援軍
「貴様の任務はポイントの防衛だろう!!何故ここにいる!!」
「あそこはつまらん。そんな時こっちで物が壊れるデカイ音が聞こえたんでな!!」
降ってきた巨漢と兵士に変装していた女が親しげに話している。
2メートルはある身長とそれに釣り合うガタイの良さ。黒く輝く棒を肩に担いでいる。
頭には牛のような角が生えているので、恐らく獣人だろう。
獣人らしく面積の少ない服から露出した身体は傷だらけであり、過酷な戦いを経験してきたことが伺える。
立ち振る舞いや雰囲気から見ても簡単に勝てる相手では無い。
どうやらこちらの援軍では無いようだ。タイマンでもかなりキツかったがまだ増えんのか。
だが早く決着をつけないとタバコの魔力を使ったとしても攫われたソールに追いつけなくなる。
「どっちでもいいが早く始めないか?」
2人を挑発すると、女の方はこちらを睨み返してやる気満々と言った感じ。男の方は「ガッハッハッ!!」と大きな声で笑った後、不敵な笑みを浮かべながら持っていた棒を地面にズドンと突き立てる。
「楽しめそうじゃねぇか。」
「俺ももう少し時間があれば楽しめたんだがな。」
俺はさっきつけ損ねたタバコに火をつけ、歯でかみ締めて咥えながら距離を詰める。
「おい!!そいつの正拳突きには気をつけろ!!」
後ろの女が手前の男に忠告しているのが聞こえる。
だが男は避けるような素振りを見せない。まるで俺がタバコを吸うのを待っているかのように、腰を落として両腕を前に組んでいる。
「受けてやろう。」
しっかりと身構え、こちらを睨みつけながら待ち構えている所にわざわざ拳を叩き込むと、エクスの時と同じようにカウンターを喰らうかもしれない。
レインがこの場に居ないうえ、この後にも戦いが控えてる可能性が高い今はできる限り消耗はしたくない。
「分かった。全力で行こう。」
男の目の前、腕一本分の距離でタバコを大きく吸い込み魔力を蓄える。男はこの状況下でも防御の姿勢を変えることなくニヤッと笑う。
「後悔すんなよ。」
「来いや!!」
俺は全力で拳を放つと見せかけて、相手の体の前で拳を寸止めする。タバコの魔力は乗っているので、先程と同じく当たっていなくてもその風圧だけで半分壊れていた後ろの橋がほぼ全壊した。
「正々堂々当てることも出来ねぇ雑魚か?」
男が呆れ顔で防御を解いた。俺はこのタイミングを狙っていた。
男の力が抜けたと同時にもう一度深く息を吸い込み、今度は全力で右足を振り抜く。
的確に男の急所を狙うために。
その瞬間俺と男の間で「ボンッ」という大きな音と共に爆発が起きた。
「なんだ!?前が見えねぇ!!」
その爆発のせいで相手の男と俺は互いに少し後方に吹き飛び、俺の蹴り上げが外れる。
爆発の際に発現した炎を俺の蹴り上げが巻き込み、壊れた橋の前に巨大な炎の柱が出来上がった。
「てめぇ、なんて危険でえげつない攻撃を仕掛けやがる!!」
「お互い様だろ。さっきの爆発、お前の魔法だろうに。」
実際爆発による負傷はお互いほとんど無かった。
俺の足はタバコの魔力を纏っていたし、相手の肉体はそもそもあの程度の爆発で傷つくようなものでは無いようだ。
しかしあの一撃を外したのは大きかったが、俺の目的は達成出来たと言えるだろう。
目的の1つは相手を激情させ、周りを見えなくすること。
そうすることで奴と安全に確実に合流出来る。
そして何より2つ目は、
「一成さん、ご無事ですか?」
今日四度の全力の一撃を放ち、魔力を消費しきって膝を着く俺の真横にいつの間にか立っているこいつを呼び出すことだった。