耐える男
「お前ら誰に喧嘩売ったか分かってるか?」
「おっと、格好つけてる所悪いが、余計な口を叩くと後ろのハリーが怯えて手が滑っちまうぜ?」
レインを捕まえているハリーがゆっくりと部屋へ入ってボスの方へ歩いていく。
首にはピッタリとナイフが突き付けられており、少し血が出ていた。
やがてハリーがボスの横に着くと、ボスがハリーからレインを強引に奪い取り、今度はボスが手に持つ剣がレインの首にかけられた。
「これで、妹は助かるんですよね!?」
「ああ。だがまだ一成の首が飛んでねぇからな。それが済むまでは……。」
「分かった!!言うことを聞くよ!!」
必死の形相でハリーは俺に向けてナイフを構える。
肩に力が入っており、剣先もカタカタと震えていた。
「お前、その話は本当だったのか?」
「さぁ?どうだろうなぁ?」
ハリーではなくボスが返事をする。
周りの奴らはその様子を見てクスクスと笑っていた。
だがハリーの表情は本気であり、そこに偽りはないと思われる。
って言うことは、コイツら最初からハリーの妹を助ける気は無いということか。
「まぁ、マフィアらしいわな。」
「あ、アンタに恨みはねぇんだ。だからすまねぇ。」
この場で大立ち回りを始めてもレインに痛い思いをさせるだけだろう。
こうなってしまった以上俺の決断は最初から決まっていた。
咥えていたタバコの煙を大きく吸い、ズボンのポッケに手を突っ込んだまま肩幅まで足を開く。
母指球に力を込め、見た目からは分からないように全身を強ばらせた。
「うわぁぁああ!!」
叫びながらハリーが俺の腹部にナイフを突き立てる。
しかしハリーの全体重を乗せたナイフは魔力が全く乗っておらず、俺の皮膚を少し傷付けた程度でハリーの手から地面に落ちた。
「か、硬ぇ……。」
「おいおい何やってんだよ。刃物がダメなら殴り殺せ。」
ボスがそう言うと、周りの奴らも角材やら鉄パイプやらを取り出してきた。
ハリーももう踏ん切りが着いたのか、勢い良く俺の顔面を殴ってくる。
「痛ってぇ!!」
しかしやはり魔力が乗っていない拳では俺に痛みはなく、相手からすれば全力で鉄壁を殴っているようなものだ。
砕けたのはハリーの拳だった。
痛みに悶絶するハリーを見て周りの奴らも少したじろいだが、ボスが睨みをきかせると恐怖からか思い思いに武器を俺に向かってフルスイングした。
「な、なんだコイツは!!」
鉄パイプはひしゃげて曲がり、角材は粉々に砕け散る。
混ざっていた刃物も綺麗にパキンと折れ、マフィア達の武器はボスの持つ剣だけになっていた。
「こんなもんなんだな。」
ため息をつきながら俺は手を握る。
俺は最早一般人の殺せる領域には無いということだろう。
以前ソールに思いっきりプライパンで殴ってもらったことがある。
自分がどこまで強くなったのか試すためだ。
攻撃に魔力を乗せることが出来ない巫女であるソールはそれにうってつけだからな。
結果フライパン側がひん曲がり、俺は殆ど痛みを感じなかった。
続けて平たい部分だけでなく縦の部分でもやってもらったが、結果は変わらず。
散々死線をくぐり抜けてきた結果、剣と魔法で構成されたこの世界の普通の人間達より余程俺は人間を辞めていた。
「てめぇ何か仕込んでるだろう!!」
ボスが隣の部下に剣とレインを預け、俺にズカズカと歩み寄ってくる。
道中に居た部下達を蹴飛ばし殴り飛ばしながら、イライラしているのを全面に出して。
部下の連中は魔力を武器や体に乗せる事は出来ないと思っていたが、このボスだけは違う。
肌感で分かる、まとわりつくような感覚。
魔力を使う者と相対した時の感覚。
この世界に来て数週間で俺はそういう感覚を感じ取れるまでに成長していた。
「だが、弱いな。」
「なんだとテメェ!!」
俺がこぼした言葉がボスの癪に触ったのか、怒りに任せて魔力を込めた拳が俺の左頬を貫く。
口の中で血の味がする。
流石に多少なりとも魔力が乗った拳は痛いな。
「一瞬表情が曇ったな?強がりやがって。」
ボスはそのまま2回、3回と俺の顔を殴る。
それでも俺はポケットから手を抜かず、ただ殴られるがままに立っていた。
「も、もうやめてください!!一成さんも私の事なんて気にしないで!!」
レインの叫びによってボスの拳により一層力が入る。
だがどうやらそろそろスタミナ切れのようで、次の拳を振るった時には肩から息をしていた。
「クソ……。何て野郎だ……。おい!!その剣を寄越せ。」
そう言ってレインの首に突きつけられていた剣を部下から奪い取り、俺へ向けて振りかぶる。
「俺は魔力を道具に乗せるのが得意でな?流石のお前もこれには耐えられねぇだろう!!」
その一連の行動を見て、俺は思わず笑ってしまった。
「ハッハッハ!!やっぱりお前らみたいなチンピラは扱いやすくて良いよ!!」
「てめぇ!!何が可笑しいっていうんだ!!」
「それに気付いてない時点でお前らは馬鹿なんだよ。」
大笑いした後俺はその場にいた全員に気付かれることなく一瞬でレインの横に行く。
恐らくルシウスなら簡単に止めていただろうが、コイツらは本当に戦闘の素人。
死角や背後を取ることは簡単であり、何より薄暗い部屋の中で俺のスピードを目で追えるものは誰も居なかった。
そのままレインを回収し、やる事は1つ。
「1人1発。ハリーは2発か?ボス、てめぇは4発だ。安心しろよ。ボス以外に魔力は乗せねぇからよ。」
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