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友との別れ

「ふむ。中々悪くない。」


「あんたは初めて吸うのにむせないんだな。」


「五感がほとんど死んでおるからな。まぁ、グールの特権だ。」


 いつの間にかノブナガもあぐらをかき、互いにタバコから立つ煙とともに空を見上げる。

 俺の隣にはレインが散々泣いて腫れ上がった目をしながら俺の肩に頭を乗せて座り、ノブナガの隣にはアゲハがただ凛とした姿でしとやかに正座していた。


「主はたった1人、我に挑み勝利した。その強さの由来するところはなんだ?」


「俺は1人で戦った訳じゃない。最初からレインと2人だったんだ。だから勝てた。」


「いいえ、3人です。アゲハさんが途中助けてくださいました。一成さんが炎から飛び出すタイミングも全部アゲハさんが教えてくださいましたよ。」


「ハッハッハ!!そうかそうか!!」


 ノブナガは笑いながらアゲハを見つめる。


「だが我より強きものは我が生前戦った中にも数多くおった。これからも精進することだな。」


「あんたに勝てる人間がそんなに多いのか?」


「勝つことと強きことは必ずしも同一では無い。我より力が強きもの、技が秀でておるもの、特殊な力を持つものなど数多くおった。ただ我はそやつらより少しだけ速さで勝っただけだ。」


 なるほどな。

 先手必勝とはその通りで、相手が何かする前に倒しちまえれば問題ないってことか。

 速さという点において、俺はノブナガより速い攻撃を見たことがなかったしな。


「そんな百戦錬磨のあんたがなんで死んだんだ?見たところ病気や寿命じゃないだろう?」


 瞬間、ノブナガの表情が曇る。


「……奴らに、あの魔源を巡った者たちに我の力は遠く及ばなかった。一蹴されたよ。」


「そうか。」


「まぁ、そやつらよりもイサミの方が余程強かったがな。」


 そうだ、イサミ。

 前の転生者の話を少しでも聞ければエリクシールの事についても何かわかるかもしれない。


「そのイサミってのは転生者の事で合ってるよな?」


「ああ。共に逃げてきた巫女と呼ばれる女がそう語ったから間違いないだろう。」


「共に逃げてきた……?転生者は巫女を無理矢理攫ったんじゃ無いのか?」


「何を言っておる?やつら2人は我の目から見ればツガイ、夫婦のような2人だったぞ?」


 その言葉を聞いて俺はタバコを大きく吸い、大きく吐く。

 そうなると今の歴史の最終部分の印象はかなり変わってくる。

 裏切ったのは転生者だけでは無い?

 世界を守る使命すらなげうってでも、巫女が英雄達を裏切ったということか?


「その話詳しく、」


「すまんな一成。そろそろ時間のようだ。」


 ノブナガはそう言うと虚ろな目をこちらに向ける。


「主も最初から、この紙巻を吸えばこうなることが分かっておったのだろう?」


「……ああ。あんたを解放できるのは死霊術師の魔力を超える魔力を流し込むしかない。俺のできる方法はこれしか無かった。」


 他のグール達と同じようにレインの回復魔法ならもしかしたら勝てたのかもしれない。

 だがレインが一瞬でも俺の回復を中断した瞬間に俺は死んでいただろう。

 なら、他に膨大な魔力を流し込む方法はこれしか無かった。

 結局戦いが終わった後になっちまったがな。


「心残りなのは、アゲハを看取ってやれない事か。」


 ノブナガがそう呟きアゲハの方に首を傾けた瞬間、その顔を掴み、アゲハがノブナガに口付けをした。

 今まで常にノブナガの傍らに居てもほとんど反応を示さず、表情すら変わらなかったアゲハが自ら動いた。


 ノブナガも驚き、思わず咥えていたタバコを落とした。

 しかしそれに抗うことはせず、アゲハの口にタバコの最後の煙を流し込み、2人とも大粒の涙を流した。

 そして口付けを終えた2人はゆっくりと離れ、ノブナガが俺とレインに頭を下げる。


「心から礼を言うぞ2人とも。これで本当に、心残りは無い。」


 ノブナガの体が淡く輝き出す。

 次いでアゲハの体も同じように輝き出した。

 やがて頭を下げた体制のまま、ノブナガは糸が切れた人形のように崩れた。

 アゲハは最後に俺たち2人に一言、


「ありがとう。」


 と伝え、同じように事切れた。

 最後に見せた笑顔は王の嫁に相応しいほど美しく、儚げな笑顔だった。



 2人を看取った後、俺はもう一本タバコを1人吸い、ノブナガとの約束通り山切包丁を拾って腰に携えた。

 レインもアゲハの竪琴を拾い上げ、大切そうに抱き抱えた。


「良かったんですか?」


「何がだ?」


「お話、途中で終わってしまいましたけど。もう少しなら聞けたんじゃ?」


「良いんだよ。友の最後を、俺の言葉で汚したくなかったんだ。」


「ふふっ、そうですか。」


「なんか面白いこと言ったか?」


「いえ、いつの間にかノブナガさんのことを友と呼んでいるなぁって。アゲハさんの言ってたことが少し分かる気がします。」


「アゲハの言ってたこと?」


「教えませーん。一成さんすぐ無茶するから。」


「それは本当に、ごめんなさい。」

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