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一発

「あっついわね!!だからやりたくなかったのよ!!」


「そりゃそうでしょう。契約の儀の時は止めようがなかったので黙ってましたが、普通は特殊な革手袋つけますよ。」


「す、すまん。そこまで俺知らなかったから……。」


「全く。まぁいいわ。私怪我の治り早いし。」


 パタパタと熱さで手を振っているソールの手は、もう既にほとんど治りかけていた。


「その怪我の治りの早さ、レインも……」


「一成さん。少しよろしいですか?」


 俺が言いかけた時、ルシウスが俺の話を遮りながらこちらへ歩み寄ってくる。

 目を見たらわかるが、あれ、なんか怒ってる??


「とりあえず一発殴って良いですか?」


「良いわけねぇだろ。殴りてぇのはこっちだ馬鹿野郎。」


 コイツらが依頼をちゃんと管理してねぇから俺達がこんなことしなきゃならん羽目になったんじゃねぇか。

 ていうか笑顔で恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ。

 お前言うても帝国最強じゃねぇか。

 だが、俺の言葉を全く聞かず、ルシウスは準備運動を始めてやがる。


「だったらアンタ達、お互いに全力で一発殴れば良いんじゃない?」


 ソールが人差し指を立てながら提案する。

 まず巫女の台詞じゃねぇし、この女、楽しんでやがるな?


「私は構いませんよ?一成さんに勝ち目は無いでしょうけど。」


「ほー、上等じゃねぇか。帝国の外まで吹っ飛ばしてやるよ。」


 俺はタバコを取り出し、ゆっくりと吸う。

 その瞬間にルシウスの後ろに居た討伐隊の隊員が不振な動きをする俺を反射的に止めようとしたが、ルシウスがそれを無言で制止した。


「おいおい一成さん、折角終わったってのに何やってんだよ!!」


「そうですよ!!取り敢えず今は大人しく、」


「アンタ達!!」


 ランスとブルが口答えをしていた横で、ソールが腕を組みながら声を上げる。

 流石に巫女の言葉には逆らえないのか、2人は背筋を伸ばしながら気をつけの姿勢を取り、冷や汗を流しながら次の言葉を待っていた。


「アタシはね、ルシウスに行き場が無くなった帝国の怒りを託した。アンタ達は一成に、自分達が苦しんでいるのに何もしてくれなかった帝国への怒りを託した。そうでしょう?」


「「は、はい!!その通りです!!」」


 2人が声を揃えて返答する。


「だったらそのまま見ていなさい。アタシはこの結果がどうなったとしても、互いを責める気は微塵もないわ。安心しなさい。」


 その真っ直ぐな目とハッキリとした物言いに、2人は最早口を挟むことが出来なくなっていた。

 ただ、俺は分かってる。

 この女がこの状況でそんなにちゃんとした考えがあるわけがない。


「さぁ、アンタ達!!どっちが強いかハッキリさせなさい!!」


「はぁ……。やっぱり楽しみたいだけですか……。」


 ルシウスは肩を落としながら、キラキラした目で俺達を見ているソールを睨みつける。

 俺はと言うと、呆れ顔でタバコの灰を落としていた。

 なんでみんなこの巫女への評価が高いんだよ。

 巫女という肩書き強すぎだろ。


「さて一成さん、そろそろよろしいですか?」


「ああ。丁度吸い終わったところだ。」


 俺が言い終えるよりも早く、建物がガタガタと揺れ始める。

 ルシウスの魔力の影響だろう。

 やがてルシウスの体は淡く輝き始め、城前の橋でベリアルと戦った時に見た姿へと変わっていく。

 あー、これはかなり本気だなー。

 レインが起きていたら真っ先に止められていただろう。

 俺は肩幅より少し開いた足を、内股気味に曲げて腰を落とし、深く息を吸い込む。


「……行きますよ!!」


 ルシウスが走り出す。

 俺はルシウスと俺との間に、吸いきったタバコのフィルターを指で弾いて飛ばした。

 どうやらルシウスも、一目でその意図が分かったようだ。


 俺達はそのタバコのフィルターに向かって全力で拳を放つ。

 少し斜め上から飛び込んでくるルシウスの拳と、深く構える俺の拳が向かい合う丁度中間地点。

 俺とルシウスの拳が触れ合うよりも早く、互いの魔力でタバコのフィルターは消し飛んだ。



 ドォォーン!!

 凄まじい轟音が帝都に響く。

 そこに暮らす者達が皆、音の方に振り返る。

 そんな中、帝都内にある教会で優雅にティータイムを楽しむ2人がいた。


「あらあら、大きな音がしましたねぇ。ビックリしましたわ。」


「これは只事では無さそうですね。僕が様子を見に行きましょう。」


「大丈夫よ付き人さん。ここは神のお力で守られている。全ては神のお導きよ。」


「……あのークレア様。1年以上付き人をしておりますのでいい加減僕の名前を覚えては下さいませんか?」


「あらごめんなさい。印象の薄い御方のお名前を覚えられないのよ。」


「……そうですよねぇ……。」




「んで、何がどうなってこうなったんだ?」


 轟音から数分後、現場に駆けつけた防衛隊長のジークベルトは、崩壊したアーデルハイト邸の瓦礫の中で、ソールを問い詰めていた。


「あの馬鹿2人がマジで全力で殴り合った衝撃でこうなったのよ!!」


 ジークベルトに逆ギレしたソールの服はボロボロになっており、ケホケホと粉塵で咳をしていた。


「その馬鹿2人は何処にいるんだ?」


「2人とも盛大に吹っ飛んで行ったから分からないわ。帝都の中には居るんじゃない?」


「隊長!!先程馬鹿と見られる2人を確保しました!!2人とも命に別状は無く、意識もあるとの事です!!」


「よーし、まずはその馬鹿2人をこの場に呼べ。」



「いってぇ……。野郎、いつかぶっ飛ばしてやるからな……。」


 俺が目を覚ました時、俺はアーデルハイトの屋敷から100メートル以上離されていた。

 俺が吹き飛ばされた道が、綺麗に一直線に残っている。

 丁度道路だった事が幸いして、周辺の建物への被害は無かったようだ。


「犯人発見!!犯人発見!!」


 大きな声を出しながら、防衛隊と思わしき人間が数人こちらに向かってくる。

 誰が犯人だよ。


「歩けるか?」


「ああ、何とかな……。」


「なら、一緒に来てもらおう。隊長が事情を聞きたいそうだ。」


 防衛隊の隊長と言うとジークベルトか。

 まだ話が通じそうだな。

 俺は隊員に肩を借りながら、最早廃墟と化したアーデルハイト邸へ歩いていった。

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