いざドワーフ領へ
「兄ちゃん達、魔力は有り余ってそうだがちゃんと調整しろよ?前も言ったがあんまりスピード出しすぎると脱線すっからな?」
「ですって一成さん。」
「……あ、ああ。聞いてなかったわ。」
「重症ですね。」
いくらご立派に作られているとはいえ乗り物を目の前にすると流石に足が震えるな。
何も考えるな、いや、素数を考えろ。
「2、3、5、7……」
「ブツブツ言ってないで早く乗るわよ。」
「待って!!俺のタイミングで行かせて!!」
「んなもん待ってたら日が暮れるわよ。」
俺はソールに首根っこを捕まれ操縦席へ放り投げられた。
「これで全員乗りましたか?」
ルシウスが周囲を確認して乗車した後、俺と対面側の漕ぎ手を掴んで軽くそれを押し下げる。
グンッという衝撃と共にトロッコが発射しだした。
「そんじゃあ皆さん、良い旅をー!!」
俺の位置からおっさんが手を振っているのが見える。
後ろのレイン達も手を振り返し、ほのぼのとした発車風景が映し出されていた。
「一成さん。それ押し下げてもらわないと進みませんよ?」
「わかったよぅ……。」
俺はタバコに火をつけ、目の前に差し出されている漕ぎ手を勢い良く押し下げる。
その瞬間一気に速度が上がり、漕ぎ手を掴んでいないと倒れるほど加速した。
「い、一成さん!!急にスピード上げすぎです!!」
「やっべぇ!!ブレーキねぇのか!?」
「楽しいから良いんじゃない?暫く真っ直ぐらしいし脱線することは無いでしょ。」
まるでジェットコースターに乗っているかのようにソールが笑顔でこちらに笑いかけた。
他の2人は各々車体に捕まりながら悲鳴をあげている。
ルシウスもやれやれといった様子で、速度を少しずつ落とすように調節しながら漕ぎ手を下げた。
「ゆっくり、ゆっくりだよな?」
「ちなみにこれ以上速度を上げると直線でも脱線する危険性がありますから気をつけてくださいね?」
脅された俺は恐る恐る指1本で漕ぎ手を押し下げ、ルシウスに手渡す。
それを続けていると段々とスピードは緩やかになり、外の景色を見る余裕があるくらいには落ち着いてきた。
「な、何とかなったな……。」
「あー楽しかった!!」
ソールは元気に両手を上げているが、他は全員疲労困憊状態である。
「今どの辺だ?」
「大体半分すぎたくらいですかね?最初のさっきのカーブが中間辺りなはずなので。」
「意外と短いんだな。」
「普通はあんなにスピード出しませんからね。本来2時間程で着く予定が、30分もしないで中間過ぎましたから。」
結果的に良かったか。
こんな危険な乗り物1秒でも早く降りたい。
「アタシは帝国領から出た事がないから知らないんだけど、ロックロードの向こう側ってどんなところなの?」
ソールがタンポポの肩を叩いて話しているのが聞こえる。
俺も少し気になっていた。
「ドワーフの里の裏手にあるヴォルブ火山の影響で、この山一つ超えると気温が一気に上がります。ドワーフ達は暑さに強いので大丈夫ですが、皆さんはしっかりと対策した方が良いと思います。」
「鞄の中に耐熱クリームがあるので、向こうに着いたら全員しっかり体に塗っておいてください。ロックロードの向こう側は30度を平然と超えますし、ドワーフの里は平均気温が50度ですから。」
「50度!?呼吸出来ねぇだろ。」
「そのための耐熱クリームです。特殊な魔法で作られてますからある程度体に塗ると全身をコーティングしてくれますよ。」
便利な道具もあったもんだな。
その後俺もある程度操作になれてきて、タバコが9本吸い終わる頃にはトンネルの出口が見えていた。
それと共に、さっきまで日陰でヒンヤリしていた空気が一気に熱を帯び、ジワリと肌を汗が覆う。
「さぁ、もうすぐ到着です。ここから先はドワーフ領土。一気に魔源まで突き進みましょう!!」
もし宜しければブックマークや下の評価ボタン、ご意見ご感想等送っていただけると大変励みになります!
よろしくお願いします!




