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運の良いヤツ

「ふっ!!はっ!!」


 最近戦いという戦いがなかったので、せめて少しでも強くなろうと朝一番に平原へ出て体を動かしている。

 タバコに頼らなくてもある程度戦える位には強くなっておきたいからだ。

 そんなある日、俺がいつものように鍛錬をしていると、街の方から1人の青年が歩み寄ってきた。


「アンタが一成とかいう転生者か?」


「そうだが、何か用か?」


 青年は無言のまま懐の剣を抜き、こちらへ構えた。

 隠す気のない殺意が俺へ降りかかる。


「エモノ抜いたってことは、死ぬ覚悟はできてんだろうな?」


「アンタに恨みは無いが、俺のために死んでくれ!!」


 青年が持っている剣は先端が欠け、少し錆び付いていた。

 更に明らかに戦い慣れていない直線的な足取りで近付き、こちらへ剣を振り下ろす。

 俺は剣を握る手を掴んでひねりあげ、悶絶する青年の膝裏を蹴って地面に膝をつかせる。

 そのまま正拳突きを青年の顔目掛けて寸止めすると、青年は放心状態になり、糸の切れた人形のように力が抜けた。

 俺が青年の額をペシりと叩くと、すぐに男は我に返り体を跳ね上がらせ俺を睨む。


「お前、戦闘経験ねぇだろう。なのに何で俺を狙った?」


「……アンタの首に懸賞金がかけられてんだよ。」


「金目当てか。」


 自分の首に懸賞金がかけられていることは実は前々から知っている。

 だがそれは表立ったものでは無いようで、裏の権力者の中の俺を危険視したり目障りに思う人間が、かなりの高額で懸賞金をかけているようだった。

 正直潰そうと思えば潰せるのだろうが、向かってくる刺客達が俺の良い訓練相手になってくれているから適当に追い払っている。


「ちなみに今俺の首にはいくら懸賞金がかかってるんだ?」


「……1億だ。」


「安く見積もられたもんだな。」


「今アンタが最も高い懸賞金なんだぞ!?」


「今後全人類の敵になる可能性がある男に1億しかかかってないんだから安いだろう。」


 俺がタバコに火をつけ膝を着いている青年の前で吸い始めると、青年が俯いたまま語り始めた。


「俺にはアンタがはした金のように扱う1億が必要なんだよ……。」


「哀れみで負けてやるほど甘くは無いが、話くらいは聞いてやるよ。」


 俺がなぜこの考えに至ったかと言うと、今まで送り込まれてきた刺客の中で最も若く、単身だったからだ。

 1億という金は10人で割っても1人1000万だから人数を集めて襲撃した方が効率的だろう。

 なのにコイツはこの若さでたった1人俺に立ち向かってきた。

 若気の至り故に後先を考えていない馬鹿か、それとも本当に1億という金額が必要なのか。


「……ガロンゾファミリーって知ってるか?」


「知らんな。」


「帝国の裏社会のチンケなマフィアだよ。シノギは薬と人身売買。親が残した借金のカタに俺の妹が連れていかれてな。返して欲しければ1億耳揃えて持ってこいってよ。」


「こっちの世界にもそういう話はあるんだな。」


 いつの間にやら足を崩しあぐらをかいている青年は、相変わらず俯きながらもその目は憎しみに燃えていた。


「下手に時間をかければ妹はどこの誰ともわからん奴に売り飛ばされて玩具にされる。だから俺はすぐにでも1億用意する必要があったんだ。」


「んで、俺に目をつけたと。」


「そうだ。妹のためなら俺は死んでも良かった。その覚悟で来たんだがな……。」


 ここまで話を聞いて俺はちょっと後悔した。

 これは面倒事に巻き込まれそうな気がしないでもない。


「アンタならガロンゾファミリーを潰せねぇか?」


「言うと思ったけど面倒くさいんだよな……。」


「話は聞かせて貰ったわ!!」


「あぁ……。そうだよねぇ……。」


 そう、俺はこの平原に1人で来た訳じゃない。

 レインとソールももちろん同行している。

 アイツらは散歩してくるって言っていたが、そろそろ帰ってくる頃だと思ったんだよ。

 昼飯の時間帯だからな。


「良かったな青年!!こちらの巫女様がお前の悩みを解決してくれるってよ!!」


「なーに言ってんの!!アンタがやるのよ!!」


「なーんで俺がお前の言うこと聞かなきゃいけねんだよ。」


「あの、一成さん。私からもお願いいたします。なんだか可哀想で……。」


「可哀想って?ソールが不憫で可哀想って事か?」


 そう言うとソールは俺に向かってドロップキックをかましてきたが、痛くも痒くもないので甘んじて受けてやろう。


「いえ、それもそうなんですが、彼の境遇が可哀想で……。」


「レイン。帝国にはこういう連中は腐るほどいる。全てを助けることなんて出来ないし、助けたところでまた新しい被害者と加害者が生まれるだけなんだぞ。それでもやるのか?」


「私の力で助けることが出来るのなら助けます。ですが私は弱いですから、一成さんにお願いするしか無いんです。どうか……。」


 ふぅーっと大きく吸った煙を吐き出し、座っている青年の目線に顔を合わせる。


「って事らしい。どうやらお前は随分運が良いようだな。」


「た、助けてくれるのか!?」


「良いからそいつらのアジトに案内しろ。あと、お前の名前を聞いていなかった。」


「ハリーだ。」


「レインアンタさっきサラッとアタシのこと可哀想って言ったわよね?」


「え、え、そうでしたっけ?」


 人が話しているというのにレインはとぼけながら昼食のサンドイッチを頬張っていた。

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