【感覚強奪】
見える。
奴の視界がハッキリと。
流石森の民と言うべきか、お前目が良いな。
10メートル程離れている俺の動きを完璧に捉えられているぞ。
レインとの共有の時は発動と同時にほとんど自分の音は聞こえなかった。
その時と違い、目を開くと自分の視界が、目を閉じると相手の視界が見えるようになっている。
聴覚の場合は閉じようが無いから常にオープン状態で、レインの聴覚が良すぎて俺側の音が聞こえなかっただけの可能性もあるが。
ただ、今回に関しては俺の視界も相手の視界も両方見えなければならない。
だから俺はずっとウインクしてる状態なんだが……めっちゃ酔う。
バランスが取れん。
何度か足元の木の根に躓きかけた。相手の視界で見る俺は千鳥足で、見ていて滑稽だった。
相手の視界は嘘をつけない。暫く奇っ怪なステップを踏む俺を見ていたと思えば、スっと目線が上に上がった。
「そろそろか……」
上空からの杭、最初の1発目。
ズドンという鈍い音と共に地面に杭が突き刺さる。そこからはもう雨のように降り注ぐ杭。
相手の視界からはまだ足元を見続けている俺が見える。
俺は自分に向かっていた杭の最初の1本を左肩に受けてしまった。
上空から勢いを増し、弾丸のようになった杭は、俺の身体に簡単に突き刺さった。
忘れていた。相手から見たら俺は鏡写しか。
「いってぇ……」
だがこれでもう修正はした。
幸い相手の目が良いので、俺に突き刺さる杭を全て目視してくれている。
右。左。これは屈んで躱して、そのまま1歩前へ。
俺は足元に集中しながら雨のように降り注ぐ杭に数十秒間耐え抜いた。
正しくは致命傷を避けて生き残ったと言うだけで、数発掠って、右腹部に1本、途中頭に降ってきた物を避けきれず、左手で庇って1本杭が刺さった状態だった。
原因は途中から地面に突き刺さった杭の土煙で俺の位置が相手から見えにくくなっていた事。そして何より、俺の身体能力が足りなかった事だ。
むしろこれだけで済んだことが奇跡と言えるだろう。
だが、生き残ったとなれば、やることは1つ。
「さぁ、反撃だ。」
どうやら木の根は奴が操っていたようで、土煙で俺の位置が確認できなくなったからなのか俺の位置を見失い、活動が穏やかになっている。
俺は咥えたタバコを大きく吸った後肩の杭を抜き、全力で土煙の向こうの視界の主に杭をぶん投げた。
その勢いで一瞬杭の形に土煙が晴れる。
距離はたったの10メートル。相手の顔の真横を杭が通り過ぎて城壁に突き刺さるまでにかかった時間は刹那だった。
「な、何だと!?生きているのか!?」
「次は外さん。」
指をさしてまた土煙にゆっくりと消える俺が相手の視界から見える。
「ならばもう一度っ!!」
また【針の雨】を降らせようと魔力を集中する女の左肩を甲冑ごと俺の杭が貫いた。
「うがっ!!」
「次は腹部だな。」
また俺は相手の視界から土煙を纏って消える。
たまらず相手は剣を抜き、何も見えない土煙に向かって構えるが、今度は剣を叩き折り、相手の腹部を杭が貫いた。
「ガハッ!!」
ちなみに俺は狙ってその部位を撃ち抜いている訳では無い。
本当は心臓に突き刺してやりたいところだが、杭を投げた位置は相手が木の根を張り巡らせる為、1本ずつ場所を変える必要がある。
相手の視界から自分の位置を逆算できるにせよ、俺側の視界は土煙で完全に頼りにならないので少し標的がズレるのだ。
つまり、宣言した位置に偶々当たっただけである。
「み、見えているのか!?」
見えてねぇよ。
と言いたいところだが段々と土煙が晴れ、相手の視界からも俺の姿が確認できるようになってしまった。
肩と腹部から血を流し、立っているだけで精一杯にしか見えない俺の姿だ。
「あ、あんな状態で攻撃をしていたのか……」
「あと一本足りねぇな。」
その時だった。
その場に居てはいけない人物。
でも、いつも常に俺のそばに居てくれた人物。
聞きなれた声。
優しくいつも通りに見えない目で、杖を使って地面に残された木の根を避けながら俺のそばまで駆け寄ろうとする影。
「ご無事ですか!?一成さん!!」