家宝
「ミラ、アタシを強くして!!」
「あらあらソールちゃんじゃないの。どうしたの?そんなに血相を変えて。」
ソールは誘拐されルシウスと一成に助けられた時、どうすれば仲間の迷惑にならないか考えていた。
そして思いついた方法は、魔道具。
魔法を使えない、正確には魔力を発することが出来ないソールにとって、武器と呼べる物は他に無かった。
事情を聞いたミラは、答える。
「確かにこの先、ルシウスちゃんも一成ちゃんも頼れない時、自分の身は自分で守れるようにならないといけないとは思うけど……。」
「アタシ運動神経も悪くないし知識もある!!何でも良いの!!」
「それは全部、魔法を使わないならって話でしょ?」
「そう……だけど……。」
悲しそうな顔をするソールを見て、ミラも腕を組む。
「……無いわけじゃないわ。但し、魔法無しでまともに扱えるようになるにはとんでもない努力が必要よ?」
「任せて。根性には自信があるの。」
「なら、ちょっと待っててね?」
ミラはこの後工房に戻り、9個の指輪を出してくる。
指輪の裏側にはそれぞれ見た事のない魔物が掘られており、外側には違う色の宝石がはめ込まれていた。
「なにこれ。」
「うちの家宝よ。」
「家宝!?」
「そう。実家から勝手に持ち出したやつだけどねぇ。」
そう言いながら鼻歌を歌い、ソールの指1本1本に指輪をはめていく。
使い古された指輪はまるで元々ソールの手のサイズに合わせて作られたかのようにピッタリはまり、手を握ったりしても全く違和感のない特殊な物だった。
「でもいいのミラ?貴女の家の大事なものなんじゃ……。」
「アタシってドワーフでも変わり者でしょ?だから家に居づらくて縁切り同然で出てきたのよ。その時少しでも足しになれば良いなと思ってかっぱらってきたヤツなんだけど、もうお金に苦労してないしねぇ。」
やがて左手の薬指以外全ての指に指輪がはまった。
その薬指を見ながらソールは首を傾げる。
「何でここだけ空けたの?」
「当たり前でしょ。左手薬指の指輪は女の夢じゃないの。」
穏やかな笑顔でソールに微笑みかけるミラ。
その優しさに触れて、ソールはもう誰にも迷惑をかけないよう日々努力し続けた。
時は現在。
ソールの手には召喚されたハンドガンが握られており、右手小指の宝石が光り続けていた。
「レイン、正確な場所を教えて。」
「は、はい!!」
銃を構えているソールも息が詰まる。
距離を取っている今はこちらの方が有利だが、近寄られると不利になる事は分かっていたからだ。
外からの風で建物が軋み、レインも正確な位置を編み出すのに時間がかかっているようだった。
「レイン、分かりそう?」
「おおよその位置は掴めているんですが、相手も音を立てず左右にゆっくりと移動しているのでどうしても正確な位置が分からなくて……。」
「それじゃあ、どの辺?」
「ソールの前方、距離8m。正面の机付近です。」
「そこまで聞ければ上出来よ!!ちょっと耳塞ぎなさい!!」
ソールは言われた通り、机付近に銃を連射する。
その発砲音にレインは驚き、思わず耳を塞いでうずくまった。
全く迷いのない、ゴブリンの胸付近の高さへ正確な射撃。
土煙が舞い、壁には銃痕が残った。
「さぁ、出てきなさい!!」
「ゴブッ!!」
最初の1発目がゴブリンの肩に当たっており、ソールの挑発に乗ってゴブリンは姿を現して捨て身の特攻を仕掛けてきた。
「判断わ悪くないわね。これじゃあ分が悪いかも。」
全く慌てる様子のないソールはハンドガンをくるりと回す。
すると右手小指の指輪の光が消えたと同時にハンドガンも手から消えた。
「【魔銃召喚】二式 獄狼ヘルハウンド。」
今度は右手薬指の指輪が光ったと思うと、手元に現れたのはショットガンである。
「吹っ飛べっ!!」
ズドンッという鈍い衝撃が周囲に走る。
飛び込んで空中にいたゴブリンはその衝撃と共に後方へ吹っ飛ぶと同時に、上半身と下半身が切り離された。
そしてソールはそのゴブリンを追って頭に向かってもう1発散弾を打ち込むと、くるりとショットガンを回し、綺麗な黒髪をかきあげて気が抜けたように膝から崩れ落ちた。
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