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天下を取った男

 約100年前、帝国から遥か東にあった小さな国。

 当時世界全体が魔源の出現により大きく荒れていた時代、己が力だけで魔物に立ち向かい、そして制した数少ない人間。

 名をノブナガと言う。


 生まれつき体の強かったノブナガは幼少期から魔物の子と呼ばれ迫害されていた。

 ある時、村に来ていた鎧武者が、魔物の子と言うホラを信じノブナガに斬りかかる。

 ノブナガは必死に抵抗し、落ちていた木の棒を振り抜いた。

 ノブナガの強大な力を乗せた木の棒は、甲冑ごと鎧武者を真っ二つにし、粉々に砕け散った。

 武者を殺す事は重罪であるが、ノブナガに恨みを買うことを恐れた村人たちは、追放という形を取り、ノブナガを村から追い出した。


 その後流浪の旅に出たまだ15のノブナガは、腹を満たすために魔物を食った。

 魔物は魔力の塊であり、普通の人間が食べると魔力過多を起こし最悪の場合死ぬ。

 しかしノブナガは魔物を食って食って食い続けた。

 当時東の地方ではまだ魔法というものが確立されていない。

 つまりノブナガは人より内包した魔力が大幅に多い人間であった。


 魔物を食い続けた結果、さすがのノブナガも魔力過多を起こし、生死をさまよう。

 そんなノブナガの命を救ったのが、後の妻となるアゲハであった。

 アゲハは元々エルフの里出身であり、口減らしに里を追い出された後、東へ彷徨い歩いていた女だった。

 アゲハの魔法は音楽である。

 その音により、人の内包する魔力を強めたり弱めたりすることが出来た。

 その魔法のおかげでノブナガの魔力を弱め、命を救うことが出来た。


 同じ境遇の2人が惹かれ合うのは当然であり、2人はそのまま一生の契りを交わす。

 その後10年安息を過ごした後、ノブナガは荒れ果てた世界の民を救うため、魔物に立ち向かうことを決意。

 魔物討伐をし続け、村や里を救った。

 かつて自分を迫害した村すらも助ける優しさと、圧倒的な強さが強い人望を生み、やがて国を建国し、東の諸国を統一するまでに至った。


 ノブナガは数々の逸話が語り継がれている。

 その中で最も有名な逸話。


 隣国が魔物の群れに襲われた。

 他の雑兵はどうにかなったが、群れのリーダー格であったオーガロードにだけは隣国の兵では手も足も出なかった。

 大木から作られた棍棒の一振で木々をなぎ倒し、隣国の家屋はあっという間に破壊され、人々は蹂躙された。

 その知らせを受けたノブナガは、敵国であるにも関わらず支援を承諾。

 しかし隣国との間には険しい山がそびえ立ち、山を超えるにしても迂回するにしても、隣国が完全に破壊される以上の時間を有した。


 そこでノブナガの取った行動は、非常に単純であり簡潔。

 山1つ、国1つ跨いだ先にいるオーガロードの首を、山向こうから断ち切ったのである。

 圧倒的な剣速と魔力コントロールからなる離れ業。

 周辺諸国では、オーガロードをノブナガが斬った事は誰一人信じなかったが、アゲハとノブナガの実力を知る民だけはそれを一切疑わなかった。

 その後、数多の戦いで彼は同じ芸当を繰り返し、彼が死ぬ頃には信じない者は誰もいなくなった。

 死後、彼が生涯愛用した刀は『山切包丁』と呼ばれ、彼の遺体と共に埋葬された。


 勿論上に書かれたことを一成は知る由もない。

 しかし一成は彼から浴びたたった1太刀で、ノブナガというひとつの歴史を感じ取り、改めてふんどしを締め直した。

 それ程迄に洗練され、無駄も迷いもない一撃だったのだ。



「しかし驚いたぞ。先も言ったが、我の1太刀を受けて立っていた者は死後1人もおらんかった。その上かなりの傷のはずだが、全く戦意すら喪失しておらんとはな。」


「ここで退けば無料(ただ)働きになっちまうからな。こう見えて借金地獄でね。」


「いや、普通に金に困ってそうな見た目ではあるがな。」


「ま、マジかよ……。」


「我が放った一撃よりもダメージ受けるの止めてもらって良い?」


 流石に今の言葉は少し精神的に効いたが、絶対にノブナガから目線は逸らさない。

 いや、正しくは逸らせないか。

 今はさっきの一撃が飛んできた時の居合のような構えではないが、それでも全く油断出来ない相手だ。

 腹部の出血が少し不安だが、痛みにはとっくに慣れたしそろそろこちらからも仕掛けないと、長引いて損をするのは恐らくこちらだろう。


 俺はノブナガから目を離さず新しいタバコに火をつける。


「ほほう。そろそろ来るか?」


 ノブナガは俺がタバコを吸い始めただけで、勘づいてゆっくりと居合の構えに入る。

 さっきの一撃、攻撃が届くまでは完全に見えなかったが、一瞬だけ振り抜いた後の動きが見えた。

 つまり武器を振っていない訳では無い。

 そうなると、まだ力が乗り切っていない攻撃の出だしを止めるのが1番得策だろう。

 捨て身の特攻ではあるが、俺自身あの男にせめて一撃でも入れてやりたいと思っている節がある。


「行くぞ、ノブナガ!!」


「来い小僧!!」


 前へ飛び出す1歩が重い。

 怖くないと言えば嘘になる。

 恐らくこれ以上まともにくらえば俺は死ぬだろう。

 それでも踏み出した俺の1歩は、一瞬で俺をトップスピードに持っていき、弾丸のようにノブナガへと打ち出してくれた。


「見えた!!」


 ノブナガの動きが一瞬だが見える。

 振り出そうとする腕の動き。


 しかし次の瞬間にはもうノブナガは武器を振り切っていた。


 良かった、痛みは無い。

 攻撃は空振ったのか?


 俺はもう少しでノブナガに届く。


 この一撃が決まれば、


「惜しかったな一成。後もう一歩だった。」


 そう言って後ろを向くノブナガ。


 足の感覚が無い。


 と言うより下半身の感覚が、


 下半身が、無い。



 そう気づいた瞬間、何処からか聞き覚えのある声が響いた。


「【回復魔法】!!」

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