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一瞬の隙

「初めからお主のその紙巻に何かがある事は分かっておった。だがお主の動きが徹底してその紙巻を斬らせないようにする動きだったおかげで全く掴めなかったのだ。」


「はぁはぁ……。」


 タバコを斬られてほんの数十秒。

 ノブナガの太刀筋が見えるようになったので、ある程度は攻撃を回避できるようにはなったが、それと同時にとめどない連撃でタバコを吸い直す時間が無い。

 レインの回復が遅くなったとは言え、腕が落ちる程の深手を負っても数秒すれば元に戻る。

 だがもう後1分も意識を保っていられる気がしない。

 すぐにでもタバコを吸わないと。

 こんな時にヤニカス発動しなくても……。


「随分と息が切れておるな?」


「タバコは俺にとって酸素なんだよしょうがねぇだろ!!」


 肩で息しながら怒涛の攻撃の致命傷を避け続ける。

 腕が無くなるのはある意味的が小さくなるから良い。

 確実に回避しなければならないのは首から上と心臓。

 この2つに攻撃が当たらない限りは死ぬことは無い。

 逆に言えば、さっきまでとは違い、この2つに攻撃が当たると死ぬということだ。


「避け続けているだけでは勝てんぞ?」


 実際俺は危険すぎて攻撃ができていない。

 そこに神経を一瞬でも使ってしまうと、次の攻撃で的確に致命傷が飛んでくるからだ。

 少しづつ後退しながら避け続けるしか俺に選択肢は無かった。

 だがそれも長くは続かない。

 回復による意識混濁と、呼吸を忘れるほど早い連撃は、着実に俺を窮地に立たせていた。


「やべぇ!!」


 足元が疎かになり、体勢を崩した瞬間、俺の顔面に向けてノブナガの刃が迫る。

 瞳に刃が当たる。

 しかしそのまま俺はグルンと後方に倒れ込み、回るように坂を下った。

 そう、俺の後方はさっき俺が【灰の一撃】で大きなクレーターを作った場所だった。

 そのまま中央に引き寄せられるように力無く転げ落ちていく。

 ってことは中央は、


「更にやべぇ!!」


 集められ燃え盛るグールたちが転げ落ちながらでも確認できる。

 もう全てのグールが動けなくはなっていても、炎自体が消えた訳では無い。

 このままだと自分で作った炎に自分で突っ込む事になる。


「うぉぉおお!!」


 魂の叫びだった。

 地面に拳をめり込むほど叩きつけ、勢いを殺す。

 しかしタバコの魔力が残っていない今の俺の力では、簡単に止まる勢いでは無かった。

 俺の手の皮膚が剥がれては再生しを繰り返す。

 俺が勢いを止めようとした地面には一直線に血の跡が残った。


 気付くのが早かった事が幸いし、炎のギリギリ1歩手前で俺の体は止まった。


「あ、危ねぇ……。」


「そうだな。」


 顔を上げると、ノブナガが俺の目の前に居る。

 後ろは炎。

 前には王。

 まさしく絶体絶命。


 その時、俺の意識は一瞬飛んだ。

 そして我に返った時、俺はもう既に炎の中に飛び込んでいた。


「な、何だと!?」


 ノブナガの驚く声が聞こえる。

 流石の信長も炎の中までは追って来れないようだ。


 喉が熱い。

 身体が熱い。

 身体中の水分が沸騰しているのにもかかわらず、死ぬ事が出来ない激痛。

 腕や足が切り落とされた時の比ではない。

 だが俺は、一瞬前の俺の判断が間違っていなかったと気付いた。

 周りにあるのは炎。

 つまり火。

 火種があれば、俺は、一瞬でもタバコが吸える。


「スー……ハァー……。」


「一成さん、タイミングを私に合わせて出てください。」


 レインの声が聞こえる。

 俺が炎に焼かれていることは分かっているので、かなり辛そうな、悲しそうな声で呟いていた。


「良いですか?……1、2の……3!!」


 何故レインがそのタイミングが分かったかは想像もできない。

 ただ、その時の俺は1秒でも早く激痛から逃れるため、レインに従うしか無かった。

 飛び出した瞬間、竪琴の弦が切れる音が響き、音色が中断される。


 つまり、俺の身体が自由に動くようになったということだ。


「食らえノブナガァ!!」


「なっ、ハッハッハ!!粋なことをしおる!!」


 ノブナガは弦が切れたことでほんの一瞬だけ隙を見せていた。

 全ての運が俺に傾いている。

 ノブナガは咄嗟のことで抜刀の構えを取れずにおり、飛び出した俺の一撃を、さっきまで居合で刀を抜いていた方の右手で防ぐしか無かった。


「うぉぉおおお!!」


「はぁぁあああ!!」


 生身の体で魔力を込めた俺の拳を止めてやがる。

 ぶつかった衝撃波で後ろの炎がさらに勢いを増す。


 ここまでお膳立てしてもらったんだ。

 負ける訳には行かねぇだろう。


 俺は全力を込めた拳をノブナガの右腕ごと振り抜いた。


「やっと届いたぞ。王の膝元に。」


 俺が余韻に浸っている一瞬の隙を、片腕が弾け飛び、満身創痍なはずのノブナガは見逃さなかった。


「片腕が無くなった程度で居合出来ないとでも?」


 ノブナガは鞘に収まった刀を上に投げ、鞘に噛みつき、左手で勢い良く刀を抜刀した。


「んな!?」


 今度は俺の隙を見逃さず、ノブナガの剣閃が俺の首を真っ二つに両断する。


 だが、戦闘を開始してからずっと隙を見せていなかった人物がたった1人居た。

 音色が止み、その力が完全に使えるようになった今、もはや俺はグールよりも不死になっている。


 ノブナガが刀を振り抜いた時には既に、両断された首の傷は回復していた。

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