託された真実
「この場にレインが居なくて良かったわね。あの子がいたらあんた相当嫌われてたわよ?」
「居ないから言ったんだよ。レインは優しすぎるし素直すぎる。だからこういう話はレインの前ではしたくない。」
「……なるほどね。あんたがそう言うなら、というか元々レインの前でこんな話するつもりも無かったしね。ほんと、どっちが優しいんだか。」
ソールには俺の意図が読まれたようだ。
コイツは行動は馬鹿でも理解力はある。
反面ルシウスは整理がついていないようだ。
あの時レインが来なければ多分もっと被害は拡大していた。そして俺はエルフの女に勝てても出血で死んでいただろう。
ルシウスも然り。あのまま続けていれば勝てていたのかもしれないが、確実にもっと大きな被害が出ていたはずだ。
結果としてレインの暴走が原因で1人が死に、10人が未だ意識不明。
レインがこれを聞けば全てが自分の責任と言うだろう。
だからレインの前でこんな話しちゃいけない。そして、怒りの矛先を助けられた俺達がレインに向ける様な事はあってはならないんだ。
責めるなら弱かった俺を責めて良い。ルシウスは充分強いしソールに至ってはただの被害者だ。
だから俺はコイツらの目線を逸らせつつ憎まれ口で矛先をこちらに向けたのだ。
人死になんて、俺だって簡単に耐えられるもんじゃない。
俺は暫くの沈黙が耐えられず、何より聞きたかったことをルシウスに問いた。
「おいルシウス。そういえばソールのところに向かう時の話、聞かせてもらってねぇな?」
「ああ、あの件は今はちょっと……なのでエリクシールの話を先にしましょう。例の本は読んでいただけました?」
そういえばその話もまだだったな。
子供用の歴史書とか言ってめっちゃ長かったヤツ。
「ソールに読んでもらったよ。」
「単刀直入に言います。一成さんは、転生者ですね?」
確信を突かれた。
俺、こいつの前でその事言ったか?
「なぜそう思う?」
「私と一成さん、レインさんが獣人の村で出会った時、貴方は少し気になることを言いました。」
ルシウスはそう言いながら立ち上がり、窓の外を見つめる。
外では隊士達が訓練しているようだ。
そして、鏡のように窓に写った自分に手を重ね、今度は空を見上げた。
「俺はこの世界には疎くてな。と言ったこと、覚えてます?」
「言ったような……言ってないような……?」
正直覚えてないな。
「その言葉で私は半分確信しました。この世界の人間から出てくる言葉じゃない。それ以外にもタバコやライター、服装まで普通の人間とは違った。何より貴方はこの世界のことを知らなすぎた。」
確かにその通りだ。
ルシウスは人をよく見ている。俺の発言や行動、俺が知らない所まで観察して確信を得たのだろう。
「まぁ、正直お前にはバレてると思ってたから別に良い。」
「そういうと思ってましたよ。」
俺は吸いきったタバコの火を消し、次のタバコに火をつける。
そのタバコを見つめながらルシウスは語った。
「エリクシールというのは実は、異次元の量の魔力の塊です。」
「え、そんなことどんな文献にも乗ってなかったわよ?」
さすがに驚いた様子でソールが聞き返す。しかしルシウスは確信を持っているかのように迷いなく続けた。
「これから話す内容はエリクシールを悪用されないように英雄達が守り抜いてきた真実です。」
霊薬エリクシール
魔源を収めた巫女の魔力の器から零れ落ちた雫であり、世界の魔力の塊である。
1滴飲めばありとあらゆる願いが叶うというのはあながち間違いでは無い。膨大な魔力が手に入るのだから。
しかしエリクシールは願いを過剰に叶えてしまう。
創造を望む者は自らがあらゆる物体を作る道具となり、他者に依存しないと作ることが出来なくなる。
知識を望む者は知識の海に囚われ、永久に現世に戻れなくなる。
力を望む者は理性を奪われ、愛する者、親しき者をも手にかけるようになる。
平和を望む者は同族全てを根絶やしにし、二度と戦が生まれないように自決する。
永遠の命を望む者は無限の牢獄に囚われ、死ぬ事が出来ない苦痛を味わい続ける。
エリクシールに囚われた者の罪は抗うことは出来ない。
エリクシールを使用してはならない。
「私がかつて、竜人族最後の生き残りから未来へ受け継ぐように託された真実です。それほどまでに危険な物なのです。」
「竜人族と知り合いだったのか?」
「ええ。私は生まれてから暫く彼女に育てられましたから。私が5つになった時、彼女は竜の姿となり、自らの心臓を握り潰して死にました。」
ルシウスの表情が曇る。あまり良い思い出では無さそうだ。
しかしその言葉の重さは信用に値する。
ただレインの目を治したいと言う願いを叶えるだけでも非常に大きなリスクが伴うということか。
まぁ、そういう事なら俺も考えが無い訳でもない。
「竜人族に育てられた事、なんで今まで言ってくれなかったの……?」
ソールが寂しそうにルシウスを見つめる。
幼馴染みだとは聞いていたが、互いに知らないこともあるだろうし、教えたくない過去もあるだろう。
多分俺が居なければ語る必要も無いと思っていた事実だ。
ていうかエリクシールの話よりそっちの方が気になったのかコイツ。
見つめられたルシウスは少し照れくさそうにろくでもない理由を話した。
「いやー、何となく、言い出せなくて……」
「理由しょうもな。」
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