高い注文
一瞬で再生する俺の下半身。
俺もノブナガも突然響いた声に驚いたが、いつかのグリフォンと同じように、ほんの一瞬だけ俺の方が先に我に返った。
地面に足の着く感覚。
「オッラァ!!」
そのまま俺は腕を振り抜いた。
これから振り返ろうとしている人間では、とても回避も防御もできない速度だったはずだ。
振り抜いた方向の木々はその衝撃でなぎ倒される。
突然の出来事で体重を乗せることは出来なかったが、不意を突いた事もあり、いくらノブナガでも無事ではすまない。
と、思っていた。
「……今のはかなり肝を冷やしたぞ。この感覚はかつて転生者と呼ばれた男、カトウイサミと戦った時以来だ。」
周囲の木々がなぎ倒される中、ノブナガの後ろだけは綺麗に残っている。
こちらを振り向く事もなく、持っていた武器で俺の攻撃を止めていた。
しかし武器の鉄パイプは見事に俺の拳の跡がくっきりと残ると共にほぼ貫通しており、半分から先の部分がプラプラと揺れ、やがてちぎれてカランという音と共に地面に落ちた。
「……カトウ……イサミだと?」
俺が何より気になったのは、どうやって鉄パイプで俺を切ったかという事でも、不意を突いた一撃を平然と止められた事でも、レインが助けに来てくれた事でもない。
ノブナガが呟くように言った一言。
「アンタは転生者と会ったことがあるのか!?」
「あるぞ。強い男だった。実力的にも、精神的にもな。知りたいか?」
「ああ。是非とも知りたいね。」
「ならば、」
ノブナガはそう言うと持っていた折れた鉄パイプをほおり投げ、自らの腰の後ろに隠し持っていた、長さは脇差程度、太さは鉈程ある刀を1度抜き刀身を確かめた後、鞘に収めて先程の居合の構えになった。
「戦いの中に真実はあろう。」
「本気のアンタと殺り合えってことか。」
「は、早くやってしまいなさい!!」
そういえばジェイクスを忘れていた。
俺とノブナガの戦いが時間にして1分にも満たなかったのと、その互いの強さに腰を抜かして尻もちを着き、しばらく動けなかったようだ。
そんなジェイクスの水を差す言葉に、ノブナガは俺以上にキレていた。
さっきと同じ、ほぼ見えない早すぎる抜刀と共に突風を巻き上げ、ジェイクスの首元薄皮1枚もない、呼吸をすれば刀に触れる距離で寸止めして、さっきまでとは全く違う鬼のような形相でジェイクスに言った。
「あまり調子に乗るなよ。我がお前に従っておるのはアゲハに意思がないからだ。お前の首を落とし、一成にアゲハとともにもう一度埋葬してもらうことも出来るんだぞ?」
「うっ……わ、分かりました……。」
これが身の丈に合わない力を求めたものの末路か。
あれだけ劇団がどうこうはしゃいでいたジェイクスが、小さくなって自らのグールに魔力だけを消費され続ける男に成り下がるとは。
「レイン、聞こえるか?」
「ハァハァ……はい。お叱りは後で。」
道が悪い中、相当走って戻ってきてくれたのだろう。
「いや、本当によく戻ってきてくれた。」
「私も後で言いたいことがあるので。」
あれ、レインさんもしかして怒ってる?
さすがに無茶しすぎたか。
レインから静かな怒りの圧力を受けたときとほぼ同時に綺麗な音色が響き出す。
レインとの感覚共有で音の元を辿ると、アゲハが古びた竪琴を奏でていた。
「この音色を聞いたのは死んだ時以来か。」
ノブナガが感慨に浸り、構えた体から力が少し抜けたのが分かる。
「レイン、先に謝っておく。俺はこれからかなりの無茶をする。」
「……知ってます。」
「それだけ無茶をしても勝てるかは全くわからん。」
「それも知ってます。」
「だからレインは、俺が絶対に負けないように俺を常に回復し続けてくれ。」
少し間が空く。
時間にして数秒もない間だが、レインが言いたいことは分かる。
少し前、自分の回復魔法でブルがしばらく動けなくなった。
俺も俺で当初は回復魔法をかけられ続けると、丸1日寝たきりになったりしていた。
「……分かりました。その代わり、街に戻ったら屋台のご飯が食べたいです。」
「ははっ。高い注文だな。」
本当にいくらになるか分からんからな。
「ノブナガ、俺は絶対に負けられなくなった。そっちはどうだ?」
「無論アゲハが奏で出した以上、こちらもだ。」
ノブナガの構えにまた力が入る。
来るか?という心構えよりも早く、その剣閃は俺の体を貫いた。
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