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命懸け

「おや、先程まで一緒じゃったドワーフの娘はどうしたんじゃ?」


「家に顔を出すって言って実家に行ったぞ。」


「そうか……。姫巫女様。折り入ってお願いがある。」


 里長は俺たちに膝に手を着いて深く頭を下げる。

 ソールがそれを止め、俺達も何が何だか分からない。


「おやめ下さい里長様!!私が世界を救うのは使命であり義務なのですから。」


「貴女方だけにその重い使命を背負わせる事をお許しください。そして良ければこの老耄の話を聞いていただけませんか?」


「……お話ください。」


 優しく諭しながらソールは里長の肩を抱き、俺達は真剣に話を聞いた。


「まず、ワシはこの世界を色々と旅してきた。そしてドワーフ族の古く歪んだしきたりに違和感を覚えたのじゃ。」


「歪んだしきたり?」


「そうじゃ。存知てるかは分からんがドワーフは男女比が8対2程度。圧倒的に女が少ない種族じゃ。じゃから里のドワーフの女は籍を入れた後、相手方の男全員の子を産むことになる。」


「……そいつは女には人権はなく、ただ子を産む道具として扱ってきたということか?」


 里長は気まずそうに首を縦に振る。


「ワシも旅をするまでそれが普通の事じゃと思っておった。じゃが他の世界を見たとき、自分の常識が世間の常識から逸脱しているとわかった。」


「周りの環境がそれなら、仕方がないと思います。」


「じゃからワシはそう言ったドワーフの古いしきたりをワシの代で終わらせようと、里の改革に挑んだのじゃ。その結果がこの建物の数多の修繕なんじゃがな。」


 寂しそうな顔で里長は呟く。

 懺悔にも近い言葉を放った里長の表情は暗く沈んでいた。


「当然里の者達は納得しなかった。じゃがワシは絶対にこれ以上若者達にこんなことを引き継がせたく無かったのじゃ。主らと共に居たあの娘もおそらく近い将来同じ目にあう。」


「タンポポも……。」


 ソールの口からこぼれた苦しそうな言葉が俺にも聞こえる。


「……そこまでは分かった。だが、それをソールに頼むって言うのが繋がらねぇ気がするんだが?」


「主ら全員、ドアの外でさっきの話は聞いておったじゃろう?」


 やはり里長にはバレていたか。

 このジジイがドアの前まで堂々と歩いてきた俺達に気付かないわけが無い。


「ヴォルブゴーレム。この里にある魔源を守護するガーディアンであり、魔力によって鉱石を生み出し続けてくれる里の守り神じゃ。」


「守り神を倒して良いのか?」


「里の皆は反対しておる。じゃがワシは賛成なのじゃ。少なくともドワーフ達がこの場所に固執する大きな理由が無くなるからのう。」


「……その話でやっと繋がったよ。だが、その事でアンタの命までかけるのは反対だな。」


 俺がそう答えると、里長は1度手を強く握り、それをゆっくりと解いて俺へ向き直した。


「一成よ。お前は転生者じゃったな?」


「そうだが?」


「ならば何故、お前には直接関わりのないこの世界を救おうとするのじゃ?主ほどの実力があれば命を懸けてこんな世界なぞ救わんでも暴力と略奪で生きていくことは可能であろう?」


「そうだろうな。」


 この時俺は里長が言わんとしていることが分かっていた。

 そして里長がその先の言葉を望んでいることも。

 だからこそ俺はいつものようにタバコに火をつけ、1番後ろで俺達の話を黙って聞いていたレインの肩を抱き、里長が望む返答をしてやった。


「レインが、大事な人間が生きている世界を救ってやりたい。それ以外に理由が必要か?」


「ふぇ!?」


 突然の事で驚き赤面しているレインを皆ニヤニヤしながら見て、里長はさっきまでの暗い表情とは一変、ニカッと笑った。


「フォッフォッフォ!!そういう事じゃ若者よ。ワシも似たような理由で命を懸けても里を救いたいのじゃよ。」


「1個間違ってるぜ爺さん。」


「ほう、言ってみろ。」


「俺はこの旅で死ぬつもりなんて一切ねぇ。生きて、目が見えるようになったレインと一緒にもう一度この世界を旅するんだ。だから俺はアンタと違って命は懸けてねぇんだよ。」


 力強く放った俺の言葉は、里長をさらに明るく笑わせ、言った手前俺も少し恥ずかしくなってきた。


「フォッフォッフォ!!世界を救う大役を、命も懸けずに完遂しようというのか!!ならば生きて帰ってこい。その言葉、偽りとは言わせぬぞ。」


「当然だ。アンタも俺達が居ない間に勝手に死んだら許さねぇからな。」


 部屋に入った時よりも里長の顔には優しい笑顔が溢れている。

 その後俺達は里長に宿を用意してもらい、その宿で1晩を過ごした。

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