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狂信

 暗部の女に導かれるまま走っていると、段々と華やかな街の裏路地へと入っていく。

 案の定道には倒れている人間、建物の中から物欲しそうな顔でこちらを見る子供が散見する。

 ルシウスは顔を伏せてそれを見ないようにしていた。


「おい、ルシウス。目を背けて良いのか?」


「手厳しい事を仰いますね。」


 俺はかなり大人気ない質問をしたと思っている。

 それでもこれから共に旅をするルシウスにだけは、帝国のこういう現状から目を背けて欲しく無かったのだ。


「最近帝国領内にも魔物が頻出し、食料不足が深刻なのです。しかしルシウス様は自身の給与の殆どを彼らへの支援に費やしているのです。」


 走りながら返事をしたのは暗部の女だった。

 ルシウスも続ける。


「魔源の出現が各地に大きな被害をもたらしているんです。なので一刻も早くソールと共に世界を回らなければならないんです。」


「なるほどな。確かにその通りかもしれん。」


 俺の言い方が引っかかったのか、その時の表情で悟ったのか、ルシウスが聞き返してくる。


「何か不服ですか?」


「俺が見てきた大きな通りには煌びやかに着飾ったデブの豚どもが沢山いたぞ。奴らの贅肉から絞り取れば多少はマシになるんじゃねぇかと思ってな?」


「口悪いっすねぇ……」


 ちょっと引いた様子のルシウスだったが、俺が話したかった本題に切り込んでくれた。


「確かに格差が大きいのは事実です。ですが帝国は完全実力主義。大通りを歩く彼らもまた、それ相応の何かしらの実力があるということです。」


「それはつまり、弱者を切り捨て更に格差を広げるという考えで良いのか?」


「……なら貴方ならどうしますか?」


 ルシウスは先程までの冗談めいた話し方とはうって変わって真剣な表情でこちらを見ている。

 それに答えるように俺も自分の考えを真剣に伝えた。


「王政の完全撤廃。民主制の」


 まで言いかけた所で前を走っていた暗部が足を止めた。それに連られて俺達も足を止める。

 暗がりであり、ルシウスと暗部の女の表情は読めない。

 さらに、後ろから隠す気のない駆け寄ってくる小さな足音が聞こえる。


 ……足音は子供だが明らかに俺に向かって走ってくる。

 まるで、俺に敵意を向けているかのように。

 子供の足音が真後ろに迫った時、俺は咄嗟に半歩左に避け、右脇を開ける。

 レインを抱き上げているからできる回避は精々これくらいだった。

 すると案の定、開けた脇から果物ナイフが突き出てくる。

 俺はその細く小さな腕を脇に挟んで締め上げ、まず果物ナイフを落とさせた。その後さらに強く締める。

 完全に殺意のある一突きだった。ならば遠慮することは無い。

 子供の腕がミシミシと嫌な音を立て始める。


「一成さん!!」


 レインの大声で俺は力を緩めた。だがそちらに集中して気付かなかった。

 俺の首元には暗部の女が刃を突き立てて居た。

 思わず顎を引き、背筋が伸びる。

 こんな状況でもルシウスは俺を庇う様子はなく、ただ淡々と状況を見ているだけだ。


「どういうつもりだ?」


 首元に刃を突き立てられながら俺は暗部の女を睨みつける。


「皇帝陛下を悪く言うなら殺す。」


 後ろの子供も全く同じ理由で出てきたようだ。

 言論の統制なんてものでは無い。洗脳に近い狂信。

 何が異常かって、腕を折られかけた子供が俺の力が緩んだと同時に腕を引き抜き、痛めているはずの手でもう一度俺に刃を向けている事だった。


「はいはいわかったわかった。それ下ろして、早く行こうぜ。」


「そんな話で済むとでも?」


「ならここで、お前ら死ぬか?」


 自分の死に目に会いすぎてかなり感覚が鈍ってきているが、正直危機的状況だ。

 両手はレインを持ち上げるのに使っているし、暗部の女はレインを下ろす前に俺の首を掻っ切るだろう。後ろの子供も常に俺の背中を狙ってやがる。

 ちなみにレインは恐らく首元のナイフには気付いていない。

 暗部の女が近くにいることは分かっているだろうけど。


 さて、どうするのが正解か……



「2人ともやめなさい。」


 さっきまで静観していたルシウスが声を上げた。


「その人は首を切られたところで、心臓を刺されたところであなた方2人を平然と殺せるでしょう。何かあれば私が責任を持って殺します。」


「え……どうして……?」


 俺が思っていることをレインも思わず口にしてしまったようだ。

 レインは不安そうな顔をしながら、声のしたルシウスの方に顔を向けている。

 しかし、鶴の一声というのか、ルシウスの言葉を聞いた2人は不服そうだが武器を収めた。


「さぁ、早くソールの元へ。」


「後で話は聞かせてもらうからな?」


 走り出したルシウスに俺が耳打ちすると、何も言わずにいつものイケメンスマイルを飛ばしてきた。

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