手打ち
「レイン、無事か?」
「ありがとうございます一成さん。私は大丈夫です。」
「おい!!何で女を離した!!」
ボスは無意味に部下を殴りつけている。
自分で人質から離れて、自分で部下から剣を取り上げたのにも関わらず全く悪びれる様子がない。
多少魔力を扱えるだけでこんな無能の馬鹿でもマフィアのボスになれるんだから良いのか悪いのかってとこだな。
「ほら、1列に並べ。順番だからな?」
「う……うわぁぁああーー!!」
ボスを置いてマフィア達が一目散に逃げていく。
出口のドアが我先にと部屋から出ようとする奴らでごった返して逆に出れなくなっていた。
それでも少しづつ人数は減っていったが、階段の上から大きな破裂音が響く。
「なんだ!?」
「ま、まさか……だがこんなところに来るわけっ」
容赦なく響き続ける破裂音と共に階段を1歩1歩降りて来る足音。
テレビやゲームでしか聞いたことがないが、この破裂音は恐らく銃声だろう。
この世界にも銃の類は存在していたのか。
ドアの奥には銃で撃たれた死体が転がり落ちてきて、それを見た奴らが今度はこちらへ折り返してくる地獄絵図だ。
「お前、仲間が他に居たのか?」
「仲間!?バカ言うな!!こんな仕打ちをする仲間が居るか!?」
銃声が止み足音だけが鳴り響くが、明らかに一つではない。
複数人の隠す気のない足音が階段をぞろぞろと歩いてくる。
「レイン、伏せろ。」
俺に言われた瞬間レインは頭を抱えてしゃがみこむ。
俺もレインを守るようにしゃがんで、何が起きても対応出来るように構えていた。
「や、やべぇ……。」
足が見える。
やがて先頭の男が姿を現し、暗がりで見えづらい顔から冷たい瞳が俺達を見下ろしていた。
スーツに身を包んだその男は見るからにマフィア。
「お、親父……!!」
「親父!?お前がボスじゃねぇのか!?」
「あたりめぇだ……。俺があの人にかなう訳がねぇ。」
「……マフィアの真似事は楽しかったか?」
低く響いた声が俺の心臓を握る。
後から4人ほど階段を降りてきた男達が全員逃げようとした奴らに銃を向けていた。
「……アンタがガロンゾさんなのか?」
「そういう貴方は一成さんですね。倅がご迷惑をおかけ致しました。我々に貴方への敵意はありません。」
「親父すまねぇ!!俺がしくじったからっ」
息子が話している途中にガロンゾは息子の太ももを容赦なく銃で撃ち抜く。
声にならない唸り声をあげながら息子はその場に倒れ込んだ。
「俺は……アンタの為に……!!」
「重ね重ね失礼いたしました。直ぐに掃除いたしますので。」
そう言って息子の頭に銃を向けるガロンゾ。
「まぁ待ってくれ。ここまで巻き込まれたんだ。事情位聞かせてくれよ。」
「簡単なことです。貴方が倒した帝国貴族が我々の良い取引相手であった、倅がそれを逆恨みしての行動ですよ。」
「そんじゃあアンタは俺を狙わなくて良いのか?賞金だってかけられてるし何より商売相手潰されたんだぞ?」
ガロンゾは小さくため息をつき、俺の質問に真っ直ぐと答えた。
「恨むべきは弱かった帝国貴族。貴方は貴方のするべき事をしたと思っております。我々はマフィアと呼ばれておりますが、生きる為にこの生活を選んだに過ぎません。取引相手が居なくなったのならば、他を探すのが最善。仇討ち敵討ちなど二の次なのですよ。」
「コイツを殺した1億があれば代わりを探さなくても暫くは生きられるだろう!!だから俺はアンタの為に!!」
「1億程度の為に家族を滅ぼしかねない選択をしたんだぞ。それをしっかり反省しなさい。」
確かハリーに聞いた話だと人身売買と薬が主なシノギと言っていたな。
アーデルハイトも同じように奴隷の売買に力を入れていた。
言っていることは間違ってないし、嘘をついているようにも見えない。
「俺は別にコイツら全員殺す気は無かったし、この程度ならアンタらとやり合う理由にはならねぇよ。」
「何と寛大な。心から感謝申し上げます。」
「1つ借りって事にしとくよ。返してくれなくても良い。だがまた俺と敵対するようなことがあるなら容赦はしない。」
ガロンゾは深々と頭を下げ、俺達のために道を開けた。
「そうだハリー。お前の妹だがな、もしかしたら外れにある村に居るかもしれねぇ。期待しないで行ってみな。」
俺は暗がりの中、レインの手を引きマフィアとの戦いを後にした。
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