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絶望の魔女

「レイン!?何でここに!!」


「2人が出ていってから暫くして大きな音が聞こえたので、何かあったのかと思って……」


 目が見えていないからか、状況がよく分かっていないようだ。

 杖すらも持たず、髪が乱れ息をきらし、必死に走ってきたのがよく分かる。


「ダメだ!!直ぐに宿に戻るんだ!!」


「でも!!」


「民間人に攻撃するのは気が引けるが、お前に止めを刺すためだ。卑怯とは言ってくれるなよ?」


 エルフの女が腹部を抑えながらそう言い、右手を上に掲げると、3本のさっき降らせた杭よりも一回り大きい槍が女の上空に浮かび上がる。


「レインには手を出すな。」


「なら、守って見せろ。【針の槍】(ニードルスピア)。」


 女が掲げた手をこちらに向けると、指示されたかのように上空の槍が俺たちの方に飛んでくる。

 最悪な事に3本並列で飛んで来ており、その全てがレインに命中する角度だ。

 2吸いも間に合わない。1吸いが限界、つまり正拳突きは使えないと言うことだ。


「槍の1本や2本止められなくて守るなんて言えねぇもんな。」


 俺はタバコを1吸いした後、両手で1本ずつ槍を止めた。握れなかった左手は、手首に刺すようにして止めた。

 最後の1本。もう、これしか方法がなかった。

 でも、止まってくれて良かった。

 これでレインは怪我1つすることは無い。

 俺はちゃんとレインの盾になれた。


「がはっ!!」


 最後の1本は、俺の胸で止めた。肉の貫かれる音。このまま俺は膝をついた。



「一成さん!!一成さん!!」


 レインの必死な声が籠る耳に響き、失いかけていた意識を繋ぎ止める。


「レ……イン……怪我は……ないか……?」


「喋らないでください!!今回復を!!」


 レインの回復で体の傷は治るが、どうやら障害物、つまり胸に刺さったままの槍があるとその部分は回復できないようだ。


「治らない!?何処!?」


 レインは閉じた瞳に涙を浮かべながら手探りで俺の胸の槍を見つけ、それを抜こうとする。

 だが、必死に抜こうとするが深く刺さった槍はレインの力では抜けず、それでも諦めずに抜こうとしているレインの手のひらは、手の皮がむける度に再生しながら痛みを繰り返していた。


「抜けて……お願い……」




「どうやら終わったようだな。おいベリアル!!私は先に……!?」


 エルフの女がその場から逃げようと剣を収め、隣で戦っているベリアルに声をかけた時、それは起こった。


 歴戦の戦士であるエルフの女も、隣で戦っていたベリアルとルシウスも、城の中の兵士達も、更には城下の人々すらも、全員が同じ方向を向いた。

 たった1人の女性の方向を。

 向かざるを得なかった。

 人間1人が放出して良い魔力の量では無かった。

 魔源にすら匹敵する、過去溜め込んだ全ての魔力の放出。

 そして、それを補うかのような大規模な魔力の吸収。

 それはこの国に住まう全ての人間にとって非常に差別的であり、平等だった。

 この国に生きとし生けるもの全てから魔力を奪い、その全てをたった2人に還元する空間。

 お前らが戦わないから自分の大切な人が傷付いた。

 そのツケをお前らが払えと言わんばかりの強制的な取り立て。

 それはレインが生まれてきて初めて心から願った……



 我儘だった。

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