笑う男
俺は暗闇の中、地下を進んでいく。
先に潜入したレインとマーリンの足音の記憶を辿りながら。
なぜならこの地下、曲がり道や分かれ道が多く、暗闇で前が見えづらい為、レインの元へたどり着く前に迷ってしまう可能性があったからだ。
だが2人は迷うことなく一直線に進んでいた様子だった。
「ここで右に曲がって……ん?」
左には進めるのだが、右に曲がる道がない。
「何処かで間違えたか?」
そう思い、左の道へ足を踏み入れた瞬間、足元のスイッチが起動し天井からギロチンが降ってくる。
油断していた訳では無いので後方へ戻り、あえてギロチンの刃を掴んで止め、追撃で正面から飛んできていた矢を受け止めた。
「侵入者撃退用の罠か。」
咥えていたタバコを前に投げ捨てると、小さな火に照らされて、今まで気付かなかった足元の沢山の白骨死体が見える。
「ここの女達を助けに来た奴らってとこだな。可哀想に。」
俺は次のタバコに火をつけ、後方の壁に手を当てると、手が壁を透過し、その先の通路が見えた。
ここを抜ければもうすぐレイン達の檻にたどり着く。
カツン、カツンと足音を鳴らしながら、ライターの明かりで辺りを照らし、警戒しながら次の曲がり角を曲がったところで、
「一成!!」
女の叫び声が聞こえる。
と、同時に目の前を剣が素通りした。
「あのような稚拙な罠にかかる冒険者では無いということか。」
「ああ、そういえば女が1人残ってたな。」
レインとマーリンを檻に閉じ込めたアーデルハイトの手下だ。
「お前、帝国軍か?」
ライターの炎で照らし出された女は、ルシウスやエクスと同じ鎧を身にまとい、盾には紛れもなく帝国軍のロゴが入っていた。
「いや、違うか。いくら貴族様でもここまで軍を私物化できるはずがないしな。」
「元軍人だよ。アタシの趣味が上官に見つかってね。そのままめでたく解雇って奴さ。」
まぁ、こんな所に常駐してるんだ。
ろくな趣味ではないだろうな。
精々良くて女漁り、悪くて暴力か殺人ってとこだな。
「邪魔だ。退け。」
「一成!!そいつ、この暗さで正確に見えてる!!なにかの魔法だと思うわ!!」
「ああ。それだけか。」
「はぁぁああ!!」
気合いを込めて女が突っ込んで来る。
同時に回転しないようにライターを上に投げ、相手の剣を掴み、そのままへし折った。
「な、なぜ分かる!?」
「あーお前、フクロウの目みたいな話じゃなく、ほんとに魔法で見えるようになってるだけだからライターの炎分からねぇのか。」
女の盾を奪い取り、頭を掴んで鉄格子に叩きつける。
勢い余って鉄格子を破壊してしまったので、ついでに女を檻の中へぶん投げた。
頭を揺らされ、身動きが取れない女に、檻の中で閉じ込められていた女達が群がる。
「お、おい、お前ら!!やめろ!!」
「おい。殺すなよ。」
中に居た女達は投げ込んだ女に恨みがあったのか、鎧を脱がせリンチにしている。
それを置き去りにして、俺はマーリンの檻の方へ向かった。
そのまま鉄格子を吹き飛ばし、全員を解放する。
「ありがとう。流石ねアンタ。」
「レインは?」
「中に連れていかれたわ。早く行きましょう。」
見るとマーリンの頬は赤く腫れている。
他の中の女達は、他の檻と違いまだ服を着ていて、胸元に印がない。
どうやら奥から順に新しい女という形で閉じ込めているようだ。
「お前はここの女達と一緒に出ろ。レインは俺が助ける。」
「アンタ1人に任せられるわけっ……。アンタ、どうしたの?」
「何がだ?」
「何でこんな状況下で笑っていられるの?」