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暗闇の死闘

 俺が確認したそれは立ち上がれば人間よりも大きいのではないかと思わせる大狼が群れを成している姿だった。

 明らかにこちらを獲物としか思っていない顔つき。咬みつかれれば腕の1本平然と折りそうな体躯をしていた。


「あんなもんがあんたらが信仰する神か!?」


 彼女の手を引き、走りながら問う。


「私が知っている山の神ではありますが、様子がおかしいです!」


 目が見えないというハンデがありながら転ばず走り続ける彼女に驚いたが、狼たちの足が早く、あっという間に近くにあった洞窟の中に追い込まれてしまう。

 その洞窟はかなり大きく、狼たちも平然と入って来られるサイズであり、明かりなどなかった為身動きも取りづらく更に追い詰められる羽目になった。


「こちらです!」


 そう言って彼女が今度は俺の手を引く。

 そこには横穴の様な窪みがあり、俺たちふたりが身を潜めるのにちょうどいいサイズだった。

 狼たちは音を頼りにこちらを追ってきたのか、俺たちが横穴に身を潜めると、今度はくんくんと鼻を利かせている息遣いが聞こえる。

 俺たちは小声で会話する。


「目が見えないんだよな?何でここの位置が分かったんだ?」


「私、人より少しだけ耳が良いんです。音の反響がここだけ違ったので。」


 五感のうち1つでも欠如した人間は稀に他の感覚が研ぎ澄まされる事があるという。

 彼女も恐らくそういう事だろうが、音の反響で地形まで判別できるとなると、とんでもない聴覚の持ち主だろう。


 しかしそれでもこの横穴は行き止まり。いずれ狼たちに嗅ぎ付けられ骨になるのがオチだろう。

 せめて彼女だけでも逃がしたい。


「俺が囮になる。その間に逃げろ。」


「そんなことできません!あ……」


 彼女が大きな声を出してしまい、狼たちが横穴に気付いたようだ

 警戒しながらゆっくりと近づいてくる音が俺にでも分かる。


「もう時間が無い!少しでも長く生き残ってやる!」


 俺がそう言って飛び出そうとした時、彼女は思ったより冷静だった。そのおかげで俺も少しだけ冷静になれた。


「私はレイン。あなたのお名前をお聞かせ願えますか?」


「一成だ。人生の最後にレインに出会えて良かった。」


 その時、キーンという大きな音と同時に自分の中に自分以外の何かが入ってくるような感覚がして一瞬足を止めた。

 それでも直ぐに我を取り戻し、狼たちの待つ場所へと俺は飛び出した。


「かかってこい!相手してやるよ!」


 大声で狼たちの注意を引きつける。

 狼たちが距離を取るのがわかる。

 そのうち俺の周りを取り囲むように4匹の狼が距離を取りながら円形に動いている。1匹が後ろ足を蹴り、こちらに飛びかかってくる。

 タイミングがわかったのでそれに合わせて殴ろうとするも普段運動も殆どしていなかった為俺の拳は見事に空を切る。

 それに続き2匹目もこちらに飛びかかって……


 おかしい。

 狼たちの攻撃のタイミングが暗闇の中で手に取るように分かる。

 暗い洞窟の中なので目には見えていない。


 だがこれは……音だ!

 さっきより俺の耳が良くなっている。と言うよりこんな細かな音まで感知できるという事は異常聴覚以外ない。

 という事はレインと同じレベルまで聴覚が発達したのか?

