も自分達人間にとって危険な人間を野放しにせざるを得ない状況。

 つまり、富裕層の多いこの帝国内でその主たる貴族に反旗を翻した事と、全人類の敵である転生者という存在が、この世界を救うのに必要である事を認めさせたのだ。

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