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人の痛み

「大変申し訳ありません。」


「ランス!!アンタ!!」


「迷惑をかけたのはこちらだ。謝る義務がある。」


 騎士のようなランスと呼ばれた男がルシウスに頭を下げている。

 ルシウスは他人事のように受付を見て、


「いえ、私よりあちらの方に謝ってあげて下さい。一成さんは隠そうとするだけで、なんだかんだで短気ですからねぇ……」


 そう言われて改めて受付の女性に謝罪するが、女性は冷静に返した。


「構いません。冒険者の方を受け入れているのでこの位は慣れてますから。ただ、入口のドアの修理代は天引きさせていただきます。」


「あ、はい。すみませんでした。」


「相変わらずですねぇ受付さん。」


「ルシウス様も、先程表に走っていった女性が落として割ったコップ、弁償してくださいね?」


「それに関しては表で戦ってる彼にツケといてください。」




「ありがとうレイン。もう大丈夫だから下がっててくれ。」


「いえ、私はもう一成さんが怪我をするところを見たく無いんです!!」


 大通りの真ん中、俺を回復してくれたレインはどける気がない。

 ゆっくりとブルの大きな足音が近付いてくる。

 どうしても俺に戦って欲しくないレインは、以前の俺と同じように俺とブルの間、手を大きく広げてブルを静止しようとしている。

 後ろから見える小さな背中が震えている。


「どけ。女。」


「どきません。ここで戦っても何も生みません。」


「どけって言ってんだろ!!」


 ブルは叫ぶと共に静止しようとしたレインを突き飛ばした。


「あ。」


 様子を見ていたルシウスとソールが思わず口を揃えて呟く。


「んーこれはご愁傷さまかしら?……ルシウス。アンタまで出たら建物だけじゃなくてここいら一帯消し飛ぶわよ。」


 ルシウスは背中の剣を強く握り、鞘がカタカタと揺れる。

 その様子にソールを除く職安に居た人間全てが、ルシウスの静かな怒りにより溢れ出た魔力を感じて恐怖した。

 だが俺は遠目でその様子が見えていたので、ルシウスが手を出さないよう睨みつける。


「ソールも一成さんも、分かってますよ。レインさん、こちらに。」


「でも!!」


「大丈夫ですよ。一成さんは油断してなければこの程度の相手に怪我なんてしないでしょうから。」


 ルシウスの野郎無茶苦茶言いやがる。

 イケメンスマイルでその言葉飛ばしてくるのはもう悪意しかないだろう。


「邪魔者は居なくなったな。ほら、始めようぜ。」


 俺はポケットからタバコを取り出し火をつけて戦闘態勢に入る。


 ひと吸い。


 ふた吸い。


 大振りな拳が俺に向け飛んでくる。

 前に戦ったエルフより余程遅い。

 さっきと同じ様に拳の外側に回り込み、その拳をいなそうとするが、それを読んでいたのか振り下ろした拳をすぐに裏拳に変え、追撃してくる。


「あっぶね。」


 咄嗟に仰け反りその拳を躱すと、もう一本の腕でラリアット。

 やたらめったら大振りで回避しやすいな。


「ちょこまかと!!素直に殴られろよ!!」


「もう少しスマートに戦えるようになってから言ってくれ。」


 飛んできたラリアットに全力でアッパーを合わせる。

 バキンと聞き覚えのある音が聞こえ、相手の腕の関節では無いの部分があらぬ方向へ曲がり跳ね上がった。


「ぬがぁぁああ!!」


 ブルはしゃがみながら曲がった腕を抱え、痛みでもがいている。


「ほら、しゃがんでたらただのデカイ的だぞ?」


 タバコをひと吸いして相手のもう一本の腕を踏み潰し、折る。

 そのくらいの痛み耐えろよ。戦闘中だぞ?


「ぐぁぁああ!!」


「お前は俺の目の前で関係の無い女を殴った。この程度じゃ足りないだろう。」


 タバコを吸って、今度は右足を。

 またタバコを吸って左足を。

 順番にへし折っていく。

 その度悶え苦しみ、転げ回るブル。

 俺だって決して良い気分では無い。

 最後に頭を踏み潰そうとした時、俺に向かって火の玉が飛んできた。

 俺はその火の玉を軽くあしらい、またタバコを吸い直した所でブルの仲間の3人が俺とブルの間に入り、頭を下げてきた。


「お願いします!!もうやめてください!!」


 魔法使いのような女が地面に膝をつき、俺の前で土下座する。


「謝罪もするし慰謝料も払う!!だから命だけは助けてやってください!!」


 騎士のような男、ランスも同じように正座し、持っていた剣を地面に置いて降参している。


「う、腕も足も粉々だ……。僕には治せないかもしれない……」


 少年は涙を流しながらブルの容態を見ている。


「そいつはそうやって止めようとしてくれた人を傷付けた。それでも許せと?」


「一成、アンタにしてはよく抑えたと思うわ。でも、この状況でその足を振り下ろしたら、アンタのやった事はそこの男と同じになるわよ?」


 ソールが俺たちに歩み寄り、腕を組みながら話した内容はぐうの音も出ない正論だった。

 ルシウスもレインも、戦いの終結を見てこちらに歩み出す。


「……その通りだ。すまなかった。少し熱くなっていたよ。だが、ただ許すほど俺は人間出来ちゃいない。」


「な、何をご所望で?」


 ランスが恐怖に顔を歪ませながらこれに問う。


「……5分だ。このままの状態で痛みを味わってもらう。仮にコイツが痛みで意識を失ったらお前らで目を覚まさせろ。」


「そ、そんな!?」


「両腕両足粉砕骨折だけだろう。出血もしていない。5分で死ぬとしたらせいぜいショック死くらいだ。5分経ったらレインに回復してもらう。」


 一同が驚く中、ランスは覚悟を決めた表情で俺に頷いた。


 その後5分間、ブルの悶え苦しむ声が帝都に響き渡った。

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