長旅
「窓、閉めていただけますか?」
ルシウスに言われた通りに最後にタバコを1度吸った後、火を消して俺は窓を閉めた。
「ありがとうございます。本題に入りましょうか。」
「だが話と言っても各種族を回って魔源を収めるだけじゃねぇのか?」
「それはそうなんだけど、話はそう簡単じゃないのよ。」
テーブルはレインが頼んだルームサービスで埋まっているため、ルシウスは床に地図を広げて解説を始めた。
「この地図の中心に位置しているのが我々が今いる帝都です。」
「前から思っていたが、帝都って隣の種族との間に山か……崖?があるよな。」
「そうなんです。」
地図の中心に帝都。
左上にドワーフ族の国、右上に獣人族の国がある。
その間には山がそびえ立ち、それを越える道が地図には表記されていなかった。
何より下部分、帝都からエルフの国と元竜人族の国の間にはまるで破かれたように地図上で大きな線が入っており、行き来出来るようには思えなかった。
「それぞれの国には隣の国との間に大きな自然の障壁が敷かれているんです。基本的には魔物が多く危険ですが、人間が行き来できるように整備されています。ですが1箇所だけ。」
ルシウスは地図上の大きな線を指さした。
「この反逆の爪痕と呼ばれる崖だけは距離もあって簡単には通れません。」
「随分意味深な名前だな。」
「ここはかつて転生者と5人の勇者達が戦った跡地なのよ。地形をこの規模で変えてしまうほどの戦いだったらしいわ。」
こんなもん国1つ吹っ飛ばすなんてレベルじゃねぇだろ。
じゃあ地図が汚れていた訳じゃなく、マジでこれが崖なのか。
「ですが行く方法が無いわけではありません。今は、各国へ行くには常に自然の障壁を超えなければならないと覚えていてください。」
「分かった。ならそれぞれどのくらい距離があるんだ?地図だとハッキリしねぇからな。」
「徒歩で1ヶ月以上、長い場所だと3ヶ月はかかるでしょう。」
帝都がこれだけ小さく描かれているんだからそうだろうとは思ったが、こりゃあ何年規模だな。
「とんでもねぇ長旅になりそうだな。」
「道中に町や村があるのでそこを経由しながら行くことになります。ただ、友好的なものばかりではありません。」
そう言ってルシウスはさっき整えていた資料を取り出してきた。
「まず魔物達。彼らは問答無用で襲ってきます。近隣への被害も考えて出来る限り討伐しながら進もうと思っています。ただ、魔源へ近付く程魔物は強くなるのでそこは覚悟しておいて下さい。」
「了解だ。魔物の相手なら加減する必要もねぇし楽だろう。」
「魔物なら確かに良いのですが、この巫女の旅を良く思っていない連中というのは少なからず居ます。この資料を。」
ルシウスは資料を次のページへめくる。
そこに書かれていたのはベリアルらしき似顔絵だった。
「分かっていると思いますがベリアルは1度や2度の襲撃で諦めるような人間では無いでしょう。バックにはエルフが着いていると考えれば旅の妨害をしてくることはほぼ確実です。」
「あの時は人質を取られていたようなもんだっただろう?お前が本気でやればどうにかならんのか?」
「……恐らくベリアル自身も全く本気を出していなかったように思います。隊長の頃はもっと強かった。」
そう語ったルシウスの表情は暗かった。
それを悟ったかのようにソールが話を次に移す。
出てきた3枚目には見覚えのない紋章が書かれていた。
四角の真ん中に丸が書かれたシンプルな物だが、その丸が渦巻いている。
「最後にコイツらよ。通称東ノ国。転生者と共に戦った人間達の生き残りよ。」
「俺は多分、コイツらに会わなきゃいけねぇな。」
レインも俺と同様に反応していた。
恐らくノブナガと縁がある集団だろう。
コイツらの目的は何であれ、山切包丁を返してやらないとな。
「東ノ国はエルフ族と獣人族の間に本拠地があるらしいからその辺だと注意が必要かもね。」
「敵対する者たちは以上です。この先他の勢力が出てくる可能性もありますが、大きな力を持っているのはこの辺りでしょう。」
「一通りは分かったよ。あとはいつ出発するかと……飯の事だな。」
幸せそうに飯を平らげているレインを見ながら俺達は顔を見合わせて笑った。
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