契約成立
「これで良いわね。後はどうやってこれを姫巫女様に成立させてもらうかだけど。」
作戦会議中、アーデルハイト宛の契約書を書き終えたマーリンが伸びをしながら俺達に質問する。
一通りの段取りを決め、マーリンが契約書を書いている間やることのなかった俺達は、夜飯の準備をしていた。
「ああ、それならアルに頼もうと思ってる。」
「ぼ、僕ですか!?」
スープの味を見ながらアルを見つめる。
「任せられるのがお前しか居ない。そしてお前が適任なんだ。他の者より小さく、弱く見えるお前がな。」
「どういう事ですか?」
「城の橋の前で待っているのは防衛隊の人間だ。今回は防衛隊よりも早く、討伐隊に来てもらわなければならない。そこでお前は、大声で俺の名前を叫びながら慌てた振りをするんだ。俺に利用されて仲間達がアーデルハイト邸にカチコミに行ったってな。」
「それじゃあ一成さんが悪者になっちゃいますよ!!」
どうやらこの短時間でよく懐いてくれているようだな。
悪い気はしない。
「いいんだよそれで。全部上手く行けば俺も解放される。つまり俺が捕まるか捕まらないかはお前にかかってるんだよ。」
「そ、そんな……。」
責任の重さに表情が少し暗くなったアルの肩を、俺は励ますようにトントンと叩く。
「仮に捕まったとしてもそれはお前のせいじゃない。100パーセント俺のしでかした事が悪いだけだから気にすんな。」
「は、はい……。」
「ああ、言い忘れていたが、ソールを誘き出すための方法は簡単だ。レインの名前を出すだけで良い。それだけ言えば、後はアイツなら勝手に着いてくるだろう。」
アルはどうやら上手くやったようだな。
指示通り防衛隊よりも早く討伐隊を到着させ、ソールも連れてきている。
やはりアルは頭が良いし、この手の事なら他の3人より対応力があったか。
「はぁ。あまり職権乱用はしたくないんだけどね……。」
ソールが溜息をつきながら読み終えた契約書を丸める。
「アンタが使ってるタバコに火をつけるヤツ、ライターだっけ?それ貸して。」
「良いけど何に使うんだ?」
俺がポッケからライターを取り出すとそれをソールはぶんどり、一瞬こっちを睨んだ後ルシウスの方に向き直す。
そして大きく1度深呼吸をした後、足を肩幅に開き直し、手に持った契約書を広げながら高々に言った。
「我、ブリタニア帝国第一皇女としてここに宣言する。」
明らかに普段のソールとは違う。
その立ち振る舞いは皇女そのものであり、普段のチャラけた話し方も、今は威厳と風格ある口調に変わっていた。
周りの兵達はその様子を見て、全員ソールの方へ向き直した後膝をつき、手に持った武器を地面に置いた。
「この契約書を正式な物と認め、我が名、ソール・A・ブリタニアのもと、書面に書かれた全ての内容を今この瞬間から履行する。」
ソールが屋敷中に聞こえるような声で宣言すると、手に持った契約書が淡く光り出す。
それにゆっくりとライターの火を近づけ、炙るようにライターを左右に振った。
「お、おいそんな事したら、」
俺が止めに入ろうとしたのを、小声で静かに、
「やめなさい。これが契約を成立させる唯一の方法よ。」
と言い、とうとう契約書に火がついて燃え上がった。
しかしソールは、燃える契約書を手放そうとはせず、ただ契約書が燃え尽きるまでの数分間、炎で手を燃やし続けた。
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