地下の工房
「あれ?爺さん、タンポポは?」
里長の屋敷は殆ど人の気配がなく、唯一光が漏れていた部屋へ入ると里長の爺さんが1人座っていた。
俺達が到着するのを見越していたのか、部屋に入ると同時にこちらへ振り返り、嬉しそうな笑顔を向けてくる。
「地下じゃよ。昔ワシが使っていた工房が地下にあるんじゃ。」
そう言って爺さんは部屋の片隅にある本棚に手に持った本を戻した。
するとゆっくりと本棚が動き出し、隠されていた地下への階段が姿を現す。
「随分手が込んでるな。」
「工房で作業中は体力も魔力も使う。ワシは昔から色々な人間から狙われておったから無防備になる作業中に狙われとうなかったのじゃ。」
「それにしても……。」
ルシウスが地下への階段に置いてある数多の剣を1本手に取り、その感触を確かめる。
「鋼鉄製なのに軽く扱いやすい、完成度の高い武器。これは全て里長様が?」
「ワシと妻の2人で作り上げた物じゃ。じゃがここに並べてあるのは全て失敗作じゃよ。」
「これで失敗作……。」
作られてから数年、数十年経っていたであろう武器は今尚輝きを保ち続け、その完成度と威厳を誇らしげに語り続けている。
「てか爺さん嫁さんがいたんだな。」
「若い頃に死んじまったよ。主らがワシの工場ですれ違った男がワシの唯一の息子じゃ。」
「あの随分頑固そうなおっさんがか?」
「一成!!失礼よ!!」
ソールが俺を咎めるが、里長はフォッフォッフォと笑い、寂しそうに続けた。
「あ奴が生まれた時、ワシは旅に出ておって妻が妊娠しておったことも知らなかったのじゃ。旅から帰ったワシに待っておったのは顔も知らぬ成人した息子と墓に入った妻じゃった。」
「……そう言えば爺さんは何で旅をしていたんだ?」
「主がいとも簡単に持ち込んだ伝説の鉱石、オリハルコンを探すためじゃよ。」
「え、アレってそんなに凄いものだったのか?」
会話が終わる前に地下の工房に着き、話は中断されてしまった。
地下の工房は少し古びてはいたが設備は完璧であり、その中央で赤く変色したインゴットを伸ばすように叩くタンポポの姿があった。
「おい、タン」
俺が声をかけようとするとそれを里長がすぐに止める。
そして小声で話し始めた。
「鉱石の声を聞く事はというのは人の声とは違う。言わばラジオのチャンネルを変えるようなものなのじゃ。今嬢ちゃんに話しかけるとまた聞こえるようになるのにどれくらいかかるか分からん。静かに様子だけ見ておくのじゃ。」
「わ、分かった。」
幸いタンポポは笑顔で鉱石と向かい合いながら鍛治に集中していたおかげで俺の言いかけた言葉は聞こえていなかったようだ。
そしてその熱心な様子を見て安心した俺は、ゆっくりタバコに火をつけて何も言わずに部屋を出て元の屋敷に戻る。
後に続くように皆も部屋を出た。
「あの様子ならそう時間はかからんうちに完成するじゃろう。」
「そんなに簡単に出来るものなのか?」
「伝説の鉱石じゃ。そんなわけなかろう?ワシにも何時までかかるかは分からんがインゴットの具合から見るに、整形までは丸1日程度飲まず食わずで叩き続ければ出来る。」
「丸1日!?」
正直病み上がりのようなタンポポにそんな重労働はさせたくない。
だが声をかければ完成するのは先延ばしになってしまうし、俺も早く完成品が欲しい。
「……爺さん、タンポポの事を頼めるか?」
「任せておけ。嬢ちゃんは根性はありそうじゃし、悪いようにはせん。主らは心配せずにゴーレムを討伐しに向かうと良い。」
「あ、その事でご相談が……。」
ちゃっかりしているルシウスは里長に頼み込み、ヴォルブ火山を登るための装備を調達してもらう約束をこじつけていた。
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