苦手な物
「一成さん、早いですね。」
「ああ。昔の仕事の関係で寝起きに関しては決まった時間にできるようになっちまったんだよ。」
コンビニ店長だった頃は人が居ない時間に出勤しなければいけなかったから1週間のシフトは不規則だった。
朝から出勤する日もあれば夜勤の日もある。
そのおかげか、目覚ましがなくても起きなければいけない時間に勝手に体が起きていた。
「じゃあこのまま2人でトンネル入口のトロッコ乗り場まで予約に行きますか。普通に歩いてトンネルを抜けようとすると丸1日以上かかってしまうので。」
「と、トロッコ……?」
「ええ。トロッコです。」
みるみると顔が青ざめる俺にルシウスは何かを察したようだ。
「まさかとは思いますが乗り物、苦手ですか?」
「い、いやー、そんなことは……。」
……あるんだけどな。
子供の頃にテーマパークで絶叫マシンに乗った時、設備不良かなんかで途中で止められた事がある。
その時から車は慣れたが他の乗り物は普通に怖い。
飛行機は論外、電車ですら立って乗れず、座っていても手すりに捕まっていないと終始不安だ。
俺の弱点が分かったのが余程嬉しかったのか、ルシウスは嫌な笑みを浮かべながら俺の手を掴んで引きずるように部屋を出た。
「待て、予約ならわざわざ俺を連れていく必要ねぇだろ!!」
「別に予約なんですからそんなに邪険にする必要も無いでしょう?」
ルシウスの野郎、終始満面の笑みである。
いい性格してやがる。
そんな言い合いをしながら歩いていると、割とすぐにトロッコ乗り場まで着いた。
「こりゃまた随分オンボロだな。」
「全員が乗れる物はこのサイズしか無かったもので。」
用意されて出てきたトロッコは錆び付いており、線路も見たところかなりガタがきているようだ。
そして何より手漕ぎ式なんだが、
「これ漕ぐの俺とお前じゃねぇだろうな?」
「当たり前じゃないですか。レインさんやソールに漕がせるつもりですか?」
「やーだーよー俺!!命綱もねぇじゃねぇかこれ!!」
「大丈夫だよにぃちゃん。そんなにスピード出るもんでも無いし、ていうか出しすぎたら脱線するしな!!」
トロッコ乗り場のおっさんのフォローがフォローになってねぇよ。
「おっさん、もっと良いの無いの?」
「あるにはあるが、一般人乗せる用の代物じゃねぇんだよ。ここの領主が向こうに行く為の特別製だから権利も領主が持っとるしな。それに、手漕ぎなのは変わらん。」
そう言っておっさんが後ろを指差す。
そこにあったのは手漕ぎ部分もしっかりと屋根がつき、まるで新幹線の先端のような形状のご立派なトロッコ。
てかこれはもうトロッコじゃねぇよ。
新幹線の先端だよ。
「俺あっちが良い!!」
「ダメダメ!!勝手に使ったら怖ぇ領主に怒られちまうよ!!」
おっさんが必死に止めているのを他所に、俺はルシウスに視線を送る。
ルシウスも俺が何を言いたいのか察し、呆れ顔で言った。
「領主の屋敷まではここから10分くらい歩けば着きますよ。」
「往復20分か。おっさん、ちょっと30分くらい待っててくれ。」
「10分で話つける気ですか?」
「俺とお前ならそんなにもかからんだろう?」
「不法侵入計画の頭数に勝手に入れないでください。」
それでも嫌々ながらルシウスは俺を屋敷に案内してくれた。
俺とルシウスは本当に歩いて10分くらいで到着し、ドアの前にいる門番に声を掛けた。
「何者だ!!」
「なぁ、面倒臭いから無理矢理突破しても良い?」
「んー、結果的にその方が事が早く進みそうなので良いんじゃないですか?」
最早ルシウスも投げやりになっており、俺が声をかけるよりも早く剣を抜いていた。
「お前ら!!反逆者っ」
「邪魔。」
門番が声を上げきる前に門番の意識を飛ばし、そっと寝かせて扉をノックする。
どうやら俺のノックは強すぎたようで、扉は粉々に吹き飛んでしまった。
「お邪魔しまーす!!」
「領主を出してくださーい。」
ルシウスももう片方のドアを吹き飛ばしながら堂々と庭に入る。
そこには近衛兵らしき者達が目を丸くして待ち構えていた。
「貴様ら侵入者か!?」
「領主様に報告しろ!!」
「なるはやで頼む。」
「なんでお前が言うんだよ!!」
襲いかかってくる近衛兵達をタバコ片手にあしらいながら、屋敷の中へ俺とルシウスは入っていった。
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