盗み聞き
「聖なる裁判ってのは教会の幹部が指揮を執る裁判のとこだ。世界一平等で、簡単で、確実な裁判だそうだぞ。」
「なんか凄い胡散臭いんだけど大丈夫?」
「俺も実際に見たのは1回だけだからな。まぁ確かに簡単な裁判だったよ。幹部が質問して、被告人が返答。それを何回か繰り返したあと、被告人の首を斧で切り落とすっていう。」
「え、ちょっと待って、すごい恐ろしいことサラッと言わなかった今?」
俺が確実に死ぬ裁判じゃねぇか。
簡単で確実だけどどこが平等だよ。
「ああ、斧は教会の幹部だけが扱える特殊なものでな。罪人にだけ反応して首を落とすんだよ。どういう原理かは知らん。」
「えー、そんな裁判絶対嫌なんだけど。」
俺の返しがめんどくさかったのか、ジークは吸っていたタバコを机で消して、窓から外にほおり投げる。
そしてそのまま鉄製の扉を開き、退室のタイミングで他人事のように言ってきた。
「まぁ、なるようになるさ。開始時刻は明日の朝だ。それまで寝とけ。便所行きたくなったら見張りに言え。」
そのままジークは部屋を出て、外側から扉に鍵をかけた。
「見張りさーん。トイレ行きたーい。」
「そこでしてください。」
いや言って便所に連れていってくれるわけじゃねぇのかよ。
「レインが心配だな……。」
「ああ、そういえば。」
そう言うと見張りが扉のしたの隙間から何かをこちらに滑らせた。
この馴染みのある長方形の箱。
「つい先程、杖をついた女性と巫女様がいらっしゃったらしく、それを一成さんに渡してくれと。」
「レインか!?どんな様子だった!?」
「私が直接お会いした訳では無いので何とも……。」
間に合うか?
やってみるしかないか。
【感覚共有】!!
「い、一成さん!?」
「突然どうしたの?そんなに心配?」
結構広範囲に魔法を使った結果、どうやら間に合ったようだ。
レインの聞いている音が俺の頭へ流れ込んでくる。
無事で本当に良かった。
でも、正直自分でもかなり気持ち悪いことしてると思う。
「どうして一成さんばかりこういう目に合うんでしょう……。」
「言いたいことは分かるわ。私の個人的な考えだけど、アイツは良く言えば自由。悪く言えば自分勝手な奴なのよ。」
最初の反応的にレインは気付いているだろうが、ソールはまだ気付いて居ないようだ。
俺は2人の会話に聞き耳を立てながら、レインが無事だった事に詰所の中1人安堵する。
「まぁそれでもアイツは良くやったわ。苦しんでいる人間が助かったのなら私は文句ないわよ。」
「でもその代わり一成さんが……。」
「そうねぇ……。裁判となればアタシも冒険者達も全力でアイツを擁護するけど、聖なる裁判は嘘が全て見抜かれるって聞くわ。アタシがどう足掻いても多分判決は変わらない。アイツを信じるしかないわね。」
嘘が見抜かれるのは知らない情報だな。
何かの魔法の可能性が高い。
この口ぶりだとジークが言ったなるようになるっていうのがよく分かる。
なるようになると言うより、なるようにしかならないと言った方が正しいだろう。
「レイン。一成も居ないしアンタ今日はうちに止まりなさい。一緒に寝ましょ?」
「わ、私なんかがお城に泊まって良いんでしょうか……?」
「良いのよ!!レインは私の友達よ。今日の夜は女子トークで盛り上がるわよー!!」
「は、はい!!」
レインはソールの勢いに乗せられているようだ。
多分ソールは俺が居ないレインを気遣ってくれているのだろう。
このままだと聞かなくて良い所まで聞いてしまいそうなのでそろそろ共有を切ろうとした時、背後から走ってきたであろうルシウスの声が飛び込んできた。
「ソール、レインさん。明日の裁判の執行人か決まりました。」
「誰?それによって一成がどうなるか決まるわよ?」
ソールが淡々と返すのは、多分答えがわかっていたからだろう。
「現在帝国の教会支部で駐在している方です……。」
「あー……。」
だろうなと言う反応だ。
流石に2人は面識があるのだろう。
「ど、どういった方なんですか?」
「名前はクレア。教会で最も信心深いとも言われている人間で、簡単に言うと……。」
「人の話を聞かない人ですね……。」
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