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約束

「まぁ、【獣化】が発動してんだ。その程度じゃ死なねぇだろ。」


 ブルの思惑通り、獣人兵は白目を向き気絶していたがまだ息があった。

 雑兵達に向き直ったブルの前にはもはや士気の下がりきった兵ばかり。

 誰もブルに近寄ろうともせず、ブルはその場を完全に掌握していた。


 そんなブルの背中にトンッと何かが当たる。


「くっ!!」


「ランスか。そんなに押されてんのか?」


「どうにも相手の動きが早くて当たらないんですよねこの槍。【武装解除】もしたのに階段を守り抜くだけで精一杯ですよ。」


 ブルとは対照的にランスは苦戦を強いられていた。

 押し込まれたランスはブルの背中を借りてまた突進しながら攻撃に移る。

 それを予知したかのように執事は超高速でランスの槍を足場に駆け抜け、上空からステッキでランスの頭部を狙う。


「チィッ!!」


「反応速度は悪くないですが、体がついて行ってないですね。」


 すんでのところで攻撃を躱すランスだが、その頬を血が伝う。

 そのまま追撃のチャンスかと思われたが、執事は意外にも少し距離を取り、自身にかかっていた魔法をかけ直した。


「ふぅ。また効果が切れましたか。歳は取りたくないものです。ならもう一度、【音速移動】(ソニックステップ)。」


 執事は強化魔法で全身の速度を瞬時に音速まで上げることが出来る。

 現在は足にその魔法をかけ、ランスの攻撃を回避しながら接近し攻撃、ランスからの反撃が来ようものなら引いてを繰り返していた。

 その結果、いくら戦いの世界に身を置いていたランスと言えど、大振りの槍を自身の肉体で振り回しながらの長期戦は厳しく、スタミナが切れかけていたのだ。

 さっきまで執事の攻撃を余裕で回避出来ていたのに今回かすってしまったのはそのためだった。


「いや、実に惜しいですね。貴女ほどの人材ならメイド長として雇う事も主人に推薦出来るというのに。」


「メイド長?私は男ですよ?」


「まだそのような言い分が通じると?端正な顔立ちにふくよかな胸。決して男性とはとれない細い四肢。貴女はどこからどう見ても女性でしょう。」


「それでも私は男です。私の仲間達はそれを否定することは決してなかった。貴方が否定した事は、私の仲間を否定する事だ。」


 熾烈な攻防の中、2人は会話をする。

 持ち寄った武器と、命、そして持論同士のぶつかり合い。

 均衡を保っていた2つの力の天秤を傾けたのは、後方に背を向けて立つブルだった。


「おいランス何押し込まれてんだ。一成さんとの約束忘れたか?絶対に階段を死守すんだろ。お前も男なら、約束くらい守れよ!!」


「約束……。」


 この時ランスが思い出したのは一成との約束では無い。

 冒険者4人、初めて依頼を受けた時、全員で誓った約束。


「私とブルでマーリンとアルは死んでも守り抜きます。だからブル。私達は絶対に死んではならない。それから先、そう約束してください。」


「難しいことは分からねぇが、とりあえず死ななけりゃ良いんだろ?簡単な話だ。」


 その後彼ら4人は何度も負け、何度も殺されかけた。

 時には魔物に、時には同業者に。

 それでも一つだけ守り抜いた約束。


 絶対に死んではならない。


「【武装展開】(スタンバイ)!!」


 ランスが叫ぶ。

 周りには先程ランスが着用していた鎧がバラバラの状態で出現し、ランスの周りをクルクルと回り出す。


「ブル、ありがとう。おかげで大切な約束を思い出した。」


「そんな防具、今更何になると言うんです?」


 執事の言うことは最もだ。

 鎧を着用したところで執事の攻撃は平然とその鎧を貫通する。

 それならどうするか。


「【武装装着】(アームド)!!」


 ランスが叫ぶと周囲を飛び回っていた鎧が一目散に動き出す。


「な、何!?」


 ランスではなく、執事の方へ。


「【音速移動】!!」


 執事は思わず魔法を使い、高速で上下左右に飛び回る。

 しかし鎧達はそれを的確に追跡し、やがて追いつかれ、片方の足にガチンと鎧がハマった。


「お、重い!!何だこれは!?」


「鎧の中身の小柄な私が鎧を自由に動かせていたのは、私自身が動いているからではなく、鎧そのものを動かしていたからです。その鎧は元々ブルでも動かすことが困難なほど重い。貴方程度の筋力では身動き1つ取れないでしょう。」


 そこからは早かった。

 片足が塞がった執事に鎧を止める術はなく、ステッキで振り払おうにもそれを鎧は避けながらどんどん全身を覆っていく。

 やがて当初のランスと同じ姿の鎧が出来上がり、その中でほとんど身動きの取れない執事が呻き声を上げながらもがいていた。


「ごめんブル。少し背中を貸してくれないか?」


 ランスはブルの背中にもたれかかり、斜めに槍を構える。

 そして手持ち部分をカチン、カチンと2回捻った。


「アレをやるのか。死んじまったらどうする?」


「一応最大限鎧の硬度は上げてあるので大丈夫だと思います。言わばグリフォンの突進を正面から受けるようなものです。」


「それは普通に死んじまわねぇか?」


「私でも耐えられたんだから大丈夫ですよ。」

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