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獣人の村

 獣人の村まで普通の人なら徒歩で丸一日掛かる距離らしいが俺たちは2日掛けて進んだ。

 道中何度か魔物に出会った。スライムの様なものからゴブリンの様なものまで様々いたが、鍛え上げられた俺の筋肉には勝てなかったようだ。

 流石に2m以上あるゴーレムが出た時には肝を冷やしたが木々に隠れたりして何とかやり過ごした。

 俺は獣人の村に着くまでで十分に異世界を堪能したと言える。



「私のせいで余計に時間が掛かってしまってごめんなさい……」


 1日目の夜、焚き火の前で野宿をしていると、レインが体育座りでブランケットをかけた膝を抱えながら話し始めた。


「気にするな。仕事を丸1日以上していないのも、ゆっくり人と話すのもここ最近はしていなかったんだ。俺としては楽しいんだよ。」


 タバコに火をつけながらレインの隣、人一人分空けて座ると、空いたスペース分レインが俺の方へ近寄ってくる。


「タバコの煙、大丈夫か?」


「1日中吸ってらっしゃいますから、もう慣れました。」


「それは……なんというか……」


 その言葉は元居た世界では皮肉なんだろうな。

 でもレインの表情にそんな様子は微塵もなく、寧ろタバコの煙に慣れたことが嬉しいかのような笑顔を俺に向けていた。


「私もこうして人と話すのは久しぶりで楽しいです。」


 赤く照らされたレインの笑顔はどこまでも屈託なく無邪気で、社会に揉まれた俺には明るすぎた。

 恥ずかしかった訳では無い。眩しすぎて目を伏せる。


「どうかしました?」


「いや、俺はレインのその明るい笑顔が好きだぞ。」


「ふぇ!?」


 驚いた顔も可愛らしい。娘を見ているみたいで心が和む。

 多分俺が迷いなくレインを守ろうと決められたのはこういう感情が生まれたからだろう。

 元々誰かの面倒を見るのは嫌いじゃなかったしな。


「あ、あの……」


 レインは顔を伏せたまま頭をこちらに寄せている。

 ……これは何が正解なんだ?

 とりあえず綺麗な白銀の髪をゆっくりと撫でてやる。

 すると一瞬こちらを見えない目で見た後、ゆっくりと俺の胡座をかく膝の上に頭を乗せた。


「これ、昔お父さんに良くやってもらっていたんです。それがすごく好きだったんです……」


「そうか。」


 レインの前だと自然に俺の顔も優しくなるのが分かる。

 レインはそのまま寝息を立て始め、俺もそれに釣られるように眠った。




 翌日……


「遠くで人の声が聞こえます。」


「やっと着いたみたいだな。」


 まだ村の入口まで結構離れているのにレインにはしっかりと音は聞こえているようだ。

 獣人の村は大きくは無いが活気のある村だった。レイン曰く主に狩りで生計を立てている村らしい。

 村の入口には門があり、両脇に監視塔が設置してあった。


「何者だ!」


 監視塔の方から勇ましい大きな声が聞こえる。


「旅の者です!少し休ませていただけませんか?」


 俺も自然と声が大きくなる。暫くすると門が開き、ガタイのいい獣耳をつけた男性が出てくる。


「人間の旅人とは久しいな!俺はこの村の警備長のリックだ!よろしくな!」


「俺は一成です。」


「レインです……」


 リックが豪快で圧倒されたのかレインが縮こまっている。

 俺たちはリックと握手を交わし、そのまま強引に村の中へと案内された。


「お前らどれくらい居るつもりだ?」


「1晩休ませてもらえれば街に向かおうと思ってます。」


 するとリックは難しそうな顔をする。


「ならもう何日か泊まっといた方がいいぞ。街までの道中にグリフォンが出てな。今、街の人間に応援を頼んでるからな。」


「どれくらい掛かりそうですか?」


「んー、今回のは結構デカいからな。例の剣聖でも来れば話は別だが……」


 顎髭をいじりながら考えるリックに若い獣人が駆け寄ってくる。


「リックさん!例のグリフォンが村の方に移動し始めて、止めようとした何人かが重傷です!」


「何!?スマンが案内できるのはここまでだ。後は辺りの奴らに聞いてくれ!」


 そう言ってリックは村の入口の方へ走って行った。その話を聞いてレインがソワソワしている。

 性格上多分……


「助けたいのか?」


「はい!」


 レインは真っ直ぐこちらを見つめて力強く答えた。



 入口付近にたどり着くと何人かの獣人が手当を受けている。その中には意識の無い者も居る。

 レインは直ぐに一人一人に駆け寄り回復魔法をかけ始めた。


「嬢ちゃん回復魔法士だったのか!ありがとう!」


 リックがレインに頭を下げている。

 そんな声も聞こえていないのか、レインは真剣な表情で次々に獣人達を癒していた。


「回復魔法士はかなり珍しいんだ。それにこんなに早い治癒は初めて見たぜ。」


 俺はレイン以外の人間と出会うのはここが初めてだから驚きが隠せない。


「レインは頑張ってるのに俺は……」


 握った拳を見つめながら出来ることがないか考えてみても、知識も経験もない俺には何も思いつかない。


「仕方ねぇよ一成。グリフォン相手じゃただの狩人の俺らもどうしようもねぇ……」


 リックが悔しそうに眉を顰めた。

 そこへ全員の治療を終えたレインが駆け寄ってくる。


「私、グリフォンを止めに行きます。」


「何!?」


 俺とリックが口を揃える。


「このままじゃもっと被害は拡大します!行かせてください!」


「言い出すとは思ったけど……分かったよ、俺も行こう。」


「お前ら無茶を言うな!村は最悪捨てればいい!命の方が大事だ!」


 リックが正論を言っているのはよく分かっている。だがレインとならまた回復をかけまくって貰えば俺が死ぬことは無いはずだ。

 リックを見つめ、俺たち2人の決心が固いことを示した。


「その目は本気なんだな……?」


「ええ。生きて帰ってきますよ。」


 リックはやれやれといった表情で「ちょっと待ってろ」と言って村の中へ走って行った。


「ごめんなさい私……」


「大丈夫、前と同じ様に戦おう。俺たちならどうにかなる。」


 しばらくしてリックが村で用意出来る最高の物だと言って手甲と足具を俺に着けてくれた。手甲も足具も鋼鉄製であり、これならグリフォンの爪でも壊れはしないらしい。


 ただ、身体自体が強くなったわけじゃないからまともに受けたら衝撃で普通に死ぬとも言われた。

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