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圧倒的力の差

 視界がぐらつく。辛うじて意識は留めたが全身の骨がバキバキに折れている。指1本動かすことが出来ない。


回復魔法ヒール!!」


 その声と共に視界も元に戻り、体も動かせるようになる。


「レイン!!」


 俺の視界が戻った時、レインとグリフォンの距離は目と鼻の先だった。


 ゆっくりと、レインに向けて伸びる首。


 やめろ。


 やるなら俺にしろ。



 そんな言葉が出るよりも先に、あっという間に、俺の目の前でグリフォンのクチバシで頭を啄まれた。

 ゴリゴリと頭の中で骨が碎ける音が聞こえる。今まで聞いた中で最も不快な音だ。

 ただ、それでもレインの痛みの悲鳴は聞こえない。しっかりと痛みはあるはずなのに。

 その時のレインの顔はこちらに向けての笑顔だった。



「くっそおおおおお!!」


 俺は悔しさから吠えはしたものの、グリフォンはそんなこと気にせずにレインの残った部分を啄んでいる。

 そのお陰か否か、グリフォンは全くこちらに関心を向けなかったので背後を取ることは簡単だった。


 さっきは正面からしか見ることが出来なかったから気付かなかったが、背後に回ったら後ろ足の間に明らかな急所が見える。


「てめぇ絶対許さねぇからな……!!」


 その殺気を感じ取ったのか、レインを平らげたからかは分からないが、グリフォンはこちらに視線を向け、大きな声で威嚇する。

 全身が音の振動でビリビリと震えるが、俺にはそんな威嚇もはや効果は無い。

 クチバシに付いた血が俺の心臓を強く握る。

 持久戦なんて言ってられる心境じゃない。

 一撃で仕留めてやる。

 ありったけの脚力を使って一瞬で相手の死角に入り込み、まだ巨大な体躯がこちらに背を向けている隙に急所を思いっきり殴る。

 その動きを警戒しグリフォンの後ろ足としっぽが激しく動き、俺の拳は急所をかすらせるだけだった。


「グワァァアア!!」


 という大きな悲鳴にも似た叫び声と共にグリフォンは暴れ出す。


「やはり見立ては間違ってなかったようだな」


 かすっただけではあるが確実に大きなダメージは入ったようだ。

 グリフォンはこれまで生きてきて感じたことの無い程の痛みに悶え苦しみながら睨みつけるようにこちらを見つめてくる。

 明らかに殺気に満ちた目。おそらく今の俺もそんな目で睨み返しているだろう。


「次は完璧に当ててやる。」


 そう言いながらグリフォンに向かってかかって来いと挑発する。

 俺もレインを食われて冷静じゃねぇんだよ。てめぇの尊厳ぶち壊して悶え死にさせてやるよ。


 先の一撃で冷静さを欠いたグリフォンは、自慢の翼の攻撃をせずに真っ直ぐにこちらに突っ込んできた。

 突進してくる化け物を前に、俺は一度冷静になるためゆっくりとタバコに火をつける。

 力比べでは叶うわけは無いということは、さっき痛いほど思い知らされた。そういう時は相手のペースを崩し、不意を突く一撃で仕留めるしかない。

 だがこいつは分かりやすく自分の急所を晒してくれた。それは(ひとえ)にレインのお陰だ。ここまでお膳立てしてもらって負ける訳には行かない。

 グリフォンと俺が接触しようという刹那。

 俺にとっては想定通り、グリフォンにとっては聞き捨てならない声が飛び込んでくる。


「一成さん。私は大丈夫です!!」


 レインの声が飛んできたその瞬間、グリフォンの注意が一瞬だけレインに向いた。恐らくレインの声が飛んでこなければ俺は不意を突けなかっただろう。

 俺はグリフォンの大きな足の間にスライディングで入り込む。

 グリフォンが再び俺に注意を向けたようとした時、そこに既に俺はいない。

 そして動き回る足をすり抜けながらそのまま相手の下で身体を縮こませ、バネの反動のように力強く拳を振り上げる。

 自分でも何故できたか分からないが、完全にボクシングのアッパーの動きである。


 グリフォンの胴体が跳ね上がり、後ろ足が少し浮き上がるほどの威力だった。


「文字通り、タマ取ったぜグリフォン。」


 俺の全身を使ったアッパーはグリフォンのキン〇マに完璧にヒットした。

 手に残る柔らかい感触はあまり気持ちの良いものではなかったが、男として確実につま先から頭の天辺までの衝撃があったことは分かる。


「今のでタバコの火、落ちちまったな。」


 キン〇マを潰されたグリフォンは白目を向き、そのまま泡を吹いて倒れ込んだ。

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