剣と盾
ラックに案内されルシウスがたどり着いた場所は、岩山をくり抜いたような横穴だった。
入口にはゴブリンの見張りが2体。
ルシウスは確信を持った足取りでゴブリンのアジトに近付いた。
「ちょっ、ルシウスさん!!正面から行く気っすか!?」
「問題無い。ラックは逃げ出したゴブリンを仕留めてください。」
ラックの静止も聞かず堂々と見張りの前に姿を現し、気付いた見張りが中へ仲間を呼びに行こうとした瞬間を狙って、ルシウスはその首を落とした。
その速さはラックが目を凝らしても剣筋が見えない程であり、ゴブリン達は首を落とされた後も数歩走って倒れ込んだ。
「中は暗いですね。」
そう言ってルシウスが指を鳴らすと、光の玉がふわりと浮き上がりルシウスと並行した。
中は分かれ道が多く、全てのゴブリンを仕留めるにはかなり時間がかかる。
そしてまだ生存者が残っている可能性がある為、大規模な破壊魔法は使えない。
つまりは全ての道を辿り、手当り次第にゴブリンを殺していく作業になる。
「貴方達が売った喧嘩です。命取られる覚悟はしていますよね?」
横穴から飛び出してきたゴブリン2体に挟まれ、ルシウスは勢い良く剣を抜く。
だが穴は縦には広いが横は人がすれ違うので精一杯程度の広さであり、横に振りぬこうとした剣が壁に当たった。
「ゴブゴブ!!」
まるでルシウスを馬鹿にするようなゴブリン達。
その姿にルシウスの堪忍袋の緒が切れた。
「ふんッ!!」
腕に力を込めると、まるでバターでも切ったかのように壁ごとゴブリン達を斬り捨てる。
横に真っ二つになった死体を無言で蹴り飛ばしながらルシウスは奥に進んだ。
殺した数が20を過ぎたあたりから最早数えることを止めて、返り血を拭うこともしなくなった。
ゴブリン達から見ればその姿は死神。
人間よりも少し暗い色の返り血のせいでどんどんその姿は禍々しく闇に溶け込んでいた。
「ここも行き止まりか。……ん?」
何度目かの行き止まりに差し掛かった時、その奥に扉があるのに気付く。
取手もなく半開きになっている扉の隙間からすすり泣く人間の声が聞こえてきた。
「これは、食料庫か。」
討伐隊時代何度も経験した魔物の討伐。
魔物達にとって人間はエサでしかない。
ある程度の知恵がある魔物は人間を巣に持ち帰り、生きたまま食料として保存しておくのだ。
大抵連れ去られるのは女子供。
肉が柔らかいから魔物にとって食べやすいらしい。
「毎度この瞬間は気が滅入る。」
ルシウスは扉を開け、中の人間達を確認した。
案の定中に居たのは女子供であり、服を脱がされて手足を縛られている。
彼等には水だけが与えられており、全員痩せ細り栄養失調状態だ。
縛っていた荒縄を切るために短剣をかざした時、虚ろな目をした少年がルシウスに声をかけた。
「あなたは……勇者様ですか……?」
ルシウスはその言葉に即答できなかった。
誰でも子供の頃は憧れる勇者。
聖剣を手に取り、民衆の困り事を解決しながら魔王を打ち倒すべく旅をする。
しかし現実はそんなに甘くない。
彼の目の前で家族、友人が魔物によって殺されただろう。
その殺戮を止めることもせず、次が自分の番かと怯えながら、生きる事を諦め死を待っていたところに来た男なんて、勇者と呼んで良いのか。
「私は……。」
水瓶に写るゴブリン達の血で汚れた鎧。
血走り狂気に満ちた目。
思わずルシウスは水瓶に入った大量の水を頭から被り、自身が何者なのか再確認した。
「私は彼女の剣であり盾です。皆さんを助けたのは彼女がそう望んだから。魔物を殺すのもまた、彼女が望んだから。」
自分に言い聞かせるように少年に答え、そのままナイフを手渡して更に続けた。
「勇者は貴方がなってください。私はもう、勇者のような光の当たる道は眩しくて進めない。」
ドアを開け、怒りに身を任せていた時より少しだけ自分を落ち着かせてルシウスは最深部を目指す。
巫女が望んだと、自分に言い聞かせながら。
もし宜しければブックマークや下の評価ボタン、ご意見ご感想等送っていただけると大変励みになります!
よろしくお願いします!




