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世界を救う旅

 ノックの音が聞こえる。

 ルシウスかソールが宿の中まで俺達を呼びに来たのだろう。


「失礼いたします。」


 と思っていたんだがレインさん、こんな朝早くからルームサービス呼んだの?

 入ってきたのは宿屋の女性。

 だが手には何も持っておらず、申し訳なさそうにゆっくりとドア越しに顔をのぞかせた。


「どうかしました?」


 俺はレインを起こさないように体を起こし、女性に話しかける。

 ん?

 良い匂いがする。


「料理長が今日お2人が宿を出ると言うので、良いお客様でしたし折角だから開店前に食事を出したいと……。」


 話が聞こえたのか、目にも止まらぬ速度でレインが起きる。

 その動作に宿屋の女性も驚きながら、多分まだ意識がないであろうレインをテーブル席に案内していた。

 俺もそのあとを追いかけると、料理長と思わしき男性が腕を組みながらレインを見て、その食べっぷりに微笑んでいる姿がある。

 レインは1口1口にいちいち感動しながら顔を緩ませ、また次の皿に手をつけるという作業を繰り返していた。


「お、兄ちゃんも起きたか。アンタも食ってくれよ。あんたらのおかげでここ1ヶ月で1年分は稼がせてもらった。」


「ああ、頂くよ。」


 俺も席に着くともう殆ど無くなっていた料理の皿が片付けられ、代わりに同じ量の料理が運ばれてくる。


「俺、こんなに食えんぞ……?」


「大丈夫です一成さん。私が食べますから。」


 最早狂人の域に達してるぞ。

 道中の食費マジで大丈夫かな……。


「いやー、嬢ちゃんは幸せそうに食べてくれるから俺達も作りがいがあるよ!!」


「ほんと、ありがとうございます。」


 料理長と宿屋の女性も笑顔でレインを見つめ、その様子に少し目が覚めてきたレインが恥ずかしそうに顔を赤くする。

 やがて手を止めて、


「あ……あれ?私……!?」


「嬢ちゃん、美味いかい?」


「お、おいひいれす……。」


 レインは恥ずかしそうにスプーンを咥えて下を向きながら頷いている。

 その場にいる全員がそれを見て笑顔になったあと、その好意に甘えて俺達は腹いっぱいに飯を食わせてもらった。




「遅かったわね。」


「いや、むしろ早かった方だ。」


 食事を物凄い速度で食べ終え(主にレインが)、準備した後宿屋の外に出ると、計ったかのようなタイミングでソールとルシウスが大通りから歩いてくる。

 まだ白み出した程度の朝の帝都を、こちらの様子を伺う訳でも無くただ外に向けて真っ直ぐ歩く2人に、俺とレインは並んで歩き出した。


「どっかで見てたのか?」


「監視とは帝都の門を抜けた後に合流する予定です。一成さんに気付かれないとなるとやはり優秀なようだ。」


 俺達はできる限り巫女が旅に出た事を悟られないように足早に大通りを抜け、帝都の壁の外へ出た。

 ソールとルシウスはフードで顔を隠し、関所にいる兵達に無言で通行証を見せると、一瞥して平原へと出る。


「まだフードは脱がないでくださいね。もう少し先まで歩きましょう。」


「分かったわ。」


 平原を進めば帝都の中ではチラホラすれ違っていた通行人もその姿を消し、俺たち4人だけがポツンと平原の真ん中におり、追跡者が居ないか確認しやすくなっていた。


「……誰だ?」


 1人凄い速さで木の陰から陰へ俺達に見つからないように跡をつけてくる人間がいる。


「帝都を抜けてからずっと着いてきてましたよ?」


「レインは気付いてたのか?」


「風の音に混じって草をかき分ける足音が聞こえてましたから。」


 その言葉にルシウスも頷く。

 気付いてなかったのは俺とソールだけだったようだな。


「でも、安心してください。彼女は朝からお2人を監視していた、」


「一成さーん!!」


「ぐはっ!!」


 レインよりも一回り小さな影が俺に突進してくる。

 そのまま俺に抱きついたかと思うと、勢いが強すぎて俺のみぞおちを強打。

 踏ん張れなくなった俺とその影は縦に回りながら木に激突して止まった。


「ずっとお会いしたかったっす!!」


「お前、ラックか!?」


 俺に馬乗りになりながら満面の笑みと尊敬の眼差しを向けてくるラック。

 それをルシウスが首根っこを掴んで引き離し、状況を説明してくれた。


「1ヶ月間彼女を特訓してました。私と一成さんは言わば戦闘員と盾です。いくら一成さんとレインさんの音で察知する能力が優秀と言っても、戦闘員である一成さんがその役目まで担うのは咄嗟の対応が遅れると思いましてね。」


「確かに。」


「そこで、帝国軍では無いラックさんが丁度暇そうにしていたので回収して隠密を叩き込みました。たった1ヶ月で一成さんにすら気付かれなかったんですから飲み込みが早く優秀でしたよ。」


「最後色々端折ったなー。だが民間人巻き込むくらいなら素直に暗部だかを頼ればよかったんじゃねぇのか?」


「暗部に簡単に接触できたなら苦労はしませんよ。何より私自身暗部がどんな組織なのか分かっていないんです。そんな組織を頼るわけにはいきません。」


 ルシウスは話を終えるとゆっくりとラックを下ろす。

 地に足が着いた瞬間こちらに駆け寄ろうとしたラックが突然ピタリと立ち止まり、耳をピクピクと動かしながら周囲を見回している。


「皆さん、なにか来るっす。大きな足音が2つ。」


 ラックが見つめた先、言われた通り大きな影が2つこちらに走ってきている。

 俺達に狙いを定め、真っ直ぐに。


「……あれは、グリフォン!?それも2体!?」


 驚いているラックを他所に、俺とルシウスは3人の前に立ち、準備運動を始めた。


「流石にグリフォン2体は危険っす!!ここはやりすごした方が、」


 とは言ってももう目の前に迫ったグリフォンをやり過ごす方法などないだろう。


「それにしてもこの辺ってグリフォン多いのな。」


「この辺ではグリフォンが生態系の頂点ですからね。数は少なくないですよ。」


 レインとソールは何を心配することも無く、ただ俺とルシウスの背中をじっと見つめていた。


「一成さん、覚えてますよね?」


「お前が右で、俺が左な。」


「結構。」


 俺達を見下ろすように目の前に立ちはだかるグリフォンが足を上げた瞬間、左のグリフォンの頭が吹き飛び右のグリフォンの首が切り落とされた。


「さぁ、行きますよ。」


「ああ。」


「つ、強すぎる……。グリフォンを一瞬で……。」


「アンタ、こんなのに驚いてたらこの先持たないわよ?」


「グリフォンって、食べれるんですかね?」

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