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小さな歩み

「お前ら無事か!?」


 俺がドアを開けた時、そこにはピクリとも動かなくなった見るも無惨なゴブリンの死体と、その傍らで座り込むソール、そして立ち尽くすレインの姿があった。


「い、一成……。」


「ソールが助けてくれたんです……。」


 緊張の糸が途切れたのか、2人は涙目になりながら俺にすがりよってくる。

 その2人の背中を摩り、落ち着いた頃を見計らって事情を聞いた。


「すまん。俺がもう少し早く来ていれば……。」


「アンタのせいじゃないわ!!それにアタシでも倒せたのよ!!」


「元気になったのは良いが、とりあえず机から降りような。」


 自分で色々ぶち抜いたであろう不安定な机からソールをおろし、今度は外に待っていた村の住民達の様子を見に行った。

 しかし住民達は疲労困憊で、誰1人感謝の言葉すら述べようとしない。


「これからどうしたら……。」


「なんでゴブリンが突然……。」


 その様子を見てソールもレインも気が滅入ってしまったようで、一難去ったはずなのに浮かない顔をしていた。


「皆さん、お待たせしました。」


 そこへルシウスとラックが帰還した。

 ルシウスは衣服が血で汚れ、ボロボロになっている。


「剣聖様がそんなボロボロとは、どんな死闘を繰り広げて来たんだ?」


「ホントよ!!すぐに手当するわ!!」


「大丈夫ですよ。もう殆ど治ってますから。」


 そういうとルシウスは俺たちに心配かけないといつもの笑顔で屈伸した。

 反面ラックは浮かない顔をしている。

 だがそれよりも、剣聖という言葉を聞いて住民達が騒ぎだした方が問題だった。


「剣聖?剣聖って言ったのか?」


「貴方帝国軍の隊長様だったの?」


「元、ですけどね。」


 申し訳なさそうに頭を搔くルシウス。

 だが住民達の勢いは止まらず、あらぬ方向へ矛先を向けてきた。


「どうしてもっと早く来てくれなかったんですか!?」


「僕達は村がこんなになる前にゴブリンの討伐依頼を依頼していたというのに!!」


「そ、それは……。」


 ルシウスは住民達に詰め寄られ、驚きと悲しみの表情を見せる。

 その後も対応が遅い事だけではなく、人数が少ない事や、果てはメンバーに女が居る事にまで口を出してきた段階で、俺は流石にキレた。

 キレてさっきまで避難所になっていた屋敷を裏拳で消し飛ばした。


「てめぇら……。」


 流石に轟音と共に消え去る屋敷と俺の表情を見た住民達は絶句し、怯えながら俺を見つめる。


「一成さん。良いんですよ。帝国軍の対応が遅かったのは事実ですし。」


「いいや、良くねぇな。俺は別に感謝して欲しかった訳でもねぇし礼が欲しかった訳でもねぇ。ただ、命掛けて戦った人間に対してあまりにも無礼じゃねぇか?」


 ルシウスはハッとしながらも俺に答えた。


「一成さん。この世界では強い者にはそれ相応の責任が着いて回るんです。弱い者を助けるというね。私はその責務を果たせなかったんですよ。」


「確かにそうかもしれねぇ。だが、弱い者にも弱い者の責任ってもんがあんじゃねぇのか?俺には少なくともコイツらがその責任を果たしたとは思えねぇ。」


 睨み合う俺とルシウス。

 だが場を収めたのは俺でもルシウスでもなかった。


「アンタ達、ちょっと黙ってなさい。」


 ソールが腕を組みながら俺とルシウスの間に割って入る。

 言い返そうとした俺を無言で睨みつけ、住民達に向かって声高らかに言った。


「アタシは世界を救う巫女ソールよ。アタシは早急に魔源を収め、世界を救ってみせる。もうこんな事が起こらない未来にしてみせる。だからお願い。もう少しだけこの理不尽に耐えて欲しい。強いも弱いも関係ない。全員で助け合ってこの理不尽を耐え、生き残ってください。」


「み、巫女様……。」


 その場の全員がソールの言葉に聴き入り、動けなくなっている。


「さぁ、行くわよアンタ達。」


 振り返って歩き出すソールに誰も反論することは出来ず、俺達はその小さな歩みに着いて村を後にした。

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