 などと考えていたら1匹の狼が俺の背後から飛びかかり、背中を爪で大きく抉られる。


「うぐっ!」


 焼けるように痛い。

 今まで感じたことの無い痛みである。


回復魔法ヒール!」


 まるで自分がそう言ったかのように静かに頭の中でレインの声が聞こえる。

 そして背中の痛みが一瞬で消え去り、傷も治癒された。


「一成さん、私があなたの傷を癒します。だから私と一緒にここを出ましょう。」


「ありがとうレイン。こんなに心強いことは無い。」



 異常聴覚と回復魔法という強い武器を手に入れた俺は狼たちと互角程度の戦いをすることが出来た。


 しかし……音の位置が微妙にズレている。

 と言うより自分が出した音が少し離れて聞こえてくるのだ。


「はぁはぁ……」


 呼吸をする音。


「ザッ…ズリ…」


 足を擦る音。


「ブン!!」


 拳が空を切る音。


 全てが客観的に聞こえてくる。それに気付いた時俺は悟った。

 これは俺の聴力が良くなったのでは無い。レインが聞いている音がそのまま聞こえているのだ。

 だから俺の攻撃は全て外れる。

 攻撃のタイミングが分かり回避することが出来ても聞こえてくる音と敵の位置がズレているから攻撃は当たらないのだ。


 そこで俺はまず初めにこのズレをどうにかする事を考えた。

 自分が感じている音という感覚ではなくあくまでも客観的に空間を認識する。

 そしてそこにゲームのキャラクターのように自分を落とし込むことによって自分と周囲の状況をテレビの画面のように感じられるようにする。

 最初は足跡のように地面を擦ったり踏みしめる砂利の音でしか判別できなかったのが、段々とそれに合わせて相手がどういった動きをするか感じられるようになり、風の音、筋肉の軋む音によって暫くすれば敵や反響した壁すらも画面に映し出すことができるようになった。


 とは言ってもここまでで俺は既に数回死にかけている。

 回避する方向によっては敵の攻撃に飛び込む形にもなってしまうためである。その度レインが回復してくれる。

 驚いたのは腕が噛みちぎられても一瞬で元通りになることだった。更には身体全体の筋肉量が増えている。

 噛みちぎられたりした部分以外にも回復魔法がかかっているためか怪我をする度どんどん体が引き締まり、戦いに適した体つきへと変化していく。

 何度か殺されかけては回復してもらうを繰り返した結果、俺の筋力は一撃で狼の頭蓋骨を粉砕する程に極まっていた。


 たまたま当たった一撃ではあったが、1匹を倒した俺に驚いた他の狼たちは更に数歩分俺から距離を取り、今度は群れを生かしたコンビネーションでこちらを攻撃してくる。

 1匹が突っ込んでくると思ったらフェイントであり、対処の間に合わない後方から咬み付いて来ると言った感じだ。


「クソ……厄介だな……」


 自分から攻撃を仕掛けようにも相手の方が動きが素早く拳が届く頃には後ろから攻撃を貰っているの繰り返しだ。


 どんどん消耗する……


 精神も……



 肉体も……





「一成さん、死なないで……」


 囁く声が頭の中で聞こえる。

 そうだ。

 俺はレインを助けるために戦っている。

 その一言で自暴自棄になり闇雲に攻撃していた手を止めた。

 そしてゆっくりと息を整える。


 相手の動きは把握出来る。体も自分とは思えないほど完璧に仕上がっている。後は相手に攻撃を当てるだけ。

 そうなると……


「まずは回避……」


 俺は呟く。

 先程と同じく1匹目がこちらにフェイントし後方から攻撃を仕掛けてくる。

 それを半身で受け流す。

 体が自然に動くままに狼の頭を掴みくるっと一回転させる。それはまさしく合気の動きだった。


「ガフ!!」


 と、呆気に取られている空中の狼に対して、また自分の体が赴くままに、最も自然体で拳に力を込めることが出来る型で拳を放つ。


「そして攻撃……」


 自然に出た正拳突きは空手のそれだった。

 それを当てられた狼は大きく吹っ飛び、壁に激突して絶命した。


「す、凄い……」


 レインが小さく言葉を漏らす。

 凄いって?

 そりゃあ俺が一番驚いてる。自然に体が動きやすいように動かしただけなのだ。


 狼たちは流石に俺に勝てないと悟ったのか1匹、また1匹と洞窟から逃げるように去っていった。


「流石に……死ぬかと……思っ……た……」


 ずっと出っぱなしだったアドレナリンが解け気が緩んだのか、全ての狼が洞窟を出たのを確認して俺は前のめりに倒れ意識を失った。

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