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変わる音色

 無事に次のタバコに火をつけた俺は、砂塵に紛れながら少しでも距離を縮めようと足を踏み出す。


「残念だが、既に位置は分かっておるぞ。」


 踏み出した足が斬れる感覚。

 少し体制を崩しかけたが、正拳突き後の空手の重心を下にした構えのおかげですぐに立て直せた。


「また構えが変わったか。」


 ノブナガが眉をひそめる。

 俺がかなりアバウトにやっているだけの動きがそんなに気になるのか?


「その戦い方は、イサミによく似ておる。あやつもコロコロと戦い方や構えが変わりおった。」


 同じ転生者同士、似ている性質があったのかもな。


「いや、正しくはあやつの場合、戦闘中にもはや人格そのものが変わっておったがな。」


「そんなんでまともに戦闘できるのか?」


「言ったであろう?イサミは強かった。今のお主よりも遥かにな。」


「そりゃそうだろう。世界を裏切り、世界を相手取って戦えるほどの男だぞ?」


「後世ではそう伝えられておるのか。まぁ無理もない。事実ではあるからな。」


 ノブナガは友人を思い、少し構えに力が入ったのが音で分かった。

 それ程親しい関係だったのか。

 だが少し疑問が残る。

 世界的な嫌われ者の過去の転生者が、一国の王とここまで親しくなるか?

 正直言って俺はこの過去の転生者はろくでもない男だと思っていたが、どうやらそんなことは無いようだ。


「アンタはそのイサミという男が何故世界を裏切ったのか知っている口ぶりだな。」


「当然だ。イサミが我と出会ったのは世界を裏切った後だからな。」


「そうか。旅を終え、最後の魔源を収めた後出会っているのか。」


「イサミの名誉の為に言っておこう。あやつは全てを救おうとしたのだ。我があやつに協力したのは、あやつが我には出来ない選択をしていた事と、我も同じ状況なら同じ事をしていたという確信があったからだった。」


「何だかよく分からねぇな。」


「それを詳しく説明できるほどお互い時間は残されておらんだろう?」


 お互いだと?

 俺の方は見抜かれているにしても、ノブナガに俺は一度も攻撃を当てられていないんだぞ?

 そう思いつつ、ゆっくりと晴れていく砂塵の中、ノブナガを見つめた。


「……なるほどな。」


 ノブナガの肩と肘の部分の衣服に血が滲んでいる。


「普段ならグールは魔力で肉体は多少回復するのだがな。流石に山切り包丁を使いすぎた。」


「って言っても横で魔力を底上げしてもらっているだろう?」


「それを凌ぐ勢いで体が削れていっておるのと、この辺りは森に囲まれて居るはずなのに魔力がやたらと薄いのだ。恐らくお主の相方のせいだろうがな。」


 今までノブナガに注視し続けていたために気付かなかったが、周囲を見ると、森の木々が弱り、ある一点を中心に枯れていっている。

 枯れ木の魔女、レインの力だろう。

 周囲の魔力を全て俺に注ぎ込んでくれているのだ。


「今までハッキリ言って希望が見えなかったが、レインのおかげで少しだけ希望が持てたよ。」


 呟くようにレインに礼を言い、改めてノブナガに向け構え直す。

 レインがずっと泣きながら俺を回復し続けてくれていることは分かっていた。

 時折ひっくひっくと嗚咽が混じっているからだ。

 レインの回復のタイミングがたった一瞬でも遅くなれば俺は死ぬ。

 人1人の命を常に握っているという今の状況は、優しいレインにとって苦痛でしか無いだろう。

 それを全て分かった上で俺はここに立っている。

 とんでもないエゴイストでサディストだな俺は。



「ん?何だ?」


 俺とノブナガがまた拳と刃を交えようという時、聞こえてくる竪琴の音色が突然変わった。

 先程までのノブナガを鼓舞するような激しい音色から一転、ゆったりと優しくもどこか物悲しい音色だ。


「成程。そういう事か。」


 ノブナガがひとりで納得している最中、レインがなにかに気づく。


「な、何ですか?え?何?」


「どうしたレイン。」


 離れた場所で1人困惑するレイン。

 声は聞こえるが、少しパニックになっていて、俺の声は届いていないようだ。

 このままレインが離脱すると確実に負ける。


「どうしたレイン、答えてくれ!!」


「一成さん、聞こえないですか?」


「な、何がだ?」


「この音色に乗って、私達を眠らせてくれという声が。」


 取り乱していたさっきとは違い、嫌に冷静だった。

 だが俺にそんな声は全く聞こえない。

 レインがこんな状況で冗談や嘘を言うような人間でないことくらい分かっている。


「いや、俺には、っく!!」


 流石にそんなにノブナガが待ってくれるはずもなく、足を両断され体制を崩す。

 何故かさっきまでより痛みが強い。

 そして傷の治りが遅い。

 回復魔法がかかり続けているのは俺の意識が相変わらず遠のく感覚で分かっている。

 ということは、


「この音色で回復魔法が妨害されている?」


「その通りだ。アゲハのこの音色が聞こえている範囲全ての魔力を下げる効果がある。それはお主だけでなく、その相方も勿論対象だ。」


「お前は違うのか?」


「もちろん我も対象だが、それを差し引いても、」


 ノブナガはすり足でまた一気に距離を縮め、一瞬で俺の目の前に現れる。

 魔力が下がった分、遠距離の抜刀を諦め、実力勝負のインファイトをする気だ。


「お主とは鍛錬も経験も大きく違う。この音色が流れた時は我に実力で勝ってこいという合図なのだ。」


 抜刀の速度は先程より早くない。見える。

 しかし反応できても身体がそれについて行かない。

 足元がまるで深い水の中にいるような感覚だ。

 ずっと魔力全開で動いていたため、その魔力が無くなると動きが一気に重くなる。

 このまま斬られると、回復が間に合わず、死ぬ。


 ビュンという風を切る音と共に、ノブナガの攻撃が終わる。

 山切包丁の先端には、斬られたタバコが乗っていた。


「お前、最初からそれが狙いで!?」


「さぁ、本当の実力勝負はこれからだ。」


 タバコのストック残り2本。

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