敗者
「申し訳ありません、隊長。」
「いや、気にするな。」
病室の中、エクスの力無い声とルシウスの気遣うような優しい声が入り交じる。
エクスはまだ身体の動きが鈍いのか、ベッドの上で体を起こしているだけの状態だ。
「それで、私に伝えたい事と言うのは?」
エクスが意を決したようにルシウスの瞳を見つめ、語り出す。
「あの男の力は危険です。やはり奴を旅に同行させる事は推奨できません。」
「話はそれだけか?」
「い、いえ……」
ルシウスの異様な雰囲気に押され、エクスは口をつぐむ。
そんなエクスを責め立てるようにルシウスは続けた。
「別にあの男とお前を酔狂で戦わせた訳じゃない。お前の今の力とあの男の今の力で、この先の旅に必要な方を選んだだけだ。」
「ならば尚のこと汎用性の高い俺の力を!」
エクスが反論しようとした時、ルシウスはその胸ぐらを掴み、沈んだ目でエクスを睨みつけた。
「俺はな、エクス。巫女様に命を捧げるつもりだ。そのために少しでも強い駒が必要なんだよ。あの男が命をかけた戦いで敵として出てきた時、お前は死んでいただろう。そんな駒は必要ないんだよ。」
「うぐっ……」
「俺にもう帝国の席はいらん。お前に譲り渡す。次に会う時までに精々その精神的に弱い部分を克服するんだな。」
ルシウスは吐き捨てると同時にエクスをベッドへ突き飛ばし、部屋を出た。
エクスは言い返すことが出来ず、ただその背中を見送るしか無かった。
「あんたの気持ちは分かるし発破かけたつもりだろうけど、アレじゃ心臓に銃弾打ち込んだだけよ?」
ルシウスが部屋を出ると、ドアの横で腕組みをしながら壁にもたれかかっている男性が立っていた。帝国軍開発部隊隊長のミラである。
「ミラさん、盗み聞きですか?」
「失礼ね、順番待ちよ。エクスちゃんの新武器のプロトタイプが完成したからその報告。」
手鏡を見つめながら化粧を直している。
開発部隊は帝国内全ての兵器や装備を開発、生成する部隊である。
その技術力は凄まじく、帝国がここまで大きくなれたのは正しくこの部隊とミラのお陰と言えるだろう。
しかしその技術を拝むことは誰もできない。
ミラは秘密主義で、自分の作業所に誰1人立ち入らせないうえ、作業中は内側から魔法鍵をかける徹底ぶりだからだ。
ルシウスが幼い頃、ミラの作業場に入れてもらおうと頼んだ時「女は秘密を持ってるものなのよ♡」と言われて以来、二度と頼むことはなくなった。
「エクスちゃんでもその武器があれば余裕で一成ちゃんに勝てたかもしれないわね。」
「結果が全てですよ。あの時の段階で勝てなかったのなら、エクスの負けです。」
「相変わらずあっさりしてるわねぇ。そんなだから恋人の1人もできないのよ?」
ミラは小指を立てて腰をクネクネしている。
それを見たルシウスは顔を引き攣らせながらも、
「私には必要のないものですから。」
と、淡々と答えた。
「あなたにはソールちゃんがいるしね。」
「んな!?」
「驚いた顔の方が可愛いわよー?まぁ、出発までに欲しいものがあったら何でも言いなさいね。すーぐ作っちゃうから♡」
そう言ってミラはエクスの部屋に入ろうとドアに手をかける。
そこで何かを思い出したかのように振り返る。
「一成ちゃんにもよろしく言っておいてね。私あの子結構お気に入りなのよ♡」
屈強な男がそう言いながらルシウスに投げキッスをした後、部屋に入って行った。
ルシウスは慣れてはいたが、何も見なかったことにした。




