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守れなかった世界

「何言ってんだ。俺はどこまでいっても俺だろうが。」


 俺の中に他に複数の精神があるだと?

 あれだろ?

 多重人格みたいな話だろ?

 そんなわけは無い。

 俺は意識を失ったり、体のコントロールを失ったりしたことなんてないんだからな。


「そうだ。主は一成。それは全く変わらん事実だ。だが、我が確認できた限り、主はこれまでに3回、別人の動きになっておる。」


「いつだ?」


「まず1つ、正拳突きを放つ時。あの一瞬だけ洗練された動きになっており、威力も通常の拳の数倍まで跳ね上がっておる。次に先程のアッパーの時。我との戦いの時も出しておったが、あのフットワークは一朝一夕でできるものでは無い。最後、これが最も厄介なのだが……。」


 ノブナガは1呼吸おき、タバコを吸い直す。

 ため息のような呼吸で肺の煙を出すと、重い口を開いた。


「……主がここへ入ってきた時。上手くは言えんが、あれは快楽で人を殺す者の雰囲気に近い。それを主も含めた数人が止めているような、そんな雰囲気だった。」


「……あの時の俺は怒りの感情に任せてアーデルハイトを殺しても良いと何処か思っていたからな。」


「だからな、一成。これから奴が出てきた時、主が正気を保っていられるように魔法をかけてやろうと思う。」


 子供をあやすような言葉だが、ノブナガは至って真面目な顔をして言っているので久々に元の世界との違いを実感し、俺は少し表情が解れる。


「これが済めば我はもうレインの中に帰る。主の旅を最後まで見届けることが出来ないことが残念だが、我が常に主の中にいると思い、今まで以上に気を引き締めろよ。」


「言われなくても分かってる。やってくれ。」


 俺としても、抑えきれない怒りの感情を封じ込めることが出来るのは有難い限りだ。

 ノブナガはタバコの火を消したあと、俺の頭の上に右手をかざし、ブツブツと何かを唱えている。

 次第に俺の体をやんわりと暖かい光が包み込み、それに合わせたかのようにノブナガは右手を引いた。


「よし、これで良いだろう。」


「特に変わった感じはしないんだな。」


「当たり前だ。抑止したのは先程の人格だけだからな。」


 フィルターギリギリまで吸った俺のタバコの火が消えるのを見届けると、ノブナガは少し寂しそうに笑いながら言った。


「一成。もう多くは語らん。イサミと我が守りきれなかった世界を、頼んだぞ。」


「分かった。任せろ。」


 正直俺はノブナガの最後の言葉がよく分からなかった。

 ただ、ノブナガの最後の言葉を承諾しないとこの先後悔する。

 そう思った。


 程なくしてレインの体は力無く崩れ落ち、俺は咄嗟にその体を支える。

 目が覚めたレインは、本当にさっきまで寝ていたかのような寝ぼけた声で、


「……あれ?一成さん……。来てくれたんですね……。」


 と、言ったので、


「安心してもう少し寝てろ。」


 そう返して、俺はレインを背負い、胸糞悪い部屋を出た。




「もう少し待ってろ。直ぐに解放してやるからな。」


 地下出口付近の檻の中、鉄格子が破壊されていたのにも関わらず、脱出する気力を失っている女たちに向け俺はそう言い放った後、階段を上がった。


「い、一成さん!!これは一体!?」


 地下の階段を上がると、見覚えのない女が俺に駆け寄りながら問いただしてくる。


「……誰だ?」


「ランスだよ一成さん。」


 横からブルが顔を覗かせ、俺に笑顔を向けてきた。


「……ああ、言われてみれば声が確かにランスだな。素顔は別嬪さんじゃねぇか。」


「そ、そそ、そんなことよりこの状況は!?」


 説明が面倒なので、赤面しながら凄んでくるランスの肩をポンッと叩き、ブルと拳を1度突き合わせた後、何も言わずに階段を上がると、そこに待っていたのは予定通りの顔ぶれだった。


「よぉルシウス、ソール。」


「一成!!レインは、レインは無事なの!?」


「あまり大声を出すな。起きちまう。」


「一成さん。貴方を住居侵入罪で逮捕します。」


 まぁそうなるよな。

 俺の目の前、雁首揃えて整列している討伐隊の先頭に立つルシウスは、いつになく真剣な表情だった。

 俺は抵抗の意思が無いことを示す為に、まずはレインをゆっくりと壁に下ろし、両の手を上げる。

 あえて服の裾からソールにだけ契約書が見えるようにして。


「誰か彼の所持品検査を。」


「……待ちなさい。」


 討伐隊の1人が俺に駆け寄ろうとしたのをソールが制止する。

 俺の読み通り、ソールはそのままゆっくりと歩きながら俺に近付き、俺の服から例の契約書を取り上げると、その場でそれを開いて目を通した。


「……成程ねぇ。アンタ、やったわね?」


 俺にだけ聞こえる声を出しながら、ソールが俺を見つめる。

 俺は正面のルシウスを見ながら目を合わせることをせずに小声で答えた。


「お前が今この場でそれを承認してくれれば話が早いんだが?」


「アンタが連れてきたかったのはルシウスじゃなく、アタシだったって訳ね。」

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