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5人の英雄と巫女の話

 俺達が宿に着く頃には外は夕暮れ時だった。

 部屋に入るなりソールがベッドを占拠したのでレインを隣に座らせ、俺は窓を開けてソファに座りながら一服した。


「それで、その本には何が書いてあるんだ?」


「転生者と前巫女エリザ様の話よ。正直あまり良い話では無いわ。」


 転生者であると言うことを公言しない方が良いという事はそういう事だろうとは思っていた。


「それじゃあ、頭から行くわよ?」


 そう言ってソールは語り出した。



『5人の英雄と巫女の話』


 100年に1度、世界中から魔力が溢れ魔物が集まる最悪の1年が訪れる。

 田畑は枯れ、人々は生きる場所と食べ物を求めて争い合い、多くの人間が死んだ。


 人族の族長はそんな世の中を憂いていた。

 そんな時、人族の族長の前に巫女を名乗る女と、女に連れ添う男が姿を現した。


「神の使いである私が魔源を収めます。皆さんもどうか、協力してください。」


 人族の族長はその神々しい姿を見て、女が神の使いである事を疑わなかった。

 人族の族長は巫女と男と共に、世界の魔源を収める旅に出た。


 巫女は次にドワーフ族に協力を求めた。

 ドワーフ族は力持ちであり、鍛治や細工も得意とする種族である。

 山を掘り、鉱石を加工するドワーフ族は、自然を愛し、自然と共存するエルフ族ととても仲が悪かった。


「あんた達、エルフ族の里に行くんだろう?なら俺達は協力出来ない。」


「このままでは、エルフもドワーフも関係なく死んでしまいます。私は全てを救うために、魔源を収めるのです。」


 それでもドワーフ族は首を縦に振らなかった。

 ドワーフの里の魔源の前、巨大なゴーレムが道を塞いでいた。

 人族の族長が振り下ろした鋼鉄の剣は、いとも容易く折れ曲がった。

 同行していた男の、岩をも砕く拳では、ゴーレムはびくともしなかった。

 3人が途方に暮れていた時、轟音と共に1発の砲弾がゴーレムを貫いた。


「さっきはすまなかった。あんたらに協力出来るのは俺1人だけだが、共に世界を救おう。」


 ドワーフ族が巨大な大砲を1人で引きながら一行の前に姿を現した。

 彼はドワーフ族の中でも特に小柄ではみ出し者だったが、人一倍優しかった。

 ドワーフ族は大砲を使いながら、他の3人はその大砲を守るようにゆっくりと魔源を目指した。

 魔源に着いた時、4人は傷だらけだった。

 地中から溢れる魔力の柱に巫女がゆっくりと手をかざすと、みるみるうちに柱は細くなっていき、やがて消滅した。



 巫女は次に獣人族に協力を求めた。

 獣人族は狩りを得意とする種族で、夜目が効き、動きが俊敏である。

 他の種族とも友好的であり、同じ人間同士の争いを好まない温厚な種族でもあった。


「魔物達は動物達を殺し、私達の生活を脅かす迷惑な存在だ。魔源を収めるというのなら協力しよう。」


 獣人族は快く返事をし、最も狩りの腕が良い男を同行させてくれた。


 獣人族の里から魔源までの道のりは長く、付近に着いた頃には夜になっていた。

 先を急ぐ一行は獣人族の男の制止も聞かず、魔源に続く暗い夜道を突き進んだ。

 森の中、沢山の小さなネズミが群れを生して立ちはだかった。

 ネズミは素早く、4人の攻撃は当たらない。

 そんな中唯一獣人族の男だけは、的確にネズミを仕留めていった。


「やはり危険だ。一旦引き返そう。」


「こうしている間にもたくさんの人々が魔物の恐怖に怯えているのです。引き返す訳にはまいりません。」


 その一言で鼓舞された男達は、次々にネズミを仕留めていったが、ネズミ達の数は多く、歩みは止まっていく。

 夜も更け月明かりが一行を照らす。満月だった。

 満月の光が獣人の男に降り注いだ時、獣人の男は大きく遠吠えをし、より獣に近い姿となった。

 獣人の男は次々とネズミを蹴散らし、あっという間に魔源にたどり着いたが、魔源の前で獣人の男は倒れてしまった。

 ドワーフの里の魔源と同じように魔源を収めた一行は、獣人の里に戻り男を手当てしたあと、5人で次の目的地へ向かった。

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