グゥ
アルは一成達と別れた後一目散に城へ向かい、橋の前にいる兵士に対して、あえて大声で事態を説明する。
「大変です!!一成さんが僕の仲間を引き連れて!!」
「ど、どうしました!?一旦落ち着いてください!!」
事態を把握しきれない兵士は落ち着かない様子のアルをなだめようとするが、アルはそのまま大声で続ける。
「一成さんが!!一成さんが!!」
唯ならぬ事態に反応したのか、内側から橋がおり、中から慌てた様子でルシウスとソールが走ってくる。
「一成がどうかしたの?」
「一成さんが僕の仲間達を引き連れて、僕らを騙したアーデルハイトの屋敷を強襲するって息巻いていたんです!!」
「なんですって!?」
ルシウスとソールは驚愕の表情を浮かべる。
「あの馬鹿、帝国貴族を敵に回してタダで済むと思ってるの!?」
「マズイことになりましたね。貴族の屋敷は極秘情報等を取り扱う性質上、侵入しただけでも下手をすれば死罪。一成さんがそれで済む筈がないので、多分確定でしょう。」
「ルシウス、笑い事じゃないわよ。アンタが連れてきた男でしょうが。」
「分かってますよ。集まってるな?」
ルシウスがそういうと、ルシウスの背後に綺麗に整列した討伐隊の兵が10数名並ぶ。
「目標はアーデルハイト邸。治安維持の防衛隊到着よりも早く目標を制圧する。行くぞ。」
「あの、先に僕の仲間とレインさんが捕まっているんです。2人の救出もどうかお願いいたします。」
「アーデルハイトにレインが捕まってる!?ルシウス、アタシも行くわよ!!」
「危険ですからダメに決まってるでしょう。」
「つい先日アンタが目を離した隙にアタシがさらわれたのを忘れたとは言わせないわよ?」
「グゥ。」
「グゥの音を発する人間は初めて見たわ。」
「なら、私から一切離れないようにしてくださいね。」
その言葉にソールは深く頷き、アーデルハイト邸へ全員向かって行った。
「やっべ!!」
アーデルハイトに足を掴まれた俺は、掴んできた手を振りほどこうとするが全く解けない。
力があまりに強すぎる。
思わず咥えていたタバコを落とし、それが契約書に当たりかけた為体を捩ろうとしたところで、俺は掴まれた足をそのまま持ち上げられ、逆さまに吊るされた。
「離せクソガキ。」
吊るされながら新しいタバコに火をつけ、腕組みをしながらアーデルハイトに睨みをきかせる。
タバコの灰が目の前を落ちていくのでちょっと怖い。
「おじさんがにげるからいけないんだよ?」
そう言ってアーデルハイトは俺を力いっぱい振り下ろした。
振った瞬間の遠心力で頭に一気に血が上ってくる。
そして地面に叩きつけられた時、俺の全身から嫌な音がした。
今朝食べたものが胃の中から込み上げてくるのを堪える。
「馬鹿野郎!!魔力を纏って防御しろ!!死ぬぞ!!」
ノブナガが叫んでいるが、生憎俺は防御の方法を知らん。
いつも攻撃の時に勝手に魔力が消費されて威力を上げてくれているだけだ。
ノブナガは必死に俺に回復をかけてくれるが、アーデルハイトはお構い無しに、俺を2回、3回と地面に叩きつけた。
「ガハッ!!」
俺は吐血した。
完全に回復が間に合っていない。
叩きつけられてズタボロで血まみれになった俺を見て、アーデルハイトは俺から手を離し、ケタケタと無邪気に笑った。
「おじさんよわーい!!」
今度は俺が煽られる。
だが俺の耳にはそんな声は入っておらず、いかにしてこいつを地獄に叩き落とすか、それだけを考えていた。
幸い何度も振り回してくれたお陰で頭に血が巡っている。
俺はそもそも何故こいつと戦っているんだ?
そう、交渉するためだ。
契約書にはサインさせた。
あとはこれをどうやって上に届けるか。
待てよ?
肉体が強化されたのなら俺の全力の拳でも死にはしないんじゃないか?
その結論に至ってから、俺の行動は早かった。
「ふー。」
俺は寝ながら噛み締めるようにタバコを吸う。
思ったよりも俺がピンピンしていることにアーデルハイトは困惑していた。
「大丈夫か一成?」
「どっかの王との戦いに比べればな。」
ずっと俺に回復をかけ続けてくれていたノブナガに憎まれ口を叩くと、ノブナガは呆れたように肩を竦める。
「お痛が過ぎたなアーデルハイト。」
俺は立ち上がり、ステップを踏みながらアーデルハイトを睨む。
全く怯むことなく戦闘態勢に入っている俺に、幼さからアーデルハイトは逆に怯え、俺から後退りをしようとしていた。
その隙を俺は見逃さない。
俺はアーデルハイトの足の間に一歩で一気に飛び込み、そのまま男の急所を目掛けて拳を振り上げた。
「くたばれ金玉アッパー!!」
確実に潰した。
放った瞬間のアーデルハイトの白目を向いた顔は傑作だった。
俺の全力の拳の威力はいとも容易く地下の天井を突き破り、やがてはアーデルハイト邸1階、2階、3階の天井も貫いて、屋敷のはるか上空へアーデルハイトを立った姿勢のまま打ち上げた。
「あー、スッキリした。」
「一成お前、ネーミングセンスどうにかならんかったのか……?」
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