読み違い
「お前どうやってそこまで上がった?」
「教える必要は無い。」
ルシウスはそう言うと、剣の平たい部分をベリアルに向け、団扇を扇ぐように剣を振り下ろす。
その速度は数々の死線をくぐり抜けてきたベリアルでさえも捉えることの出来ない速度であり、ベリアルが次にルシウスを捉えた時には、もう既にルシウスは自分に向かって剣を振り下ろしていた。
「チィ!!」
ベリアルは戦闘経験と勘でルシウスの初撃を防いだ。
視覚に頼っていては太刀打ちできないほどルシウスの速度が速すぎたのだ。
振り下ろされた剣と棒で鍔迫り合いした後、ベリアルはルシウスを大きく振り払い、隣の家の屋根まで吹っ飛ばした。
吹き飛ばされたルシウスは羽根のようにゆっくりと隣の屋根に着地した。
そして、たった一撃受けただけでベリアルはその能力をほぼ理解した。
「速すぎる攻撃は時として空間を切り裂くという。お前意図してそれをやっているな?」
「流石とだけ言っておきましょう。」
戦闘経験豊富なベリアルに隠せていない事は火を見るより明らかであり、嘘をつく意味が無いとわかった上での返事だった。
そして何より、手の内がわかったとしてもこの攻撃を防ぐことは容易ではないだろう。
何故なら、使い手のルシウスですら未だ空間移動の距離感が掴めていないからである。
非常に危うい手段。ギリギリの局面になるまでルシウスがこの魔法を使わなかった理由はそこにあった。
初撃は上手くいったが2発目が上手くいくかは分からない。
そして空間移動を行う際のモーションが大きすぎてベリアルの防御を崩すことが出来ないこの魔法は、今回の戦闘において主に『逃げ』としての役割しか持っていなかった。
「次はどうする?」
ニヤリと笑いながらベリアルがルシウスを挑発する。
棒は正位置。物体を爆発させる能力の方である。
しかし最初のように瓦礫などを飛ばして来ないのがルシウスには引っかかっていた。
この局面の場合、遠隔で確実に攻撃出来る逆位置が定石。
それをして来ないという事は、何かしらの設置された罠がある可能性が高い。
ベリアルが油断出来ない男なのはルシウスが1番よく理解している。だからこそルシウスはその小さな違和感に気付くことが出来た。
「私には今、起こっていて欲しくない事がある。」
「聞かせてみろよ?」
聞きたくない。
何故なら今のベリアルはそれを躊躇無く行うことができるからだ。
「貴方はこの戦闘の半分以上、その建物の上で戦っていた。そして私を狙った最後の逆位置での攻撃から、私が反撃してこの場所に来るまでの暫くの間、棒の向きは正位置だった。」
「良く見えてるじゃねぇか。流石、帝国軍一の動体視力の持ち主だ。」
「それだけの時間があれば、貴方なら建物1つを爆弾に変えることくらい簡単じゃないですか?」
ルシウスが怒りと失望に満ちた表情でベリアルを睨みつけると、それを嘲笑うかのように構えを解き、大きくゆっくりと拍手をしはじめた。
事実、この時ベリアルは足元の建物を爆弾に変えていた。
そして起爆のキーはルシウスが建物に触れる事。
爆発の規模は城下が半分吹き飛ぶ程である。
それでも魔力を全力で纏えば自分が死ぬ事は無いと分かっていた。
更にベリアルには、敵であるルシウスも死ぬことは無いと分かっていた。
ただ、唯一ベリアルには誤算があった。
それは、もう既に建物に込めたベリアルの魔力が全て失われているという事。
そしてその魔力を全て吸収した存在はただ1人の女性である事だった。
2人の戦いは決着はつかず幕を閉じる。
互いに示し合わせた訳では無い。
ただ、戦いを止めるしか選択肢は無かった。
2人が気付いた時にはもう、絶望が始まっていたからだ。
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