帝都の夜
「出発は明日の朝、ソールを連れてこちらへお迎えにあがります。そうすれば敵対勢力の監視等があってももかいくぐれるでしょう。」
「もうこの街ともおさらばか……。」
旅の話をしてから数日間、俺達は綿密に計画を練りながら出発の日を待っていた。
それがもう明日とも迫ると何となく寂しい気持ちも湧いてくる。
「長いようで短い1ヶ月でしたね。」
レインも寂しそうに笑っていた。
「また戻ってきて美味いもの食べような。」
俺がそう言うとレインは少し解けた笑顔になり、大きく頷いた。
帝都最後の夜、俺は1人タバコを吸いながら街を歩いていた。
少し前まで冒険者や商人達で賑わっていた街は一通り騒ぎ終え、少しづつ静かになっていく。
恐らく日付が変わるくらいだろう。
この街に居座って1ヶ月、本当に色々なことがあった。
毎日が非日常に成り代わり、それまで考えたこともなかった命を賭けた戦いが常に隣り合わせ。
そんな非日常が意外と楽しくもあるが、命というものの価値が段々と下がっている感覚にも陥った。
自傷行為に近い喫煙が今の俺を作っている。
文字通り命を減らしながら戦っているんだからそれもそうなんだろうな。
「こういう時に吸うタバコがいちばん美味いんだよな。理由は分からねぇけど。」
いつもと変わらない味。
だが感傷に浸る瞬間に吸うタバコはなんにも変え難い味がする。
ライターの金属音と共に肺に入ってくる煙。
少し肌寒い外気がタバコを吸い始めた昔を思い出させた。
「一成さーん!!」
走れる訳でもないのにレインが急ぎ足で俺の後を追ってきていた。
レインの前だと不思議と笑顔になれる。
この世界に来て最初に出会った人間がレインで良かったと心の底から思った。
それから俺達は他愛の無い会話をしながら大きな通りをゆっくりと1周した後、明日に備えて寝ることにした。
宿に入る前、レインがほとんど灯りの消えた街を見ながら、
「私、この街があまり好きではありません。人間が人間を苦しめて搾取するような街ですから。だから、出来ることなら誰も苦しまずにみんなが笑顔で暮らせる世界にしたいと、そう思ってます。」
「レインは優しいな。」
「茶化してますー?」
「いや、俺はハッキリ言って世界の事なんてどうでも良いんだ。他の人間の事もどうでも良い。レインの目が治るならどんな犠牲も厭わないと思ってる。」
レインは不思議そうに俺の方向を向いて首を傾げた。
「一成さんもとっても優しいと思いますよ?何人も命を助けたり、悩みを解決したりしてました。」
「目の前で苦しんでいる人間見捨てたら寝覚めが悪いだろう?優しい訳じゃない。自分勝手なだけだよ。」
「そういうのを、優しいっていうんだと思いますよ?」
レインは嬉しそうに後ろに手を組みながら俺より1歩先を歩き宿へ入ろうとする。
途中躓いてそれを俺が受け止めると、顔を赤くしながらごめんなさいと謝った。
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