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最後の舞台

「レイン。俺の考えが正しければ今回お前の回復魔法が全員を救うことになる。」


 俺は小声でレインにだけ聞こえるように作戦を伝えた。

 上手くいく保証は無いが、この状況ではやらないよりマシだ。


「……そんなことしたら!!」


「全員救うにはこれに賭けるしかない。頼む。」


「わ、分かりました……。」




「お前ら、先に言っとくぞ。」


「もう何を言われても驚きませんよ……。」


 俺の呼びかけに力無く返事をするランス。

 相当こっぴどくやられたのだろう。

 俺は落ちている小石を拾い、ポンポンと手の上でバウンドさせる。


「当たったら、すまんな。」


 指先に力を込め、ランスの後方のグールに向かって全力で小石を投げる。

 クレーターの外側にご丁寧に立っているので、目算距離にして10メートル程。

 キャッチボールの経験くらいはあるが、投石は流石に無いので当たるかどうかは分からん。


 幸い、パンッ!!と言う音とともにランスの後ろのグールの頭がはじけ飛んだ。

 小石とは名ばかりの、手のひら大の弾丸を飛ばしたような威力が出た。


「失敗したな。先に死霊術師を狙えばよかったか。」


「き、貴様!!俺の舞台役者の顔をなんて事を!!」


 流石はグールと言うべきか、頭を吹き飛ばしてもランスを捕らえている腕は解けていない。

 だがこれで、一瞬だけジェイクスの注意がそちらに向いた。

 その隙に俺は地面を叩きつけ、粉塵を巻き上げる。


「んな!?お前だけ目隠しで逃げるつもりか!?」


「さぁ、後は運まかせだ。」


 粉塵の中、俺はグリフォンの上でタバコを吸いながら、あぐらをかき腕を組む。

 そこまで力を込めていないこの粉塵は、そう長い時間は持たない。

 だが、たとえ目が見えなくとも、レインがクレーターを駆け上がる位の時間は稼げる。


 ある程度粉塵が消え始めた時、ジェイクスから俺が見えないようにグリフォンの陰に身を隠す。


「……まさか本当に逃げたというのか!?……いや、グリフォンの後ろに居るな?」


 バレることは想定内だったが、まさかこんなに早くバレるとは思っていなかったな。


「ハッハッハ!!煙が立ち上っているぞ?」


 あー、これは普通にやらかしましたね。

 タバコ咥えたままでしたね。

 わ、わざとだよわざと!!


「我が劇団員達よ!!アイツを捕らえろ!!」


 ジェイクスの掛け声と共に四方八方からグールが俺に向かって走ってくる。

 逃げる気なんてサラサラなかったが、最初から取り囲んでいたって事は俺に逃げ場なんてものはなかったんだな。

 とんだ役者じゃねぇか。


「ガァァアア!!」


 声にならない叫びを上げながら走ってくるグール達の身体は、ほとんど骨と皮しか残っていない。

 それなのに顔だけはやたらと綺麗に残ったまま整っており、見ていてかなり不気味だ。


「動きが一辺倒で遅ぇな。」


 これだけ大量のグールを操るとしたら、細かい指示は出来ないのだろう。

 顔を前に出しながら真っ直ぐに噛み付いてくる。

 少ししゃがむだけで簡単に回避できるが、数が多いうえに殴っても全く怯まないため、結構体力を持っていかれる。


 バキン、バキンと足の骨を折っていき、グールたちの機動力を削いだ後そのグール達を投げ飛ばしては次のグールに当てる。

 頭を吹き飛ばしてもまだ動き続けるコイツらを倒すにはこの方法が最も効率的と判断した。

 この作業を何十回も繰り返し、全てのグールを戦闘不能にする迄にさすがの俺も息が上がってしまった。


「はぁ……はぁ……。」


 膝に両手をつき汗だくだが、何とか倒し切ることに成功した。

 タバコの吸いすぎで体力が落ちてるんだろうな……。


「まさか、あの数のグールを傷一つ負わずに倒したというのか……!?」


「流石にちょっと休憩させてくれ。」


 ジェイクスを見上げながら、俺はタバコに火をつけ、ゆっくりと一服をする。


「ふー。疲れたな。」


 足元には両の足を折られ、ほふく前進でこちらに詰め寄ろうとするグール達が大量に横たわっている。

 どこまでも哀れな奴らだ。

 死霊術師に道具として消費され、望まない戦闘を繰り返し続け、最後にはこうしてまるで生者を羨むように縋り付いてくる。

 これ以上、コイツらをこのままにして置くのは俺の良心が痛むな。


「確か、ライターの中のオイルが無くなった時用にミラ姉さんがくれた替えがあったな。」


 内ポケットの中に忍ばせておいた小さな小瓶。

 ミラ姉さんがライターのつきが悪くなったら使いなさいね♡と、俺にライターを返した時一緒にくれたものらしい。

 親指ほどの見た目に反して結構重く、2リットルのペットボトルほど重量があった。

 ルシウス曰く、


「この中にはミラさんの特殊な魔法で圧縮された液体が入ってますね。小瓶から出せば元の液体のサイズに戻るので、オイルを継ぎ足す時は慎重に行ってください。」


 との事だった。

 つまりこの中には2L程のライターオイルが入っているという訳だ。



 俺は中央のグリフォンの上に立ち、グール達をそこに集める。

 そして一旦タバコの火をしっかりと吸い切って消火し、グールやグリフォン全体に満遍なく小瓶の中に入っている大量の液体を振り撒いた。


「お前らの最後の舞台だ。しっかり魅せろよ?」


「貴様、何をして!?」


 少し離れた位置でもう一度タバコにしっかりと火をつけ、今度は火のついたタバコを中央のグリフォンに向かって投げ入れた。


 痛覚すら完全に残っていないであろうグール達に残された数少ない物。

 熱さすら感じないはずのグール達は、その身に残された『恐怖』という感情により、全員が炎に包まれながら絶叫していた。


「喜べジェイクス。これ以上ないリアルな名演技だったぞ。」

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