剣聖対魔人
エルフの騎士と一成が壮絶な戦いをしていた頃、ルシウスとベリアルもまた、互いに死力を尽くしていた。
「早かったなルシウス。」
「何故貴方が帝国に敵対しているんですか?」
互いに剣と棒を構え、一定の距離を保ちながらルシウスは質問を投げかける。
かつて自身が副隊長だった時、尊敬すべき隊長として座していた男がベリアルだった。
隊長として部下からも慕われ、その実力は当時のルシウスでは到底敵わないほど優れていた。
彼が何故帝国を離れたのかは分からない。
エルフの里近くに遠征へ行った後ベリアルだけが帰って来ず、隊員を迎えたルシウスは帰還した隊員から本人からの手紙でベリアルの脱退を知らされた。
隊員達も事情までは知らなかったという。
そのまま繰り上げで隊長に昇格したルシウスはその後頭角を現し、たった数年で他国にまで知らぬ者は居ない剣聖に成り上がった。
「どれほど強くなったのか、見せてもらおうか?」
ベリアルはそう言うと引き戻すように前後を入れ替え、棒の先端で地面を削る。
削られた石はルシウスの方向へ飛び、ルシウスはその石を真っ二つに両断しようとするが、剣が石に触れた瞬間石が爆弾のように爆ぜた。
「くっ!!」
咄嗟に顔を手で覆う。
ルシウスはこの攻撃は知っていた。かつて魔物討伐の際に地雷としてよく使用していた魔法だったからだ。
実際に自分が受けてみるとその爆炎は凄まじく、石1つで1人の人間の頭を吹き飛ばす火力を秘めている。
普通の剣なら軽く折られていた。
「戦闘中に相手から目を離すな。」
まるで指導しているかのように冷静に、ベリアルはルシウスの死角に的確に背後に入り込みながら頭に棒を振り下ろす。
しかしルシウスはそれを読み、振り返らず剣を自分の頭上にかざし、棒を受け止める。
軽く振り下ろしただけに見えた棒でもルシウスが受け止め切るのに精一杯だ。
辛うじて棒を振り払い、もう一度互いに構えながら向き合う。
その巨体からは想像もつかないほどの機敏さ。
そしてその巨体から繰り出される一撃一撃の重さをルシウスは改めて味わった。
「おいおい、この程度か?」
「まだ魔法の一つもこちらは使ってませんよ。」
ルシウスはそう言いながら剣に魔力を込める。
「質問に答える前に、死なないで下さいね?」
「面白い。」
魔力を込めた剣は光り輝き、放出された魔力で一回り大きな形になる。
更にその魔力はルシウスの身体にも纏われ、ルシウス自身の身体能力も格段に向上する。
「【光の剣】(エクスカリバー)。」
「そこまでデカく出来るようになったか!!」
ベリアルはルシウスの成長を見て満足気に笑っている。
ルシウスのセンスを見抜き、戦闘技術を教えたのはベリアルであり、その関係は師弟に近かった。
そして何より、この魔法の扱い方をルシウスに教えたのはベリアルなのである。
「はぁあああ!!」
ルシウスが両手で剣をおおきく振り下ろす。
放出された光の剣は、地面を断裂させながらベリアルの方に一直線に向かう。
「出力まで上がってやがる!!」
ベリアルは迫り来る剣閃を前に笑みを浮かべながら大きく後方に飛び、城下の民家の屋根上へ退避した。
ルシウスの剣閃はまるでベリアルに読まれていたかのように民家の手前数cmで止まる。
しかし理由は別にあった。
「そりゃあそうだよな!!剣聖様が民間人は巻き込めねぇだろ?」
「くっ……」
「だが俺はテロリストだからな。好きなように戦わせて貰うぜ?」
ベリアルは棒をまた逆向きに構え、今度は手を前にかざす。
その手を握るとルシウスを中心に大爆発が起き、ルシウスは大きく吹き飛ばされた。
「俺はこの安全な位置から攻撃させてもらうぜ!!」
「そこまで堕ちたかベリアル!!」